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    冬のオリンピックこぼれ話

    5大陸つなぐ歓喜の歌 【1998年 長野】

     横綱・(あけぼの)の土俵入りが披露され、各国選手団の入場行進も終わって迎えた開会式のフィナーレ。長野オリンピックスタジアムの大型スクリーンには、世界各地の風景と人々が映し出され、迫力あるコーラスが一斉に響き渡りました。

     1998年(平成10年)2月7日、冬季オリンピックとしては札幌以来26年ぶり2度目の日本開催となった長野大会。その幕開けを彩ったのが、“世界のオザワ”指揮による5大陸「第九」同時合唱という壮大なイベントでした。

    総勢3000人 18分の“地球シンフォニー”

    • 5大陸「第九」同時合唱でニューヨークの国連会議場から長野へ向けて熱唱する合唱団
      5大陸「第九」同時合唱でニューヨークの国連会議場から長野へ向けて熱唱する合唱団

     深夜のアメリカ・ニューヨークの国連会議場、早朝のドイツ・ベルリンのブランデンブルク門、真夏のオーストラリア・シドニーのオペラハウス、南アフリカ共和国の喜望峰、そして中国・北京の故宮を舞台に、それぞれ200人が出演。開会式会場の2000人と合わせて総勢3000人の大合唱団が、ベートーベンの交響曲第9番の「歓喜の歌」を、海を越えて声を合わせ歌ったのです。

     実はこのとき、指揮者の小沢征爾さん(当時62歳)は、スタジアムから7キロ離れた長野県民文化会館でタクトを振って、オーケストラを指揮していました。5大陸の合唱団は、衛星中継で送られてくる小沢さんの指揮棒に合わせて歌い、その合唱の映像と歌声が長野で一つになって、18分間の“地球シンフォニー”を繰り広げました。

    衛星中継の時差 ピタリと合わせた先端技術

    • 時差の調整装置を使った5大陸同時合唱のリハーサル。テレビ画面の右側に指揮者の小沢征爾さんが映っている(1997年9月11日、東京・渋谷のNHK放送センターで)
      時差の調整装置を使った5大陸同時合唱のリハーサル。テレビ画面の右側に指揮者の小沢征爾さんが映っている(1997年9月11日、東京・渋谷のNHK放送センターで)

     それを実現したのは最先端の放送技術でした。地上3万6000キロの通信衛星を経由するため、映像が長野に戻ってくるまで、場所によって“時差”が生じます。ニューヨークが最大で往復4秒遅れることがわかっていました。そのずれを解消したのが「過去の画像や音声を一定時間までメモリーに貯蔵、さかのぼって再生する」技術だったと、「五大陸の“息”ピタリ」の見出しで読売新聞は種明かしをしています。

     長野オリンピックの3年前、95年1月の阪神大震災の際、揺れ始める直前からNHK神戸放送局の一室をとらえたビデオ映像は、その技術の先駆けだったそうです。

     最も遅いニューヨークの映像が届くまで、他の映像をメモリーに蓄え、追いついたところでスタジアムに一斉に流す装置が開発されました。開会式に先立つ97年9月、東京・渋谷のNHK放送センターで行われたテストで、小沢征爾さんも「これほどぴたりといくとは思わなかった」と最先端技術の威力に満足げだったと、読売新聞は伝えました。

    競技にもハイテク 滑走するカメラや氷中マイク

    • 長野五輪のクロスカントリーで活躍した新型カメラ。ワイヤで支えた台車(手前の白いボックス)にカメラを取り付け、リモコン操作で選手を追った
      長野五輪のクロスカントリーで活躍した新型カメラ。ワイヤで支えた台車(手前の白いボックス)にカメラを取り付け、リモコン操作で選手を追った

     競技の放映でも、長野は放送技術のハイテク化がめざましい冬のオリンピックでした。前回94年に行われたノルウェーのリレハンメル冬季五輪では、スピードスケートで選手と一緒に高速移動するカメラがお目見えし、迫力ある映像に世界が目を見張りましたが、さらに進化したシステムが投入されました。

     スキーの滑降では、一気に加速するスタート直後、ピアノ線を伝ってカメラがグライダーのように時速約90キロで滑走し、選手を追う装置が登場。クロスカントリーでも、ワイヤで支えた台車にカメラを積み、リモコン操作によって、競り合う選手の表情が撮影されました。

     さらにスキーのジャンプでは、カメラの角度に応じて映像に合ったマイクが作動し、滑走や踏み切りの音などをタイミングよく拾うシステムを開発。また、スピードスケートでも、リンクの下に氷中マイクを埋め込み、エッジが激しく氷を切る音を伝えました。「新機材で選手に迫る」の見出しで、長野での取り組みを読売新聞は紹介しています。

     しかし、そうした日本の技術者たちの努力に水をさす出来事も、海外ではありました。

     長野オリンピックの開会式が夜のゴールデンタイムに中継されたアメリカでは、テレビCMが入って「5大陸を結ぶ『第九交響曲』の合唱もズタズタ」となり、「合計6分以上中断」。米国選手のインタビューも2分以上流され、「合唱団がテレビ画面に映ったのは全18分間のうちほぼ半分」だったと、読売新聞はニューヨークから伝えました。

     ともあれ平昌オリンピックでは、世界中の人たちがテレビ観戦します。開・閉会式の感動的シーン、そして選手たちの熱いドラマを、臨場感あふれる映像と音声で伝えようと、舞台裏では放送エンジニアたちが奔走しています。(データベース部 武藤泰之)

     記事データベース「読売記事検索」で関連記事を読むことができます。5大陸「第九」同時合唱の関連記事は、「平成」のタグを選び「長野五輪 開会式 第九」で検索を。「読売記事検索」はこちらから。

     1924年(大正13年)の第1回大会以来、今回の韓国・ 平昌 ( ピョンチャン ) で23回目を迎える冬季オリンピック。雪と氷の祭典の長い歴史には、笑いや涙を誘うエピソードもたくさん詰まっています。読売新聞の過去の記事を振り返り、異色の選手、思わぬ結末、式典の舞台裏など、観戦の楽しみが増す「こぼれ話」を拾い上げ紹介します。
    2018年02月12日 16時15分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

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    記録は時事 ©IOC 2018 Copyright © JIJI PRESS Ltd. All Rights Reserved.
    OARはロシアからの五輪選手
    日本の獲得メダル 4 5 4
    国別メダル
    1 norノルウェー 14 14 11
    2 gerドイツ 14 10 7
    3 canカナダ 11 8 10
    7 kor韓国 5 8 4
    11 jpn日本 4 5 4

    2/25 17:17

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