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車列が長く走者は目立たない
【10時35分:羽村市スポーツセンター前】
気温13度。走者とともに走る車両隊列の準備に手間取り、出発式が予定より20分遅れで始まった。ステージ上にはトーチと同じ色、桜ゴールドに輝く「聖火皿」が鎮座する。一日の初めと終わりにはこの聖火皿とトーチの火をやりとりするのだ。上空にヘリコプターが飛ぶ中、撮影の場所決めの抽選に参加したメディアは約25社。ステージ前は運営スタッフ、全国の都道府県実行委員会からの視察員、さらに見物客も加わって立錐(すい)の余地もない。火をランタンから聖火皿へ、そしてトーチへと移す動作を確認して、第一走者が花道から外の道路へと走り出した。
走者は警護役の警察官ランナー6人ほどに囲まれてゆっくりと走る。走者を前後に挟む車列は長い。あまりに長すぎて肝心の走者がまったく目立たない。先導車、大型のスポンサー車両、スタッフバス、警備車両、その他関係車両を含めてその数は約30台。ランナー1人あたりの走行距離は約200メートルだが、隊列は最長で700~800メートルにもなる。

本番さながらの交通規制が敷かれた公道を羽村市役所前まで20分ほどかけて4人がリレー。聖火リレーの走者が次の走者に聖火を受け渡すことを「トーチキス」と呼び、その際に思い思いのポーズをとるのだ。ハイライトは3人目の走者として登場した聖火リレー公式アンバサダーで女優の石原さとみさんだ。手を振って声援に応える姿に沿道からは「かわいい-」という声が飛ぶ。
2020年の聖火リレーは、一つの市区町村内でリレーを行い、終了後に次の市区町村への車両移動を繰り返していくのが基本パターンだ。このため1964年に見られた「県境での聖火リレー」はない。走者1人の走行部分約200メートルを「スロット」と呼び、走者が直接リレーをしながら走るスロットの連続するまとまり(基本的に市区町村の単位)を「区間」と呼ぶ。

車列がないコースにも人だかり
【14時45分:国分寺市・お鷹の道】
気温16度。国史跡の武蔵国分寺跡からリレーが始まった。楼門や本堂、資料館などを経て清流と並行する遊歩道「お鷹の道」を走者だけが進む。人がすれ違う幅の石畳と砂利道で、車両が通行できない場所での走行確認のために行われた。「ほたるのすむ川」の看板が随所にある。一帯は全国の名水百選にも選ばれた静かな散策路だが、この日ばかりは静寂を破る多くの人の熱気に包まれた。喧騒の中で、足を踏み外して清流に片足を突っ込んだテレビクルーがいた。ここでも上空にはヘリコプターが飛んでいた。
大きな問題はなし
【18時45分:八王子市中心部】

気温は11度。日が暮れて冷えてきた。子安町3丁目交差点を出発したトーチは、富士森公園を目指して近づいてくる。第6スロットの走者は車いすに乗ったパラリンピアンの田口亜希さん(聖火リレー公式アンバサダー)。前走者と笑顔でトーチキスを行うと、走行中は車いすにつけられたホルダーにトーチを装着して、空いた両手で車いすを進めた。「あっという間でした。聖火リレーは沿道の人の心もつないで国立競技場に届くのだと感じました。暗いところで聖火はきれいでしょう。きょうは(トーチに)火をつけたくなりました」と感想を話した。
リレーは19時頃、無事ゴールの富士森公園に。到着を祝う儀式「セレブレーション」が行われて長い1日が終わった。運営スタッフが約1000人。3区間、13スロット、22人の走者で約2・3キロをつないだリハーサルに組織委員会の山崎太朗・聖火部長は「進行の遅れが少しあったが、大きな問題はなかった」と総括した。
リハーサルでも点火はNG
この日のリハーサルは本物のトーチとユニホームが使われたが、トーチに火は灯らなかった。リハーサルなのになぜなのだろう。大会組織委員会に尋ねると「ギリシャで採火した火は本番のみで使用できる、という国際オリンピック委員会(IOC)規定に沿った」との回答。聖火は神聖なもので、リハーサルといえどもトーチにむやみに火をつけてはいけない、ということらしい。