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観戦ミニガイド

競歩…「最も過酷な陸上競技」、ルーツに諸説あり

国によって違う人気スポーツ

  • ロンドン五輪・50キロ競歩でバッキンガム宮殿の前を行く選手たち。歩型のルールを知れば、競歩を見る楽しさは倍増する
    ロンドン五輪・50キロ競歩でバッキンガム宮殿の前を行く選手たち。歩型のルールを知れば、競歩を見る楽しさは倍増する

 ところ変われば人気スポーツも変わる。日本ではマイナーな競技でも他の国では大人気ということがある。

 オリンピック発祥の地・ギリシャでは重量挙げの選手に熱狂的な声援が送られる。ブラジルはビーチバレー。世界選手権では男女合わせて11回優勝し、オリンピックでも男女各1回ずつ金メダルを獲得しているから、国民の関心が集まるのも当然だ。

 ハンガリーは水球だ。ハンガリー動乱直後に開催された1956年のメルボルン大会で、対ソ連(当時)戦は流血の死闘となった。その試合を制したハンガリーは国の誇りを守ったのである。

 メキシコの国技はロデオに似た伝統馬術のチャレアーダ(チャレリーア)だが、オリンピック競技では競歩が人気だ。76年のモントリオール大会では20キロで金メダルを獲得した。圧巻は84年ロサンゼルス大会で、20キロはワンツーフィニッシュで金、銀のメダルを獲得。50キロでも金メダルをとった。

 もっとも最近はメキシコ勢が国際大会で活躍することは少なく、台頭する中国や欧州勢の影にかくれている。そんな中、徐々に力をつけてきているのが日本である。リオ大会で悲願の初メダルを獲得できれば、日本でも競歩が一気に人気スポーツになるかもしれない。

エースが無念の失格

 競歩がオリンピック競技になったのは、男子が1906年のアテネ中間大会、正式な大会では08年ロンドン大会からである。最初はトラック競技だったが、32年のロサンゼルス大会からロードの競技(50キロ)となり、56年のメルボルン大会からは20キロも加わった。女子は92年のバルセロナ大会で10キロが始まり、2000年のシドニー大会から20キロに延長された。

 競歩の起源について、『日本大百科事典』(小学館)にはローマ時代の軍事訓練が始まりであるとの説が紹介されているが、ほかに、英国貴族の間で行われていた散歩が競技化したという説もあり、正確なところはわからない。

  • 石川県能美市で2015年3月15日に開かれた全日本競歩能美大会・男子20キロで、世界新記録を樹立した鈴木雄介。リオ五輪は故障で出場権を得られなかった
    石川県能美市で2015年3月15日に開かれた全日本競歩能美大会・男子20キロで、世界新記録を樹立した鈴木雄介。リオ五輪は故障で出場権を得られなかった

 ただ歩くだけの競技だが実態はハードで、「最も過酷な陸上競技」ともいわれる。20キロ競歩の世界記録は日本の鈴木雄介(富士通)が持つ1時間16分36秒。2015年3月に石川県能美市で開かれた全日本競歩能美大会で記録した。1キロを3分49秒8で「歩いて」いる計算になる。たとえ「走ってもいい」というアドバンテージがあったとしても、このペースで長距離を走れる人はほんの一握りである。

 さらに、競歩は歩き方に厳しいルールが定められている。両足が地面から離れると「ロス・オブ・コンタクト」、前足が接地した瞬間から地面と垂直になるまでに膝を曲げると「ベント・ニー」の反則をとられる。

 違反のおそれがあると審判員が判断した時は注意の意味で黄色パドル、明らかに違反していると判断されたら赤カードが出される。赤カードが3枚になると失格だ。

 12年ロンドン大会で男子50キロに出場した日本のエース山崎勇喜は序盤から先頭集団についていたが、18キロ付近で赤カード3枚となり、無念の失格となった。

 このほか、03年にパリで行われた世界選手権では、男子20キロと50キロに日本から合わせて4人が出場したが、このうち3人が失格となっている。

メダルが狙える日本勢~靴下で「完歩」目指した執念の逸材も

  • 今年4月の陸上・日本選手権50キロ競歩で優勝した谷井孝行(右)と荒井広宙。ともにリオ五輪に出場する
    今年4月の陸上・日本選手権50キロ競歩で優勝した谷井孝行(右)と荒井広宙。ともにリオ五輪に出場する
  • 今年2月の陸上・日本選手権20キロ競歩で連覇を果たした高橋英輝(中央)。1時間18分26秒は今季世界ランク1位の好記録。リオ五輪での活躍が期待される
    今年2月の陸上・日本選手権20キロ競歩で連覇を果たした高橋英輝(中央)。1時間18分26秒は今季世界ランク1位の好記録。リオ五輪での活躍が期待される

 リオで日本勢は初のメダルが狙える顔ぶれがそろった。

 男子50キロの谷井孝行(自衛隊)は昨年の世界選手権で3時間42分55秒の好タイムで銅メダルを獲得した。荒井広宙(ひろおき)(同)も3時間43分44秒で同4位に食い込んでいる。残る1人の森岡紘一朗(富士通)はロンドン大会7位の実績を持つ。

 男子20キロでは、世界記録保持者の鈴木は故障で出場しないが、高橋英輝(同)が今年2月の日本選手権で今季世界ランク1位となる1時間18分26秒をマークしている。藤澤勇(ALSOK)、松永大介(東洋大)と合わせて世界ランク3位までを日本勢が独占しており、選手層が厚い。

 中でも松永はまだ21歳。横浜高2年の時、高校総体の5000メートル決勝で、左の靴が脱げるアクシデントに見舞われながらもトップでゴールした。炎天下のトラックを靴下1枚で歩き切った左足は足裏全体に水ぶくれができていた。しかし、直後に失格を宣告され、人目もはばからず泣いた。その悔しさをバネに翌年は文句なしの優勝を果たしており、心の強さは折り紙つき。リオだけでなく、東京も見据えて飛躍が期待される逸材だ。

 女子20キロの日本代表・岡田久美子(ビックカメラ)は日本選手権2連覇中。昨年、北京で行われた世界選手権では25位と振るわず、オリンピックで雪辱を期す。

2016年08月09日 17時58分 Copyright © The Yomiuri Shimbun