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[プロジェクト TOKYO 2020]<5>仕事場 自在に

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 2020年東京五輪・パラリンピックは、日本人の「働き方」を変える契機だ。時間や場所にとらわれない新たなスタイルが無形のレガシー(遺産)となる可能性を秘めている。

テレワーク tele+work 大会中 ラッシュ緩和

 今月22日午後。富士通社員の喜多昌之さん(40)は、ワイシャツにノーネクタイのクールビズ姿で、「おしゃれな図書館」を思わせる空間にいた。

 周囲では、喜多さんと同じ営業や総務職の男女がノートパソコンを広げている。みんな仕事の合間の一休みに立ち寄ったわけではない。同社が本社(東京都港区)から約14キロ離れた川崎工場(川崎市中原区)内に設けた、社員向けの「サテライトオフィス」だ。

 1年後に迫った東京大会では、東京都内の交通混雑が予想されている。国内外から訪れる延べ1000万人超の観戦客と大会スタッフらで、鉄道の利用者は1割増え、首都高速道路の渋滞は2倍に。国や都は今月22日から9月6日にかけ、自宅やサテライトオフィスを仕事場とすることで、車や公共交通機関の利用を減らすことを目的に「テレワーク」を実施するよう企業・団体に呼びかけている。

 富士通が全社員3万5000人を対象にテレワークを導入したのは、17年4月。支給のノートパソコンを使って、自宅やサテライトオフィスなど社外での終日勤務を週2日まで認めた。現在は首都圏を中心に、他社との共用を含め約240か所のサテライトオフィスを持つ。

 喜多さんの自宅は都内にある。港区の本社に通勤後、得意先を回って再び本社に戻って帰宅するより、自宅と得意先間を回る合間にサテライトオフィスで報告書をまとめる方が、効率は良い。

 「サテライトオフィスではテレビ会議もできる。空いた時間や休暇を利用して今後、ボランティアなどにも取り組みたい」と話す。

ロンドン8割

 国内の企業のテレワーク導入率は低い。米国の7割強(17年)に対し、総務省が従業員100人以上の企業を対象に実施した18年の調査では、19・1%にとどまる。情報漏えいや顧客対応への支障、労務・人事評価が難しいといった不安が、導入をためらわせている。

 しかし、日本テレワーク協会の富樫美加事務局長は、12年ロンドン大会の成功を例に「まずやってみることが大切」と訴える。

 東京と同じく交通混雑が懸念されたロンドンでは、大会期間中、市内の企業・団体の8割がテレワークを実施。ロンドン商工会議所の調査では、実施企業・団体の5割以上が「ワーク・ライフ・バランスや従業員満足度が上がった」と答えたという。

働き方変革

 国内でも、総務省の呼びかけで昨年7月の5日間にテレワークを行った1682企業・団体で、残業時間が45%減ったというデータがある。都は、企業への専門家の無料派遣や費用の補助で導入を後押し。東京海上日動火災保険は日本マイクロソフトと共同で、テレワーク中の情報漏えいによる損害賠償金などを補償する「テレワーク保険」の提供を昨年2月に始めた。

 テレワークや時差通勤(時差ビズ)を含む新しいワークスタイルの確立と、交通混雑緩和を目指すプロジェクトを、都は今年から「スムーズビズ」として提唱。14年前、環境相としてクールビズを定着に導いた小池百合子知事は「スムーズビズは、クールビズの第2弾」と力を込める。

リゾート地で休暇&仕事 ワーケーション work+vacation

 環境変え「発想力高まる」 ビーチや温泉

爽やかな風が吹き込むオフィスで打ち合わせをする網野さん(左)とギックスのスタッフら(和歌山県白浜町で)
爽やかな風が吹き込むオフィスで打ち合わせをする網野さん(左)とギックスのスタッフら(和歌山県白浜町で)

 リゾート地で休暇を楽しみながら仕事もこなす――。テレワークの進化型として「ワーケーション」が注目を集める。

 東京・羽田空港から南紀白浜空港まで1時間余り。太平洋に面した和歌山県白浜町は、ビーチや温泉で知られる関西屈指の観光地だが、ワーケーションの先進地としての顔も持つ。

 東京都内の戦略コンサルティング・データ分析企業「ギックス」は7月の1か月間、社長の網野知博さん(46)を先頭に15人の社員のほとんどが、交代で白浜町で仕事をする。オフィスは、町が建て替えた公園管理事務所の2階の一室(60平方メートル)。プリンターや無線LANなどが備えられている。三菱地所(東京)がワーケーション用オフィスとして、5月に貸し出しを始めた。

 ワーケーションに参加する社員には、白浜までの往復交通費を支給し、就業日のホテル代も負担する。休日に家族を呼び寄せ、白浜のレジャー施設にパンダを見に行く社員もいるという。

 網野さんは「ここでは私も社員も、仕事の進捗しんちょくが明らかに速い。東京とは違う環境が、発想力を高めてくれる」と話す。ギックスは、ワーケーションを取り入れていることが、人材獲得にも強みになるとみて、近く正式に社内制度化する。

受け入れ広がる ワーケーションは、受け入れる地方の自治体にもメリットがある。地元に滞在費が落ち、将来の移住者や企業移転のきっかけになることも期待できる。和歌山県と白浜町は2017年から、セキュリティーを施したオフィスを整備。17、18年度には、首都圏などの49社567人が同町と周辺自治体に滞在した。

 今月18日には、ワーケーションの普及を目指すフォーラムが都内で開かれ、出席した和歌山県の仁坂吉伸、長野県の阿部守一の両知事が、自治体協議会の設立を呼びかけることで合意。すでに両県のほかに三重県と鳥取県、神奈川県鎌倉市、長崎県五島市など2県41市町村が賛同を表明している。

 実践女子大の松下慶太准教授(情報社会論)は「仕事と休暇が刺激し合うワーケーションは新しい働き方の一つだ。ただ、社員個人にワーケーションを認める場合は、休暇への『持ち込み労働』のないような制度設計や労務管理体制の構築が経営者には求められる」と話している。

ALSOKの伊調馨選手(左)と大橋正教監督
ALSOKの伊調馨選手(左)と大橋正教監督

[Fromアスリート]自社CM登板 企業の顔

 バブル経済の崩壊は企業スポーツにも打撃を与え、選手の雇用環境は厳しくなった。それでも、五輪で活躍する選手の知名度を企業が利用しない手はない。その代表格がALSOKだ。

 転機は2001年、前年のシドニー五輪で金メダルを獲得した柔道の井上康生さん(41)の入社だった。当時は日本オリンピック委員会(JOC)がアスリートの肖像権管理を徐々に緩和しており、自社のテレビCMへの起用が容易になった。武骨なイメージの井上さんが演技を見せるなど徐々にコミカル路線に転じると、05年に入社した吉田沙保里さん(36)らが引き継ぎ、まさに「企業の顔」となった。大橋正教・レスリング部監督(54)は「吉田本人が積極的にやってくれて会社も助かった」と懐かしむ。

 ブランドイメージは選手にも好影響を与えている。高谷惣亮そうすけ選手(30)は「ALSOKと言えばエリート集団。結果を出して認められたいという思いでやってきた」。吉田さんや伊調馨選手(35)らに続けと奮起し、東京五輪では3大会連続の五輪出場を目指す。

 同社は28人の「スポーツ強化選手」を抱えるが、練習場は所有していない。一般的に自前の練習場が必要な団体球技などとは異なり、格闘技などの個人競技は、環境が整備され練習相手も多い大学に卒業後も拠点を置きたい選手が多い。経費を抑えたい企業と思惑が一致する。

 JOCも就職難のトップ選手に企業を紹介する事業「アスナビ」を行っており、10年以来、300人近くの就職が決まった。アスリートの持つ爽やかなイメージと練習に真剣に取り組む姿勢は、いつの時代も企業やその顧客を引きつける。

[DATA]3.4兆円 GDP押し上げ効果

 みずほ総合研究所(東京)の推計では、テレワークの普及による国内総生産(GDP)の押し上げ効果は、3兆4000億円。2018年度の名目GDP(550兆円)の0.6%に相当する。

 このうち3兆円分は、出産・育児や介護で働きたくても働けない107万人が月に10日間、1日5時間テレワークで仕事をする場合に創出される。

 残り4000億円分は、17年に9%だった勤務先の制度を使ったテレワーク利用者が、政府が目標に掲げる20年の15.4%を達成した場合に生まれる。新たに87万人が通勤時間を仕事に充てることが見込まれ、生産性が高まるという。

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711956 1 東京オリンピック2020速報 2019/07/28 05:00:00 2019/07/28 05:00:00 2019/07/28 05:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/07/20190727-OYT1I50065-T.jpg?type=thumbnail
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