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[プロジェクト TOKYO 2020]<8>「商業化」拡大の弊害

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冷める招致熱 改革急ぐ

 商業化路線で拡大を続けてきた五輪は近年、開催地の高額な経費負担などを理由に、立候補都市の招致撤退が相次いでいる。五輪開催が今後、人々の支持を得ていくために、既存施設の活用などで負担を減らす一方、開催の恩恵を大会後にどうつなげていくか。東京大会の取り組みに世界が注目している。

 

 IOC危機感

 7月24日、東京大会1年前に合わせて来日した国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長が、トヨタ自動車やパナソニックなどIOCスポンサーの経営者や、経済3団体の関係者と都内で懇談していた。五輪の繁栄に対して経済界が果たす役割などについて話し合ったという。

 自身もビジネスマンでIOC委員の渡辺守成・国際体操連盟会長は懇談の実現に一役買った。「2020年以降も経済効果が続かないといけない。それを可能にする仕組みを作る。スタートを切った」。IOCにとって、東京は五輪の新たなモデルを示す場となる。

 従来の五輪開催方式は、確かに曲がり角に来ている。今年6月、26年冬季五輪の開催地がイタリアのミラノとコルティナダンペッツォの共催に決まったIOC総会。委員の前で五輪の招致プロセス改革に取り組んだ作業部会のジョン・コーツ座長が訴えた。「(五輪が)これ以上、ダメージを受けるのを見過ごすわけにはいかない」

 開催経費の増大に対する住民の反発などを理由とした立候補都市の撤退が続く状況を背景に、総会では招致ルール変更が承認された。複数の都市や地域・国で五輪を開催可能にし、「大会の7年前」としていた開催地の決定時期の決まりも撤廃。必要に応じ住民投票を課すことも決めた。

 

 過大な要求

 五輪は商業化によるビジネス的成功を背景に拡大の一途をたどってきた。

 契機は1984年ロサンゼルス大会。スポンサーを1業種1社に絞って独占的権利を与えて協賛金をつり上げ、テレビ放送権料収入もテレビ局間の獲得競争の激化で高額化した。その後、協賛金はスポンサーによる徹底した権利独占で、放送権料は複数大会一括契約などにより高騰を続けた。

 特に、米国のテレビ局は他国と比べても巨額の放送権料を支払っている。このため近年、米国で人気の競技が米国時間のゴールデンタイムに行われるケースが増え、開催地の日程作りや選手のコンディション調整に負担を強いている。東京大会でも、競泳や陸上の一部種目の決勝が午前中に実施される。

 大会規模も拡大し、現在は夏季で約1万人、冬季で約3000人の選手が集い、多様な競技を迎え入れるため、都市開発にも多額の資金が投じられるようになった。「大会が豪華になるほど、五輪のイメージやIOCの地位も上がる。招致意欲が盛んだった時代は、IOCがどんどん開催地に要求を重ねていった」と米スミス大のアンドリュー・ジンバリスト教授(経済学)は指摘する。ロシアのプーチン政権が威信をかけた2014年ソチ冬季五輪の開催費は、夏冬史上最高の5兆円規模に膨らんだとされる。

 だが肥大化は極まり、高騰する開催費への懸念から各地の招致熱は急速に冷え込んだ。冬季五輪招致では22年大会から4都市が撤退。26年大会も、5都市が住民の反対などで招致を取りやめた。夏季大会でもIOCは17年の総会で、候補に残ったパリ、ロサンゼルスの2都市をそれぞれ24年、28年大会の開催地とする異例の決定をした。招致失敗のダメージを両都市に残さないための苦肉の策だった。

 ジンバリスト教授はいう。「IOCは、開催地に過大な要求をした結果、もはやどの都市も自ら手を挙げないことに気づいた」

 

「国民がメリット実感」

 13年に就任したバッハ会長は、既存施設の活用による経費抑制を中心とした提言「アジェンダ2020」を発表し、五輪の安定開催のための改革を訴えている。

 東京大会は、それが初めて本格適用される。パラリンピックを含めた経費は国、東京都、大会組織委員会が計1兆3500億円を負担。全43競技会場の約6割の25会場を既存施設で賄うほか、実施種目での男女平等や再生エネルギーの利用などの取り組みがアジェンダに沿って進められている。だが、招致過程で日本が支払ったコンサル料の賄賂性が指摘されフランス当局の捜査対象となるなど、すべて順調とは言えない。

 公的な資金を投入する五輪開催に理解を得るには、投資を回収できたという国民の実感が必要だ。7月24日の懇談には五輪スポンサー以外の関係者も参加した。「スポンサーに利益が出て、スポンサー以外にもつながって周りにも利益が出る。国民が、五輪をやって良かったねといえる環境を作ると決めた」と渡辺氏。そのために、五輪で勢いづいた企業活動が大会後も活発に続くことが重要と説く。

 幅広い層の支持を求めながら存続の道を探り始めた五輪。その未来のため、TOKYOが背負う使命は重い。

 

「稼げる施設」 コンサートが柱

 東京都が12月の完成を目指して建設中の有明アリーナ(東京都江東区)。約1万5000席のメインアリーナには、何の変哲もない無機質なコンクリートが床一面に広がる。都オリンピック・パラリンピック準備局の鈴木研二・開設準備担当部長が言う。「そこがポイントなんです」

 東京五輪でバレーボール会場となる有明アリーナの整備費は、今年1月時点で370億円。多額の公金を投入した施設を「負の遺産」としないための工夫が、このコンクリート床だ。

 スポーツ大会開催時は、コンクリートの上に木床を敷く。多額の収入が見込めるコンサートでは、木床を外してトラックの乗り入れや舞台設営を行う。大会後の高収益化を図る多目的使用を念頭に置いた構造で、都の試算では新設6施設のうち唯一の年間黒字(3億5600万円)を見込む。大会後の運営を民間に委ねるコンセッション方式を都の施設で初めて採用し、電通やNTTドコモなど7社で構成するグループが、2021年から25年間、計約94億円で運営権を獲得した。

 スポーツ庁の調べでは、02年サッカー・ワールドカップ(W杯)日韓大会の国内10会場のうち、14年度に黒字だったのは札幌ドームだけで、国際大会の大規模会場の運営は難しい。「真の成功は、五輪・パラリンピックを通じてレガシー(遺産)として何を残せるか、にかかっている」。特別目的会社(SPC)「東京有明アリーナ」の人見秀司社長は、そう強調する。

 「スタジアム・アリーナ改革」を推進するスポーツ庁も、新たな官民連携の仕組みの事例の一つとして注目する。有明アリーナの取り組みは、五輪やW杯など世界的イベントの招致や公共施設のあり方を問う試金石になると言えそうだ。

 

[Fromアスリート]競技場の「質」 時にビックリ

リオデジャネイロ五輪で、水が緑色に変色した飛び込みプール
リオデジャネイロ五輪で、水が緑色に変色した飛び込みプール

 巨費を投じて会場を整備しても、実際に使う選手の評価を得られなければ大会自体のイメージに傷がつく。

 競泳で五輪3大会連続メダリストの松田丈志さん(35)は、2016年リオデジャネイロ五輪で利用した練習用プールに驚いた。「メインプールより2度ほど水温が低く、25度前後だったと思う。プールから上がってガタガタ震えていた日本選手もいた」

 仮設のプールで屋根はテント張り。風も吹き込むため、細身の入江陵介選手(29)らは特に苦労し、メインプールが使える時間帯だけしか練習できなかった選手もいたという。

 一方で、12年ロンドン五輪では練習用プールも常設で、リレーの引き継ぎのタイム計測器も設置。「(北島康介さんを)手ぶらで帰らせるわけにはいかない」という松田さんの名言を生んだ男子400メートルメドレーリレーの銀メダルも、この施設で練習したことと無関係ではなかったはずだ。

 リオ五輪では他に、飛び込みのプールなどで水が緑色に変色する事件も。間違った薬剤を入れたことが原因といい、水球男子の志水祐介選手(30)は「目が痛くて開けられなかった」。14年の韓国・仁川インチョンアジア大会では、バドミントン会場で日本に不利な風が吹いたとされる「疑惑」もあった。

 東京大会後の施設活用は大きな課題だが、まずは「アスリートファースト」の姿勢が重要なのは言うまでもない。

 

[DATA]43.8億ドル…米NBCの放送権料

 五輪収入源の柱は放送権料だ。米3大ネットワークの一つ、NBCは2011年、14~20年の夏季・冬季計4大会の米国向け放送権を43億8000万ドル(約4750億円)で獲得した。この時点では18年冬季(韓国・平昌ピョンチャン)、20年夏季(東京)両大会の開催地は未定だったが、00、02年大会からの「複数大会一括契約」で独占状態を続けている。

          ◇

 ジュネーブ支局・杉野謙太郎、ニューヨーク支局・福井浩介、運動部・田中潤、増田剛士、工藤圭太が担当しました

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717059 1 東京オリンピック2020速報 2019/07/31 05:00:00 2019/07/31 05:00:00 2019/07/31 05:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/07/20190730-OYT1I50044-T.jpg?type=thumbnail
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