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[プロジェクト TOKYO 2020]<7>技術結集 テロ抑止

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不審な人・物 瞬時に検知

 2020年東京五輪・パラリンピックの警備はテロの脅威との戦いになる。「世界一安全な街・東京」の看板を守る警備の特徴は、日本の最新技術を結集した「ハイテク警備」。未来型の警備を大会の「レガシー(遺産)」としたい考えだ。一方、サイバーテロへの対策では課題も残る。

顔認証

 カメラをのぞき込んでIDカードをかざすと、モニターに「GO」と緑色の文字が表示される。デモンストレーションの参加者らはスムーズに関係者入り口を通過していった。

 東京五輪では、競技会場や選手村、メディアセンターなど45か所の関係者入り口にNECの「顔認証システム」が設置される。わずか0・3秒間に160万件以上のデータと照合することが可能で、選手や大会関係者らに不審者が紛れ込んでいないかをチェックできる。顔認証システムの本格導入は五輪史上初めての試みだ。

 顔写真の認識率は99%を超え、米国の研究機関から顔認証技術として世界1位の評価を得た。大会関係者は、別人のなりすましに対し、「ほぼ100%見破られる」と自信をのぞかせる。

 1964年の東京五輪は、警察が単独で担ってきた公的行事の警備に初めて民間警備会社が加わり、「民間警備元年」と呼ばれた。今回の東京五輪では、日本企業が開発した先端技術の導入が会場周辺でも検討されている。

 防犯カメラ映像から、群衆の“次”の動きを予測する「群衆行動解析システム」、街中に仕掛けられた爆発物を発見する「置き去り検知システム」――。大会関係者は「日本の技術を結集する」と意気込む。

競技場への道

 警視庁も「ラストマイルカメラ」と呼ぶ最新の防犯カメラシステムを導入する。競技会場と最寄り駅を結ぶ道に、ドーム型で360度撮影できる最新型の防犯カメラを計約200台設置。映像は瞬時に警視庁本部のモニターに映し出される。

 不審者や爆発物、観客が殺到して雑踏事故が起きそうな場所があれば、近くの警察官や機動隊員が駆けつける。テロを未然に防ぐことが狙いだ。

 人工知能(AI)を組み合わせ、不審物や不審者を自動で検知したり、雑踏の動きを先回りして予測したりするシステムの構築も検討中だ。

 警視庁は、JR東や東京メトロなど鉄道各社から、有事の際に駅構内やホームの防犯カメラ映像を警視庁に送ってもらう「非常時映像伝送システム」の整備も進めている。

 水際対策では、警察庁が今年から、米連邦捜査局(FBI)が保有する指紋データを相互に自動照会できる「重大犯罪防止対処協定」(PCSC協定)の運用を開始した。FBIが保有するテロリストや犯罪者ら約7500万人の指紋照会を専用サーバーで行い、テロリストの入国を防ぐ。

アトランタ五輪で、爆破があった公園を調べる捜査員
アトランタ五輪で、爆破があった公園を調べる捜査員

過去の大会 度々標的

 「スポーツの祭典」といわれる五輪は過去にもテロの標的になった。1972年のミュンヘン五輪では、イスラエルの選手ら11人がパレスチナゲリラ「黒い9月」に殺害された。ソウル五輪前年の87年には、北朝鮮の工作機関による「大韓航空機爆破事件」が発生。96年アトランタ五輪は公園で爆弾事件が起きた。

 前回のリオデジャネイロ五輪以降、欧州を中心にイスラム過激派によるテロが相次いでいる。標的になっているのはコンサート会場やイベント、スポーツなどの「ソフトターゲット」だ。公安当局者は「情勢として、テロの脅威はある」と警戒する。

 自爆覚悟でテロを起こすテロリストに備え、警視庁は、狙撃能力を備えた銃の専門部隊「緊急時対応部隊(ERT)」や、「特殊急襲部隊(SAT)」を24時間態勢で待機させる。警視庁の重久真毅警備1課長は「総力を挙げて大会の安全を守る」と話す。

サイバー攻撃「現実的脅威」…正義のハッカー育成

多様な手口

 近年の五輪は激しいサイバー攻撃にさらされてきた。東京五輪で「現実的な危機」と指摘されるのが、サイバーテロだ。

 2018年の平昌ピョンチャン冬季五輪は大会期間中、約550万件のサイバー攻撃を受けた。大会公式サイトで入場チケットが印刷できない状態になったほか、メインプレスセンターで一部のネットワークが接続できない不具合が生じた。

 16年のリオデジャネイロ大会も、国際的なハッカー集団「アノニマス」を名乗る組織からのサイバー攻撃で、州政府のウェブサイトが一時閲覧不能になった。

 サイバーテロの手口は、ウイルスを添付したメールを送りつける「標的型メール攻撃」や、相手のサーバーに大量のデータを送って、システムをまひさせる「DDoS(ディードス)攻撃」、サイトに想定していないプログラムを入力して異常を引き起こす「SQLインジェクション」、多数のパソコンをウイルス感染させて遠隔操作で攻撃する「ボットネット」、システムの裏口からコンピューターに侵入する「バックドア(抜け穴)型」など様々だ。

周回遅れ

 日本では裁判所の令状なしの通信傍受は認められておらず、サイバー空間でも、テロが起きる前の段階でメールやSNSなどの通信内容を収集することはできない。海外では、「消えるSNS」と呼ばれる証拠が残らないSNSがテロに悪用されたケースもある。政府幹部は「サイバーテロ対策では、欧米の周回遅れになっている。その欧米ですら、サイバーテロを受けているという事実は重い」と話す。

 進化するサイバー攻撃に対し、政府は「正義のハッカー(ホワイトハッカー)」の活用に乗り出している。ホワイトハッカーは、ハッキング技術を防御力の向上に活用し、プログラムの欠陥を見つけたり、ウイルスを解析したりする人たちだ。政府は総務省所管の情報通信研究機構(NICT)に「ナショナルサイバートレーニングセンター」を設置し、育成を進めている。

 サイバーディフェンス研究所の名和利男・上級分析官は「サイバー攻撃の技術は上がり、手法が巧妙化している。ホワイトハッカーの技術や知識をもっと活用し、サイバー攻撃の脅威を把握し、対策に生かせるようにすべきだ」と指摘する。

 サイバーテロを受けた事態を想定した対策も進められている。

 昨年10月には警察庁と警視庁が、大会組織委員会や民間と共同訓練を行った。警視庁は大会期間中、「サイバー事案対処センター(仮称)」を設置し、24時間態勢でサイバー空間に目を光らせる。警視庁幹部は「サイバー攻撃を受けても、何とか被害を最小限に食い止める」としている。

リオデジャネイロ五輪の安全対策について説明を受ける日本代表選手ら=在リオ日本総領事館提供
リオデジャネイロ五輪の安全対策について説明を受ける日本代表選手ら=在リオ日本総領事館提供

[Fromアスリート]常に「自衛」の心構え

 2008年北京五輪の開幕を目前に控えた8月4日、当時27歳で体操男子チームの主将を務めていた冨田洋之さん(38)は、現地での練習を終えても緊張感から解放されなかった。会場の出口に群がる報道陣が何を尋ねようとしているか、十分に理解していた。

 同日朝、中国・新疆ウイグル自治区カシュガルで武装警察襲撃事件が発生し、テロの可能性が指摘されていた。感想を求められた冨田さんは、静かな口調で「僕たちは競技に集中するだけ。ただ、政治的なことは分かりませんが、平和な五輪を願う気持ちは常に持っています」と答えた。

 実は、知人からの一報で「チームを動揺させず、公安当局もテロリストも無用に刺激せず、しかし無関心ではないことを伝える」と事前に発言内容を練っていた。アスリートとしての、精いっぱいの自衛だった。

 日本オリンピック委員会(JOC)が大会のたびに危機管理マニュアルを作って配布するなど、関係団体は安全確保に力を尽くす。それでも01年の米同時テロ直後、スケート陣が空港の手荷物検査でスケート靴の刃を「凶器」と判断されて、機内持ち込みを拒否されるなど、テロの影響は時に予想外の形で選手の心身にのしかかってきた。

 20年東京五輪に向け、冨田さんは言う。「サポートに感謝しながらも、選手は『自分の身は自分で守る』との意識を持っておくべきでしょう。思わぬ危険やトラブルを招かないように」

[DATA]5万人…東京大会の警備態勢

 大会招致時の立候補ファイルの計画では、2020年東京五輪・パラリンピックの警備態勢は計約5万人。約2万1000人の警察官と約1万4000人の民間警備員、約9000人のボランティアらで構成する。

 過去の五輪では、警備員不足が指摘された大会もある。大会組織委員会は昨年4月、いずれも大会スポンサーの「セコム」と「ALSOK」(ともに本社・東京)が共同代表を務め、他の12社で構成する共同企業体(JV)を設立。業界を挙げて、警備員の確保に動いている。警備にJVの手法を用いるのは五輪史上初の取り組み。幅広く人員を確保でき、研修も一体的に進められるなどの利点があるという。

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714581 1 東京オリンピック2020速報 2019/07/30 05:00:00 2019/07/30 21:13:52 2019/07/30 21:13:52 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/07/20190729-OYT1I50059-T.jpg?type=thumbnail
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