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技術の粋 氷上を滑走…ボブスレー

 16のカーブを持つ全長1450メートルの「氷の滑り台」を滑降するボブスレー。最高時速140〜150キロ・メートルに達し、氷上のF1と言われるが、勝敗の鍵を握るのは、選手の技術に加え、車体などの性能の差と言われる。選手らは科学者と手を組み、100分の1秒のタイム短縮に挑戦している。

強い車体 音違う

 バンクーバー五輪に向け、日本男子チームが取り組んだのは、航空力学などの専門家らが手弁当で2006年に集まった「ボブスレー工学研究会」との議論だ。「科学的な取り組みなしで世界に対抗できない」と判断したからだ。

 個人技の要素が強いリュージュ、スケルトンに比べ、ボブスレーはソリの性能に差がでる。実際、選手を含めた総重量390キロ・グラム(4人乗りは630キロ・グラム)に制限される中で、様々な工夫が施されるが、各チームとも手の内を見せたがらない。

 「強いチームのソリは音が違う。路面から伝わる凹凸を吸収しているような感じ。振動が少ない」と石井和男コーチは説明する。

シュモクザメ形

 まず取り組んだのは、薄いソリの車体の補強と空気抵抗を減らすデザイン。前方のソリの刃(ランナー)の上部に、シュモクザメのように横に出っ張ったカバーを取り付けた。後部の車体も空気の流れを計算し、選手の背中と車体の高さをそろえるなど、乗り込んだ際に後ろに引っ張る力が働く渦ができないよう配慮した。

 研究会の石井孝雄さん(流体力学)は「空気抵抗の低減はタイム短縮への重要課題だった」と強調する。

 次に工夫したのは、重心の位置。選手が乗り込んだ時に重心が、車体の中心部の低い位置にくるよう、重りで調整。重心がずれると安定性が損なわれ、ハンドル操作が難しくなるからだ。ほかに微妙な操作を可能にするハンドル、振動・横ぶれがしにくい金属、ゴムなどの部品を探し、取り付けた。こうした取り組みで安定感が増し、昨シーズン、チームは、国際大会で上位入賞を果たした。「ソリの操作性は向上した」と石井コーチは語る。

最高のコース取り 分かった!

 もう一つ、工学研究会で議論されたのがコース取りだ。コース取りのミスはタイムに大きく響くからだ。

 研究会が数値計算で出した最適解は、〈1〉カーブ入り口で、バンク(傾斜)の壁を上がり、その後可能な限り直線で走る〈2〉出口もいったん、バンクを上がって位置エネルギーを確保した上で、その後の直線コースを長く滑り、加速する——というものだ。

 「カーブごとに曲率半径が異なり、攻め方の選択、判断は難しい。数値計算が選手たちの役に立てば」と研究会のメンバー、川幡長勝・日大教授は指摘する。現地と研究室とのやりとりは、競技当日まで続くという。

 コース取りの結論は「実は、選手の感覚に近いものだった」(同研究会)。ただ、石井コーチは「ジグザグに滑ることもあるが、スピードを乗せるラインは、一瞬の判断など感覚的な要素もあるので理論通りにはいかない」とその難しさを語る。

 パイロットはわずか0・1秒で3メートル滑走する中で、カーブの入りのタイミングを一瞬で判断する。動体視力は極端に落ち、視野もほとんど狭まる。点の判断と言われる。

摩擦最小限 魔法の刃

 ソリの刃(ランナー)もタイムに与える影響は大きい。石井コーチらは、東北大の堀切川一男教授と高性能国産ランナー開発に取り組んだ。氷との摩擦を最小限に抑えようという試みだ。

 「氷との接触面積が大きすぎると滑りにくくなり、逆に小さすぎても氷に食い込んでしまう。カーブ、直線、傾斜など曲面によってこの最適値も変わる。すべての曲面に合うものを開発しなくてはならない」と堀切川教授は語る。

 長さ約1・1メートル(2人乗り)のランナーは、真っ平らではなく、複数の半径を持つ曲線からできている。直線では、ランナーは中央部の底面20〜30センチの幅で氷と接触する。逆にカーブでは、ランナーの両端に近い2か所で、カーブの曲面との摩擦が低くなるように設計した。

 堀切川教授は、「摩擦を10%減少すれば、ゴールタイムは0・6秒短縮される。けり乗りなどのスタートテクニックでも短縮をねらえる」と語る。

2010年2月21日  読売新聞)


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