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[プロジェクト TOKYO 2020]<6>全国の木材 競演

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 東京五輪の競技施設や食事では、国産の木材や食材が積極的に使われる。「もりのスタジアム」とも言われる新国立競技場など複数の施設は日本伝統の木の文化を感じさせ、業界では木の良さを見直す取り組みが広がっている。選手村への食材の提供で、輸出拡大を目指す動きも出てきた。

 

若き力 林業復活支える

木を一定の長さに切り分けたり、余分な枝を切り落としたりできる重機
木を一定の長さに切り分けたり、余分な枝を切り落としたりできる重機

 秋田県大仙市の県有林で6月、地元林業会社の渡辺慎太郎さん(40)が、重機に乗り込んだ。同僚2人が高さ20~30メートル、樹齢約70年の秋田杉を切り倒すと、重機をすぐに操作。アームの先に取り付けられた鉄製の爪がスギをつかむと、瞬く間に枝が取り除かれ、爪のわきのチェーンソーで、4メートルや6メートルの丸太に整えられた。一連の作業は、わずか数十秒。この日は約60本ができあがった。

 丸太は製材され、東京五輪の選手村交流施設「ビレッジプラザ」(東京・晴海)で柱やはり、壁などに生まれ変わる。交流施設は選手村の中心施設で、選手の歓迎式典が行われ、選手やメディア関係者ら世界の人の目に触れる。渡辺さんは「若い人が木材や林業に興味を持つきっかけになればいい」と話した。

 19歳が選定

 その2か月前。この杉林で伐採する木の選定があった。作業に当たったのは、秋田林業大学校の研修生16人。県職員らの指導のもとで行った。

 選ぶ条件は太さ42センチ以上、6メートルの材木が作れるようまっすぐで、樹皮のはがれがない――など。内部が腐っていないかをよく調べながら、計測器で幅を確認し、選んだ木にテープで印をつけていく。朝から夕方までの作業は2日間かかり、最終的に247本を選んだ。

 16人の中の紅一点は、木村莉瑚りこさん(19)だ。森林を管理する祖父・隆志さん(63)の姿を見て、林業の道へ進んだ。幼少時から祖父と山に入っており、草刈りなどの指導も受けてきた。選定作業を振り返り、「自分たちが選んだ最高の木を見てほしい」とほほ笑んだ。

 ビレッジプラザには、全国63自治体から木材が集められる。そこには、林業に携わる多くの人たちの思いが詰まっている。

 

自給率アップ■期待の新素材

 安価な外国産材に押されて低迷していた林業だが、回復の兆しもみえる。

 2002年に戦後最低の18・8%を記録した日本の木材自給率は、17年に36・2%まで上昇。合板での国産材利用が進んだことなどが理由で、同期間に木材生産量も1598万立方メートルから2304万立方メートルと約1・44倍に増加した。国内の人工林は国土の4分の1にあたる1020万ヘクタール。多くが終戦直後や、1964年に開催された前回大会があった高度成長期に植林され、その半数が50年の利用期を迎えている事情もある。

 業界では新たな素材への期待もある。CLT(直交集成板)=写真=だ。木を重ねて接着した新しい建築素材。厚みがあり、コンクリート並みの強度を持ちながら、木の香りは残っている。90年代にヨーロッパで開発された。

 知名度不足もあって普及が進んでいないものの、日本スポーツ振興センターによると、五輪会場では、新国立競技場の更衣室などに使われる。

 日本CLT協会によると、海外では10階建て集合住宅などで利用され、国内での活用に期待が高まる。大手不動産の三菱地所などは東京・晴海の五輪施設近くに、CLTと鉄骨を組み合わせた展示施設(高さ20メートル、広さ600平方メートル)の建設を進めており、今年秋の完成を目指す。「五輪を見に来た人にCLTの使い道の幅広さをアピールし、普及につなげたい」と期待している。

 

木材・食材 安全・エコ お墨付き

 東京五輪の競技施設などで使われる木材は、安全性や環境への配慮が必要だ。大会組織委員会は第三者による認証取得を調達の条件の一つとしており、自治体などでは取得の動きが進んでいる。

 五輪施設への提供を目指して、石川県は2017年に県有林の約6000ヘクタール分について国際基準の認証「SGEC」を取った。環境に配慮した森林の適正な管理や伐採、流通までを評価する代表的な認証だ。この認証を受けている国内の森林面積は18年12月で約189万ヘクタールと、15年から63万ヘクタール増えた。林野庁は「五輪効果で認証制度の認知が広まった」と話す。

 大会で食材を提供しようと、認証取得の動きは、農業でも広がっている。安全性や衛生面に、より配慮するためで、大会組織委は選手村や競技会場で食材を提供する際に認証取得を求めている。

リンゴの傷をチェックする従業員(青森県弘前市の青研で)
リンゴの傷をチェックする従業員(青森県弘前市の青研で)

 代表的な国際認証「グローバルGAP」がその一つ。米国や中国などにジュースやリンゴを輸出している青森県弘前市のリンゴ生産・加工会社「青研」はインドネシアの取引先に求められ、15年に取得した。畑でのトイレの設置や、工場で異物混入を防ぐために鉛筆と消しゴムを使わせない取り組みを行うなど衛生策や品質管理を徹底しており、取得後は輸出商社からの問い合わせも相次いでいる。

 認証取得の動きは最近、著しい。グローバルGAPの国内認証数は今年3月時点で702と、17年12月の480から5割ほど増えた。竹谷勇勝社長は「五輪に商品を提供できることは、国内の商社にもPRになる」と語る。

 

[Fromアスリート]「現地の味」試合後のご褒美

平昌冬季五輪で、選手に食事を提供した「G―ロードステーション」の様子
平昌冬季五輪で、選手に食事を提供した「G―ロードステーション」の様子

 世界を転戦する選手が万全の状態で試合に臨むため、食事は欠かせない要素だ。

 卓球男子元日本代表の岸川聖也選手(32)は10代の頃、東南アジアで食事に苦労したといい「水道水を飲まなくても、料理に使われている水なのか分からないが、腹を下すことが多かった」と苦笑いする。日本からレトルト食品やカップ麺を持ち込んでいたものの「量と質をそろえるのは難しかった」と振り返る。

 東京五輪でメダル獲得が期待される空手の女子形の清水希容選手(25)(ミキハウス)は、数年前から海外で現地のものを基本的に口にしない徹底ぶり。「何が入っているか分からないから怖い」と、調理家電とともに米や乾燥野菜をスーツケースに詰め込んで遠征し、自ら調理したものを食べる。「その土地らしいのを食べるのは試合が終わる日だけのご褒美」

 五輪では日本スポーツ振興センター(JSC)が、2012年ロンドン大会から、選手村の外に品目ごとに栄養素が表示されたビュッフェ形式の食堂を用意。日本オリンピック委員会(JOC)は味の素(東京都中央区)と協力し、16年リオデジャネイロ大会から栄養サポートの場を設けた。JSCの施設もあるため「補完しあえるように、あえて主菜は用意しなかった」(味の素の担当者)といい、白米や汁物、納豆などを用意。選手からは「一時帰国したような感じ」と好評だ。

 来年は自国開催で不安は大幅に軽減。こうした施設が設置されるかは未定というが、味の素の担当者は「何かサポートできるものがあると思う」と話す。

 

[DATA]2000立方m 新国立での木材使用量

 今年1月の政府の資料によると、新国立競技場で使われる木材は約2000立方メートル。軒ひさしには、全47都道府県から木材が集められた。林野庁によると、一般的な木造住宅では床面積1平方メートルあたり0.2立方メートルの木材が使われる。100平方メートルの家ならば100軒分の計算になる。

 有明体操競技場は約2300立方メートル、有明アリーナでは約800立方メートルを活用する。全国63自治体から集められた木材を柱などにあて、大会終了後に解体される選手村ビレッジプラザの約1500立方メートルの木材は、各産地に返還されて再び利用される。

 地方部・児玉森生、松崎美保、運動部・今井恵太、写真部・三浦邦彦が担当しました。

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713035 1 東京オリンピック2020速報 2019/07/29 05:00:00 2019/07/29 05:00:00 2019/07/29 05:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/07/20190728-OYT1I50075-T.jpg?type=thumbnail
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