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[プロジェクト TOKYO 2020]復興の今 伝える種…震災支援に恩返し

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 東日本大震災で宮城県内では1万565人が死亡、1220人が行方不明となった。佐藤愛梨あいりちゃん(当時6歳)が犠牲となった同県石巻市は、児童・教職員84人が犠牲になった市立大川小で大きな被害が出るなど3552人が亡くなり、420人の行方がいまも分かっていない。

 悲劇が再び起こらないようにと菅原淳一さん(55)は講演会を開き、フランス菊の「あいりちゃん」の種を配って防災の大切さを訴える活動を続けている。

サッカー会場に

 「来年は県内で復興五輪が開かれる。もっと、多くの人に命の大切さを伝えたい」。菅原さんは今月21日、県内の講演会で語りかけた。愛梨ちゃんの母美香さん(44)も登壇し、終了後、参加者に花の苗を渡した。苗は10月、五輪のサッカー会場となる宮城スタジアム(利府町)周辺の花壇に植えられる。5~7月に咲く花をスタジアム周辺でいっぱいにし、来場者をもてなす。菅原さんたちの思いだ。

 利府町はほかの沿岸部と比べて被害が小さく、当初は花を広める活動に消極的だった。開催が迫り、活動が各地で広がると理解は深まっていった。小学校や町内会で苗が植えられた。最寄り駅周辺やスタジアムまでの道にも並べられるよう町に協力を求めていく。

 講演会は約2年で13都府県約70か所で行われ、参加者は延べ1万2000人を超えた。配った種や苗は各地に広がり、東京五輪のトライアスロンコース(東京・お台場)わきに植えられた苗は、花を咲かせた。

 菅原さんたちは2024年パリ大会に思いを届けようと、押し花にしたあいりちゃんを入れたメダルを試作中だ。来年、フランスの代表選手たちに渡せないかと考えている。講演活動も続け、防災の重要性を訴えていく。それが震災で支援を受けた国内外の人たちに対する恩返しになる。

 

若者の活躍 レガシーに

「被災地でこそ、五輪のレガシーを」と学生たちと活動する蓮沼さん(右から2人目)(17日、福島市金谷川の福島大で)
「被災地でこそ、五輪のレガシーを」と学生たちと活動する蓮沼さん(右から2人目)(17日、福島市金谷川の福島大で)

 被災地でこそ、レガシー(遺産)を残す。福島大准教授の蓮沼哲哉さん(42)は東京五輪を「人づくりと地域づくりのチャンス」と位置付ける。福島県出身。中高で野球、大学でトライアスロンに挑戦し、指導者として五輪を目指すが、レガシーへの思いは強い。きっかけは震災での挫折にある。

 高校教諭だった2010年、陸上競技部顧問として、やり投げの男子生徒をインターハイに導く。だが、翌年の原発事故で学校ごと避難。生徒は練習を続けたが、最後のインハイ出場は果たせなかった。

 無力さを感じた蓮沼さんは福島大大学院で学び直すと、13年に東京五輪が決まった。「復興五輪」。福島を元気にできると感じ、「スポーツの力」を生かそうと動き出した。同大で16年から教べんを執り、授業で学生にスポーツイベントを企画運営させ、発想力や行動力を身に付けさせた。

 レガシーとして、地域支援につなげる思いがあった。学生たちは原発事故で閑散とする沿岸部を訪ね、活性策を住民と考えた。結果、16、17年は同県いわき市、18年からは同県相馬市の海水浴場でビーチバレーボール大会などのイベントを開催。今年は28日の本番に向けて準備を進める。

観光回復に一役

 相馬市は観光客数の回復に向け、スポーツを起爆剤にしたい考え。市観光協会は「ここからオリンピアンを輩出し、『ビーチバレーの聖地』に」と夢を描く。

 学生の意識も変わってきた。イベント実行委員長の福島大3年八木沢亮太さん(21)は「役目は地域支援。復興を下支えしている実感はまだないが、五輪を機に行動した経験はいつか役立つ」と話す。学生の活躍は、人材というレガシーもまた残せたことになる。

 

ボランティアが「語り部」

英語の研修を受ける参加者ら(福島市で)
英語の研修を受ける参加者ら(福島市で)

 東京五輪の競技会場がある宮城、福島県では、県募集のボランティア3500人以上が大会を支える。

 2020人(定員1300人)から応募があった宮城県は、震災の記憶や復興の姿を伝える「語り部」枠(90人)を設けた。津波で両親を亡くした同県塩釜市の主婦高橋匡美さん(53)は2014年に震災体験を語るスピーチコンテストに出場したのを機に、地元の語り部の会に参加し、応募。語り部の会で外国人と話す機会も増えており、「世界の人に震災は怖いものと知ってもらうきっかけになれば」と話す。

 福島県は応募があった2281人を全員採用した。今後、県内の文化や歴史、震災と原発事故後の状況などの研修を行う。震災から8年余。岩手、宮城、福島県に駆けつけたボランティアは、延べ150万人を超える。福島市の高校3年鈴木真宝まほさん(18)は「恩返しの気持ちで世界中から訪れる人たちを迎える」と意気込む。

 

スポーツ大会で発信

 岩手、宮城、福島の3県では、東日本大震災以降、様々なスポーツイベントが開かれている。復興状況を知ってもらう格好の機会にもなっている。福島県の「相馬復興サイクリング」は、津波で被災した沿岸部を通るのが特徴。鈴木一弘・大会実行委員長は「風評被害は根強くあり、全国の人に参加してもらい、復興に向けて頑張る姿を見てもらいたい」と話す。宮城県の「東北・みやぎ復興マラソン」は全国からランナーが集まり、仙台平野を駆ける。岩手県ではラグビー・ワールドカップ会場の釜石市を中心に、関連イベントが開かれている。

 

[From アスリート]なでしこ遠藤 勇気届ける

 東京五輪を目指す選手の中には、震災に見舞われた東北出身者も多くいる。サッカー女子日本代表(なでしこジャパン)のFW遠藤純選手(19)(日テレ)もその一人で、6月のワールドカップ(W杯)フランス大会に出場。故郷への思いを胸に1年後を見据えている。

 東日本大震災が起きた時、福島県白河市に住む小学4年生だった。教室から校庭に慌てて避難し、家族の迎えを不安な気持ちで待った。坂の上の自宅に大きな被害はなかったが、坂の下の方ではたくさんの家が崩れていた。

 余震は収まらず、原発事故も起きた。屋外でのサッカーは禁止され、体育館で練習をするのが精いっぱい。「やめようかな」。気分は落ち込む一方だった。

 だが震災から数か月後、W杯ドイツ大会でなでしこジャパンが初優勝を飾った。「私も世界一になってみたい」。おのずとやる気がわき起こった。

 翌年、日本が銀メダルを獲得したロンドン五輪を現地で観戦して、思いはさらに強まった。中学から、静岡に拠点を移したJFAアカデミー福島に進み、日テレに入団。チーム最年少でW杯のメンバー入りを果たした。

 6月末、フランスでの戦いを終えると、すぐに故郷に帰り、多くの子供や関係者に感謝を伝えた。W杯の間、故郷の人たちが応援してくれていることを知っていたからだ。「私が楽しそうにプレーしている姿を見て、子どもたちに元気になってほしい」。かつて、自分がもらった勇気と感動を、1年後に届けると誓っている。

 

[DATA]8…競技を開催する道県

自転車の会場・伊豆ベロドローム
自転車の会場・伊豆ベロドローム

 2020年東京五輪の地方会場は震災被災地の宮城、福島と、北海道、茨城、埼玉、千葉、神奈川、静岡の計8道県が舞台になる。

 千葉県では、千葉市の幕張メッセでレスリングやテコンドー、フェンシングを行うほか、一宮町の釣ヶ崎海岸が新競技のサーフィン会場となる。静岡県では、伊豆市の伊豆ベロドロームなどで自転車競技が行われる。そのほか、山梨県道志村などは自転車競技(ロードレース)のコースの一部となる。

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708705 1 東京オリンピック2020速報 2019/07/26 05:00:00 2019/07/26 05:00:00 2019/07/26 05:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/07/20190725-OYT1I50075-T.jpg?type=thumbnail
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