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[プロジェクト TOKYO 2020]<10>未来の車 選手運ぶ…自動運転 普及へ一歩

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 人の移動に不可欠な自動車が、東京五輪・パラリンピックを機に飛躍を遂げようとしている。自動運転車や電気自動車(EV)、水素を燃料に走るバス――。選手や大会関係者の輸送は、「未来のクルマ」が担うことになりそうだ。メーカー各社は技術開発にしのぎを削っている。

 オフィスに足を踏み入れると、屋外へ出たような錯覚に見舞われる。床には道路や横断歩道が描かれ、社員らが移動用の乗り物で行き来する。カフェやキッチンもあり、コーヒーを片手に盛んに議論が交わされる。

オフィスを移動する「TRI―AD」のカフナー社長兼CEO(東京都中央区で)
オフィスを移動する「TRI―AD」のカフナー社長兼CEO(東京都中央区で)

 東京・日本橋にあるトヨタ自動車の研究開発子会社「トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント(TRI―AD)」は、開放的な雰囲気にあふれていた。

 「自動運転を確立し、実現するためのハブ(拠点)のような存在にしたいと思い、このオフィスを作った」

 技術開発の陣頭指揮を執る社長兼最高経営責任者(CEO)のジェームス・カフナーさん(48)は、米ニューヨーク出身。1999年から2年間、東大で学んだ。米IT大手グーグルで自動運転技術の開発に取り組んでいた2016年、トヨタに転じた。

 3000台投入

 トヨタは、国際オリンピック委員会(IOC)・国際パラリンピック委員会(IPC)の最高位スポンサーを務め、大会で使用される車の独占権を得る。東京大会の期間中、約3000台の車両を提供し、競技会場内外における「移動の足」を支える。

 トヨタが開発に取り組む「イー・パレット」は、運転手が操作しなくても走行できる次世代型の電気自動車(EV)だ。東京・晴海地区の選手村内に設けられる停留所を規則正しく巡回し、世界各国から来日したアスリートや大会関係者らを運ぶ。周辺状況を各種センサーで注視し、道を横切ろうとする歩行者を確認すると、自動的に停止する。車載電池に蓄えた電気で走るため、排ガスは一切、出さない。

 東京大会では、水素を燃料として走るバス「SORA」、車いすの人でも簡単に乗り降りできるドアのないEV「APM」なども活躍する。投てき種目では、選手が投げたハンマーや円盤、砲丸などを運営スタッフが載せると、投てき場所まで自動的に運ぶロボットも提供し、運営スタッフの負担軽減に貢献する。

 こうした技術は将来、過去になかった多用途のクルマに応用され、国民生活を大きく変える可能性を秘める。好きな時にスマートフォンなどで車両を呼び出し、買い物や病院への足として使ってもらうことも想定する。車両そのものを「移動式コンビニ」や「移動式オフィス」とする構想もある。

 ただ、カフナーさんは「技術的なチャレンジ(挑戦)が三つある」と語る。

 カメラやセンサーなどを使って車両の位置や周囲の状況を把握する「認知」の能力、歩行者や他の車両の次の行動を「予測」する能力、法律を順守しながら安全に走る能力――。いずれも自動運転車の実現に不可欠だ。

 日本車が先導

 100年以上の歴史を刻む自動車は、着実に技術的な進歩を遂げてきた。1964年の東京五輪では、トヨタの「クラウンエイト」などが聖火の搬送車両として活躍した。日本車は世界に進出し、ハイブリッド車(HV)をはじめとするエコカーでもリードする。

 トヨタの五輪スポンサー契約は、2024年まで継続する。「東京に限らず、22年の北京冬季五輪、24年のパリ夏季五輪でも、最新の技術を見せていく」。カフナーさんは高校時代、棒高跳びに打ち込み、84年のロス大会や96年のアトランタ大会を、テレビで食い入るように見た。五輪への熱意も強い。

 トヨタの豊田章男社長(63)も「来年(の東京五輪・パラリンピック)は、ゴールではなく、ほんのスタートにすぎない」と指摘する。自動運転、EV、インターネットに常時接続する「コネクティッド・カー」――。「100年に1度」と称される変革期の真っただ中にある「クルマ」は、東京五輪を契機に大きく変わろうとしている。

1人乗り「空港の足に」

ZMPが開発した「ロボカーウォーク」を紹介する谷口社長
ZMPが開発した「ロボカーウォーク」を紹介する谷口社長

 自動運転技術の開発には、自動車メーカーだけでなく、新興企業や異業種も力を入れている。

 2001年設立のロボット開発会社「ZMP」が7月、東京都内で披露した1人乗り用の自動運転車「ロボカーウォーク」。日本語が読めない外国人や体の不自由な人、高齢者などに利用してもらおうと開発した。

 座席の前に搭載されたタブレットに目的地を入力すると、ゆっくりと自動で走り始める。前部についている電光の「目」を左右にちらっと動かし、周囲の人に進行方向を合図する。最高時速は6キロ・メートルで、安全に走行する。

 谷口恒社長(55)は「飛行機を降りた人を自動運転車で出迎え、空港の出口まで運べば、世界にない体験を提供できる。東京五輪で海外の人にインパクトを与えたい」と意気込む。

 ZMPは数学や人工知能(AI)に強い約30か国・地域出身の社員がそろう。今年3月には中部国際空港の制限区域内で、飛行機から到着ゲートまで送り届ける自動運転バスの走行実験を行った。公道での自動運転車の投入が目標だ。

 ソフトバンク子会社の「SBドライブ」は20年に、交通の便が悪い過疎地などでハンドルがない自動運転バスを事業化する目標を掲げる。ソフトバンク入社8年目で会社を設立した佐治友基社長(33)は「田舎に突如、JR山手線のような頻度で走るバスを出現させる」と語る。

 宅配大手のヤマト運輸は、無人車を使った「ロボネコデリバリー」の実現を掲げ、IT大手ディー・エヌ・エー(DeNA)と組む。利用者はスマートフォンやパソコンで荷物を受け取る場所を指定し、無人車が運んできてくれるサービスで、運転手不足の解消や再配達の削減につなげたい考えだ。

[Fromアスリート]スムーズ移動 メダルに貢献

リオ五輪の大会関係車両の専用レーン(右)。選手の乗る車両もこのレーンを走った
リオ五輪の大会関係車両の専用レーン(右)。選手の乗る車両もこのレーンを走った

 交通手段が進化して移動が速く、快適になっても選手にとってはやはり負担だ。

 2012年ロンドン五輪で銀メダルを獲得したサッカー女子日本代表「なでしこジャパン」。当時コーチのびわこ成蹊スポーツ大・望月聡教授(55)によると、会場へのバス移動は専用レーンもありスムーズで、08年北京五輪でも「警察の誘導で空港から宿泊地まで4、5時間ノンストップだった」と、選手ファーストの配慮に感謝する。

 ロンドン大会では「移動しない」ことが好結果を呼んだ。チームは空路での移動に備え、機内で血流を良くするためタイツをはくなどの対策を立てていた。だが、グループリーグの順位で決まる準々決勝の会場が、2位通過だったことで前の試合と同じに。移動の負担なくブラジル戦に臨んだ日本は強敵を破り勢いづいた。

 ハードな移動を経験したのは、16年リオデジャネイロ五輪の開会式で旗手を務めた陸上・十種競技の右代うしろ啓祐選手(33)(国士舘ク)。他の選手が合宿地の米国へ直行する中、24時間以上かけて単身ブラジル入り。旗手の大役をこなした後、米国、ブラジルを往復し、2日間の十種競技に挑んだ。開会式も含め「疲れたけどメダル以上の経験だった」と振り返る。

 ちなみに、通常の大会では、用具は選手自身が持ち込むが、五輪は日本オリンピック委員会が輸送を担当し負担は減る。ただ、ロンドン五輪では、棒高跳びのポールを積める航空便が見つからず、合宿地のドイツから日本陸連のスタッフがレンタカーの屋根に載せて運んだという。

[DATA]0・53%…新車販売 EVの割合

 自動運転と並ぶクルマの変革が「電動化」だ。ただ、国土交通省によると、2018年度の新車販売台数に占める電気自動車(EV)の割合はわずか0.53%(2.3万台)にとどまる。政府は東京五輪・パラリンピックから10年後となる30年に20%以上に引き上げる目標を掲げる。世界で環境規制が厳しくなる中、走行時に二酸化炭素(CO2)を排出しないEVの開発競争は激しくなる。1回あたりの充電による走行距離や、充電時間の短縮が課題となりそうだ。

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720532 1 東京オリンピック2020速報 2019/08/02 05:00:00 2019/08/02 05:26:41 2019/08/02 05:26:41 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/08/20190801-OYT1I50060-T.jpg?type=thumbnail
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