[プロジェクト TOKYO 2020]<11>最終回 観戦の「壁」 なくす…バリアフリー事情 海外注目

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

 東京五輪・パラリンピックでは、海外から多くの障害者の来日が見込まれる。交通機関、宿泊施設、街中の歩道など、日本はどこまで対応できるのか。東京大会を機にバリアフリー化が進めば、障害者のみならず、介助が必要な高齢者も含め、誰にとっても優しい国として飛躍できる可能性がある。

観外国人にも人気の東京・谷中銀座商店街で、バリアフリーの状況を調査するグリズデイルさん(7月9日)
観外国人にも人気の東京・谷中銀座商店街で、バリアフリーの状況を調査するグリズデイルさん(7月9日)

 発信苦手?

 「ホテルのバリアフリールームの数が選手の数より少ない場合、どうすれば?」「競技用の車いすを新幹線で運べますか?」

 今年2月、東京都内在住でカナダ出身のグリズデイル・バリージョシュアさん(38)を訪ねてきた英国パラリンピックチームのコーディネーターの女性は、次々と質問をぶつけた。「お風呂などはバリアフリールームを共用すれば問題ない」「荷物を送るなら、宅配便が便利で信頼できる」。グリズデイルさんは一つ一つ丁寧に答えた。

 脳性まひの影響で4歳から車いすを使っている。日本文化に興味があり、2000年に初来日。その後も何度も訪れ、16年に帰化した。障害者や高齢者向けの英語の観光情報サイト「ACCESSIBLE JAPAN」を運営してきた。社会福祉法人で働く傍ら、電動車いすで各地の観光地などを訪ね、車いすで楽しめる場所か、バリアフリートイレがどこにあるかといった情報を集めては、サイトで細かく紹介している。

 そんなグリズデイルさんには、障害のある旅行者から様々な質問が寄せられる。外国の大使館関係者からは「パラリンピックの祝賀会などに適した会場を知らないか」といった問い合わせまで来る。観光庁のバリアフリー旅行に関する委員をしていたこともあり、国に対しても「海外から来た障害者」という独自の目線でアドバイスしてきた。

 日本の印象は「想像以上に障害者に優しい国。ただ、情報発信がうまくない」。東京大会で空の玄関口となる羽田や成田の空港内には、バリアフリー情報を扱う専門の窓口がない。宿泊施設では、日本語サイトにバリアフリールームの説明があっても、英語サイトにはないことが多い。

 「日本は、もっともっと、誰もが訪れやすい国に生まれ変われる。東京五輪・パラリンピックを目前にした今のチャンスを逃してほしくない」

 「窓口」整備

 国も対策は講じている。観光庁は、障害者らの旅行相談センターを各都道府県の空港や主要駅などに整備しようと取り組む。センターは各地の観光地や宿泊施設のバリアフリー情報をホームページなどで発信し、旅行者からの問い合わせや相談に応じる拠点となるもので、NPO法人や観光協会が運営している。

 ただ昨年10月現在、国内のセンターは36か所。空港や駅など利便性の高い場所に設置されているケースは少ない。五輪会場もある神奈川県や埼玉県など、首都圏でも大きなセンターがない地域がある。

 観光庁観光産業課の担当者は「東京大会では障害のある人も大勢、海外からやって来る。交通案内なども含め、細かな相談に応じられるかどうか現状では不安があり、センターの整備を急ぐ必要がある」と説明する。

 世界から大勢の障害者を迎えることについて、国内の障害者団体なども懸念している。障害者団体などでつくるNPO法人「DPI日本会議」の今西正義さん(70)は「日本は大人数の障害者を迎えるという、これまでにない経験をすることになる。五輪に続くパラリンピックではなおさらで、25年には大阪万博もある。高齢化社会では、介助が必要な高齢者もどんどん増える。誰にでも優しい国を作るために、今、頑張ることが大切だ」と話している。

情報技術で手助け

スマホでバリアフリー地図を作成できるアプリ「ウィーログ」
スマホでバリアフリー地図を作成できるアプリ「ウィーログ」
聴覚障害者のため、音を光と振動に変換する装置「オンテナ」
聴覚障害者のため、音を光と振動に変換する装置「オンテナ」

 障害や重い病気があっても、ICT(情報通信技術)を活用して観光やスポーツ観戦を楽しめるようにする取り組みが増えている。

 歩くには問題ない上り坂が車いすでは苦労する、エレベーターのない無人駅では改札を出られない――。6月30日、車いす利用者6人を含む69人がスマートフォンを持って、神奈川県小田原市の街中を巡った。バリアフリー地図作成アプリ「WheeLog!ウィーログ」を使い、小田原の地図を充実させるイベントの一コマだ。

 歩道の段差や傾斜などの情報を集め、お薦めの移動経路を示した地図を作る。「車いすだからって、諦めないで」。一般社団法人ウィーログ代表の織田友理子さん(39)は参加者に思いを語った。筋肉の力が徐々に衰える難病「遠位型ミオパチー」の患者だ。

 ICTによる重度障害者支援を専門とする島根大助教の伊藤史人さん(44)らと協力し、17年5月、ウィーログを開発。アプリの利用者は7000人以上で、その足跡は総延長5500キロ・メートル、地図上への投稿写真は5万2000枚、コメントは8000件を超えた。英語、中国語、スペイン語版の開発も検討中だ。織田さんは「地図が、海外の車いす利用者にとって、日本観光の助けになればうれしい。アプリを自国に持ち帰り、バリアフリー地図作りを広めてほしい」と話す。

光で歓声表現

 キャッチャーミットに吸い込まれる剛速球、テニスの激しいラリー。富士通はその音を聴覚障害者に光と振動で伝える端末「オンテナ」を開発し、東京大会での利用を目指している。

 親指ほどの大きさで、髪や襟元に装着し、60~90デシベルの音の大きさを256段階の振動と光の強さに変換する。大きい音ほど強く震え、青い光が明るさを増す。

 特別支援学校の児童らが装着し、リズムをとって太鼓を演奏するという活用例もある。音を集める端末を野球の審判に着けてもらえれば、内野席に座る観客に打席周辺の音を光と振動に変えて伝えることもできる。富士通は「健常者も含めて新しい音の楽しみ方を提供していきたい」としている。

[Fromアスリート]周囲のサポートに感謝

リオパラリンピックで、仮設のスロープを使ってバスに乗り降りする車いすの選手たち
リオパラリンピックで、仮設のスロープを使ってバスに乗り降りする車いすの選手たち

 東京五輪・パラリンピックに向けて、7月12~18日に夢の島公園アーチェリー場(東京都江東区)で行われたアーチェリーのテスト大会。健常者に交じって、パラアスリートも競技した。

 パラアスリートが参加するテスト大会は初めてだったが、障害を持つ選手にとって会場内のバリアフリーはプレーに集中するために特に気になるところ。2016年リオデジャネイロ大会に続き、2大会連続パラリンピック出場を決めている上山友裕選手(31)(三菱電機)が、控室から競技場までの車いすの動線などを丁寧に確認した。屋外の通路に敷設されたコードの覆いが大きく、車いすで乗り越えるのに注意が必要だった。「僕に大丈夫な段差でも、もっと障害の重い人には無理なこともある」

 リオ大会では、海岸に近い競技会場周辺はポルトガル植民地時代からの石畳が残る部分が多く、道路の移動で苦労した選手が少なくなかった。「リオでは(車いすで)上れない道があった。実際に動いてみないと分からない部分は多い。日本の公道はしっかりしているが、(障害者)全体の目線に立って、競技場の改善を意見したい」と上山選手。

 義足の陸上選手、前川楓選手(21)(チームKAITEKI)は「リオでは選手村の(義足や車いすが引っかかる)芝生が多くて歩きにくかった」と言うが、ボランティアが不備をカバーしていたことに感心した。過去の大会では障害者を助ける周囲の姿勢に救われたと証言する選手もいる。「ハード」と「ソフト」両方を充実させることが選手にとって最適のバリアフリーと言える。

[DATA]94・4%…駅段差のバリアフリー率

今年1月にJR御茶ノ水駅のホームに設置されたエレベーター
今年1月にJR御茶ノ水駅のホームに設置されたエレベーター

 車いす利用者が段差を感じることなく移動できるかどうかを示す「駅段差のバリアフリー化率」。国土交通省によると、1日平均利用者数が3000人以上の駅では、94.4%(昨年3月末現在)に上る。ただ、エレベーターの場所が分かりにくかったり、遠回りになったりすることも多い。スロープの傾斜などが基準に合っていない駅もある。東京大会の最寄り駅ではバリアフリー化が進み、都営大江戸線の国立競技場駅では、11人乗りのエレベーターのほかに、24人乗りのエレベーターを整備中だ。

スクラップは会員限定です

使い方
722641 0 東京パラリンピック 2019/08/03 05:00:00 2020/01/23 14:09:30 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/08/20190802-OYT1I50086-T.jpg?type=thumbnail
続きを読む

パラリンピック 新着ニュース