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[プロジェクト TOKYO 2020]<4>先端映像 晴れ舞台

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8Kの巨大画面を背に、打ち合わせするNHKの清藤寧さん(左、東京都渋谷区で)
8Kの巨大画面を背に、打ち合わせするNHKの清藤寧さん(左、東京都渋谷区で)

8K 色彩再現「目の99%」

 空撮くっきり

 今月19日、東京都渋谷区の複合ビル「渋谷ヒカリエ」9階ホール。その一角に設置した縦5・4メートル、横9・7メートルの画面に、キリスト像が映し出された。

 2016年のリオデジャネイロ五輪の際、高さ40メートル近い像の上から空撮した映像だが、巨大な画面なのに超高精細なため、台座の周りの豆粒ほどに見える人々が背負っているリュックがくっきり確認できる。

 映し出されたのは8K映像だ。発光ダイオード(LED)で表面を覆った縦45センチ×横40センチの基板を、ミリ単位の誤差もなく計288枚積み上げて画面を構成している。機器の規格上でいえばハイビジョン映像は目で見た色彩を74・4%までしか映し出せないが、8K映像では99・9%まで可能だ。アスリートたちの一瞬の表情の変化についても鮮明な映像が期待できる。

 「各会場から8K映像を世界に発信したい」。来夏の東京五輪で、NHKは全国十数か所の会場で8K映像によるパブリックビューイング(PV)を展開する予定で、清藤せいとうやすしさん(57)は総責任者だ。

 報道番組のプロデューサーだった清藤さんは東京五輪決定を受け、2014年に4K8K衛星放送普及の旗振り役を任された。「最初の3か月は専門用語をゼロから勉強する日々だった」

 

 試行錯誤

 同局は12年のロンドン五輪をテストケースにして、PV会場で8K映像を発信してきた。当時の画面は台座も含めて約500キロ。現在の10倍だ。14年のサッカーワールドカップ(W杯)ブラジル大会では会場のビルにクレーンで運び入れた。

 16年のリオデジャネイロ五輪では、現地に専用中継車を投入するなど東京大会を想定した態勢で臨んだ。日本で4K8K映像のテスト放送がスタートしたため、開閉会式や陸上、競泳、柔道などの中継を、各地の放送局などで公開。東京、大阪の計6か所でPVも実施し、約7万5000人が地球の真裏から届く鮮明な映像を目の当たりにした。

 現地で中継を担当していた清藤さんだが、ヒヤリとするハプニングが起きた。「ピントが合っていないのではないか」。PV会場で映像を見た映像機器分野の評論家からそう指摘されたと、東京から連絡が入った。

 当時は試行錯誤の真っ最中だった。数日かけて、会場のスクリーンが空調の風でたわんだことが原因と判明。以来、スクリーン上映では裏側を固定している。

 制作上の課題も残されている。通常のカメラよりもピントの調整が困難で、撮影者の技量のほかに中継車などでのサポートも必要になることもある。

 「8K映像を通じて日本の技術力を世界に示したい」。地道な作業が続く。

 

PV・スマホ・TV 3通りで楽しむ

 「2019年度末に聖火リレーが始まる。そのあたりにはスタートしたい」。NHKのテレビ番組を放送と同時にインターネットで配信する「常時同時配信」の実施時期について、上田良一同局会長は、そう再三説明し、並々ならぬ意欲を示してきた。

 受信料で支えられたNHKに対し、広告収入が経営基盤の民放各局は同時配信に慎重だった。視聴率を下げる懸念があり、配信の広告収入はまだ微々たるものだからだ。2008年の北京大会から無料動画サイト「gorin.jp」を共同開設したが、放送しない競技の中継やハイライト動画の配信にとどまってきた。

 だが、18年冬の平昌大会でプライム帯(午後7~11時)を除く同時配信に踏み切ると、過去最高のアクセス数を記録。東京大会の放送・配信計画は調整中だが、ほぼすべての注目競技が同時配信される可能性が高い。無料動画配信サービス「TVer」でも「gorin.jp」の動画が視聴できることが決まった。

 大型スポーツイベントでは、日本テレビが昨年から「東京箱根間往復大学駅伝競走」(箱根駅伝)の同時配信を行っている。放送と配信の相乗効果なのか、今年の中継番組の平均視聴率(ビデオリサーチ調べ、関東地区)が往路、復路とも史上最高に達する副産物も生んだ。

 同局で東京五輪・パラリンピックを担当する市川浩崇チーフ・プロデューサーは語る。「競技場やパブリックビューイング(PV)会場で応援し、行き帰りにスマートフォンで配信動画をチェックし、自宅ではテレビで見る。3通りの観戦で楽しむ大会になる」

 

64年東京 初のカラー、衛星中継…「技術のショーケース」

 1964年の東京五輪開会式では、飛行機雲によって五輪マークが秋晴れの空に描かれた。その様子がテレビ中継され、米紙ニューヨーク・タイムズが<映像は非常に鮮明>などと絶賛。「視聴者は、日本の技術の進歩を確信しながら中継を食い入るように見た」。日本テレビで編成担当として東京大会に携わった隅井孝雄さん(83)は、懐かしそうに振り返った。

 テレビ映像は五輪とともに進化してきたともいえる。元NHKディレクターの杉山茂さん(83)も「オリンピックは映像技術のショーケースだった」と語る。

 36年のベルリン大会でラジオによる実況生中継が行われた。60年のローマ大会では、VTRを空輸して日本に映像を届けて放送。その一方で短波を使っての速報が初めて行われたが、不鮮明な途切れ途切れの映像になってしまった。

 そして64年の東京大会。当時は「宇宙中継」と呼ばれていたが、米国の人工衛星を通じてテレビ電波を中継し、欧米にも映像を届けた。日本では五輪史上初のカラー放送も行われた。隅井さんは「東京大会での衛星中継が、これほど世界に大きな影響を与えるとは誰も思っていなかった」と明かす。

 その後、大会のたびに新技術が五輪放送を彩ってきた。スキージャンプの「日の丸飛行隊」が大躍進した72年の札幌大会では、完全カラー中継が実現。2004年のアテネ大会では地上デジタルでの放送となった。

 来夏の東京大会は4K8K映像での中継が予定されている。隅井さんは「もう一度、世界中の人が日本の技術の進歩を実感するだろう」と期待を込めた。

 

[Fromアスリート]3D解析 AI採点

あん馬のデモンストレーションを行う選手。左上のモニターには、3Dレーザーセンサーで取得されたデータが表示されている
あん馬のデモンストレーションを行う選手。左上のモニターには、3Dレーザーセンサーで取得されたデータが表示されている

 「ドリーム・カム・トゥルーではなく、ジョーク・カム・トゥルーだ」。国際体操連盟(FIG)の渡辺守成会長(60)が、講演会などで話すお決まりのフレーズだ。ジョークとは、AI(人工知能)が体操の採点を行うこと。1年後の東京五輪では、富士通の採点支援システムが審判をサポートする。

 きっかけは、2015年。まだFIG理事だった渡辺氏が同社担当者に「世界の体操関係者は、技術の進んだ日本では、20年にはロボットがジャッジするとうわさしてるよ」と冗談を言ったこと。担当者が真に受け、開発チームが結成された。

 仕組みはこうだ。選手の動きを立体的に解析する「3Dレーザーセンサー」が、毎秒230万点のレーザーを選手に照射し、関節の位置を把握。男女合わせて1350以上ある技を覚えたAIが、瞬時に宙返りやひねりの回数、動きの正確性を判別し、技名や難度を導き出す。

 システムが生きるのは、判定が微妙なケース。360度から立体的に選手の動きを確認できる「マルチアングルビュー」で体の角度などを見返すことができるため、日本体操協会前審判委員長の竹内輝明氏は「微妙だった判定がよりクリアとなり、審判の公平性も保たれる」と期待を込める。

 恩恵は観戦者にもある。取得したデータを即時にテレビ放送用にも使えれば、視聴者がルールを知り、競技の奥深さに触れるきっかけになり得る。リオデジャネイロ五輪金メダリストの白井健三選手(22)(日体大大学院)は「見る技術も進歩していけば、体操界はもっと発展する」と歓迎する。

 

[DATA]127万台…4K8K受信機の国内出荷数

 一般的なハイビジョンテレビは2K映像で、画像の鮮明さを示す解像度の基準となる画素数は約200万。画素数が高まるほど立体感が増し、一層リアルな映像になる。4Kは約800万、8Kでは約3300万で、それぞれ2Kの4倍、16倍の解像度になる。

 昨年12月にスタートした4K8K衛星放送の普及推進を図る放送サービス高度化推進協会によると、国内の4K、8Kのテレビやチューナーなどの出荷・設置数は、今年6月末時点で127万3000台となっている。市販されている8Kテレビの画面は60~80インチが一般的。

          ◇

 文化部・井上晋治、星野誠、浅川貴道、運動部・増田剛士、写真部・池谷美帆が担当しました

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710951 1 東京オリンピック2020速報 2019/07/27 05:00:00 2019/07/27 05:00:00 2019/07/27 05:00:00 8Kの巨大画面を背に、打ち合わせするNHKの清藤寧さん(左)(19日、東京都渋谷区で)=池谷美帆撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/07/20190726-OYT1I50064-T.jpg?type=thumbnail
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