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[プロジェクト TOKYO 2020]酷暑 選手も観客も…マラソン 終盤に高リスク

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 2020年東京五輪の開催期間は、7月24日~8月9日。梅雨が明けたばかりの湿度が高い酷暑のなかで競技が行われる可能性が高い。屋外観戦で最も心配されるのが、観客らの熱中症だ。最新の気象予測技術に期待がかかる一方、現地を調査した専門家の分析では特に注意を払うべき観戦地点も明らかになってきた。

 

 暑さ指数実測

 樫村修生・東京農業大教授(63)らの研究チームは、マラソンコースや新国立競技場など、屋外の主な競技場所で、熱中症の目安となる「暑さ指数」を夏場に実測し、リスクの分析を進めてきた。

 8月2日に女子、9日に男子が行われるマラソンは、午前6時が号砲だ。チームは昨年7月下旬~8月上旬、晴天となった3日間で、5キロ・メートル地点ごとの暑さ指数を予想通過時刻に合わせて測った。スタート時、既に「厳重警戒」の28度近くになっていた日もあり、レース後半の40キロ・メートル以降では、「危険」の31度を超えた日が2日あった。

 

 すし詰め

 銀座など日光の照り返しが強い観戦場所も多い。コースはいくつか折り返しがあり、沿道には選手を複数回見られる場所もある。神保町交差点付近は、3回にわたって選手が通る絶好の観戦場所だが、暑さ指数も高く、熱中症リスクが懸念される。レース終盤40キロ・メートル付近からゴールまでの沿道も待ち時間が最も長く、暑さ指数の高い環境にすし詰め状態で長時間さらされる可能性があるという。

 新国立競技場やサッカーの会場となる横浜国際総合競技場(横浜市)など7会場で実施した暑さ指数の計測では、4会場で「危険」レベル、3会場で「厳重警戒」レベルだった。

 樫村さんは、「体温調節がうまくいかない高齢者や子供、暑さに慣れない海外からの客は特に注意が必要。屋外観戦をあきらめる勇気も必要だ」と警告する。

 

緑化効果 スパコンで予測

 都心部に熱がこもる「ヒートアイランド現象」などに悩む都市部で、いかに効率的な暑さ対策を講じるべきか。近年、スーパーコンピューターで緑化などの効果を予測する技術が登場し、実際の都市計画にも導入され始めた。

 海洋研究開発機構の研究チームは、スパコン「地球シミュレータ」を使い、樹木による暑さ緩和の効果まで精密に計算できるシステムを開発。埼玉県は、この技術を使い、厳しい暑さで知られる同県熊谷市の公園での暑さ対策を検討した。その結果、植栽の配置などを工夫することで、園内の気温が最大0・9度下がり、暑さ指数の「厳重警戒」以上のエリアは20%も減ることがわかったという。

 大西領・同機構グループリーダー(41)は「日本だけでなく、アジアの都市開発などにも生かしたい」と話す。

 

 ◆暑さ指数=熱中症予防を目的に米国で考案された指標。単位は度(℃)。人体と外気との熱のやりとりに関係する気温、湿度、日差しなどのデータを基に算出され、気温とは異なる値になる。指数が28度を超すと、熱中症患者が急増する傾向にある。

 

[Fromアスリート]侍 雨にも備える

雨中の甲子園での試合で転倒し、泥まみれになったDeNAの筒香嘉智選手(2017年10月15日)
雨中の甲子園での試合で転倒し、泥まみれになったDeNAの筒香嘉智選手(2017年10月15日)

 五輪の野球・ソフトボール会場の福島県営あづま球場と横浜スタジアムは、いずれも人工芝の屋外球場だ。野球は7月29日に始まり、決勝と3位決定戦の8月8日まで、試合の予定がないのは同7日の1日のみ。過密日程のため、雨天中止をできるだけ避け試合を強行するケースもあり得る。

 日本代表「侍ジャパン」の一員として今年3月の強化試合でも活躍したDeNAの左腕、今永昇太投手(25)は「雨の日には雨用の投球がある」と明かす。マウンドの土のぬかるみがひどくなると、いつも通りの歩幅で右足を踏み出せば滑りやすくなるため歩幅を少し狭める。「雨でもしっかり勝てる投球」を目指すため、理想的なフォームは求めない。ただ「決して良い投げ方ではないから、(晴天の)次の試合には引きずらないように」と心がける。

 野手はどうか。オリックスの勝呂寿統ひろのり・内野守備走塁コーチ(55)は、特に雨の人工芝の場合はバウンドした球が滑って球足が速くなりがちなため、〈1〉早めに捕球体勢を作る〈2〉ワンバウンドで送球する際は、捕球する相手から普段より遠い位置で弾ませる――などと指導する。

 今秋の国際大会「プレミア12」に向け選手選考を進める「侍ジャパン」の稲葉篤紀監督(46)は、「試合前の練習が十分にできない時や雨中のプレー、色々な状況に動じない強さ、対応力は大事」と話す。

 その指揮官は「休日のゴルフの時も雨はあまり降らない。晴れ男といえば、そうなのかな」と笑う。さて、来夏の天気はいかに――。

 

豪雨予測 最新レーダー…予報「名人芸」AIで進化

 奇跡の青空

埼玉大に設置された最新鋭の気象レーダー
埼玉大に設置された最新鋭の気象レーダー
埼玉大のレーダーで捉えた関東上空の雨雲の3次元イメージ(2018年8月27日午後7時半過ぎ)。赤い領域で雨が強い。観測範囲は半径60キロ・メートル(灰色の円)=東芝インフラシステムズ提供
埼玉大のレーダーで捉えた関東上空の雨雲の3次元イメージ(2018年8月27日午後7時半過ぎ)。赤い領域で雨が強い。観測範囲は半径60キロ・メートル(灰色の円)=東芝インフラシステムズ提供

 <十日、東京の空は日本晴れ。きのうまでの灰色にとって変わって、抜けるような紺ぺきが空をおおった>。1964年10月10日の読売新聞夕刊には、その日、雲一つない青空の下で始まった東京五輪開会式の様子が描かれている。

 「奇跡」と言われたこの青空は、五輪開催日程の選定に関わった気象庁にとっても「天佑神助てんゆうしんじょ」だった。

 過去の統計などから秋晴れを期待して決定された日程だが、10月前半はまだ秋雨の季節で、開会式が晴れる確証はなかった。聖火が東京都庁に到着した9日も時折雨が降った。10日の予報は「晴時々曇」だったが、「外れるのでは」との電話が気象庁に相次いだと、当時の予報官が日本気象協会の雑誌「気象」(廃刊)に書き残している。

 五輪の5年前、同庁初の大型電子計算機(IBM製)が導入されたが、実際の予報は天気図や空模様から予報官が判断していた。73年に気象庁に入り、長年、予報業務にあたった饒村曜にょうむらようさん(68)は「名人芸の世界だった」と話す。

 それから約半世紀。五輪記録が次々と更新されたように、予報のための道具も進化した。70年代、全国に気象レーダー網が展開し、気象衛星での観測も始まった。平成時代にはスパコンで大気の状態を予測する数値予報が飛躍的に向上し、欠かせないものとなった。

 

 降り出す前に

 そして2020年、気象予測はさらに進化する。17年には埼玉大工学部(さいたま市桜区)に、最新のレーダーが設置された。観測対象は、局地豪雨をもたらす積乱雲だ。

 積乱雲は10分程度で急速に発達する。従来のレーダーは、積乱雲の形状把握に少なくとも5分かかり、予測が遅れることもあった。最新レーダーは2種類の電波を使い、わずか30秒程度で「積乱雲の卵」を捉え、降り出す前の豪雨予測が可能となる。

 観測範囲は半径60キロ・メートル。オリパラ会場の大半をカバーする。レーダーでの予測・解析に取り組む防災科学技術研究所(茨城県つくば市)などは、五輪本番での実用化を目指す。

 人工知能(AI)も新たな武器に加わり、天気予報は、さらに進化しようとしている。

 今も気象予報士として活躍する饒村さんの「未来予報」はこうだ。「前回五輪の頃の予測範囲はせいぜい『東京』だったが、今は『競技会場』まで絞り込める。五輪を契機に、気象予測は『個人向け情報』に変わるだろう」

 

[DATA]43.3℃…2100年夏 東京の最高気温

これまでの国内最高気温は埼玉県熊谷市の41.1度
これまでの国内最高気温は埼玉県熊谷市の41.1度

 国立環境研究所などが監修し、環境省が今月公開した動画「2100年 未来の天気予報」に出てくる、同年夏に予想される東京での最高気温だ。温暖化対策が十分に取られないとした場合の予想で、全国各地で夏の最高気温は40度以上となり、熱中症などによる死者は1万5000人を超える。冬でも、東京の最高気温は26・0度になると予想している。

 気象庁によると、地球温暖化などの影響で、最高気温が35度以上の「猛暑日」は、1990年代半ば頃から増えている。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書は、何も対策せずに温暖化が進んだ場合、今世紀末の世界の平均気温は、2000年頃に比べ最大4・8度上昇すると予測する。

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 科学部・野依英治、伊藤崇、運動部・宮崎薫、写真部・加藤学、鈴木毅彦が担当しました

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707022 1 東京オリンピック2020速報 2019/07/25 05:00:00 2019/07/25 05:00:00 2019/07/25 05:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/07/20190724-OYT1I50065-T.jpg?type=thumbnail
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