スポーツクライミングの見どころ、プロフリークライマーの尾川とも子さんが解説
完了しました

東京オリンピックの新競技「スポーツクライミング」はスピード、ボルダリング、リード3種目の複合で実施される。各競技の見どころを、プロフリークライマーの尾川とも子さんに解説してもらった。
スピード
競技方法
1対1でロープをつけ、高さ15メートルの壁を登り切る速さを競う。ホールド(壁の突起物)の配列は世界共通で決まっている。フライングは1回で失格となる。予選は各選手が2本を登り、速い方のタイムで順位を競うが、決勝はトーナメント方式で1トライのみ。タイムの早い選手が勝ち上がる。

尾川さんの見どころ
世界記録は男子が5秒台、女子も7秒を切っています。選手にとっては一瞬のミスでの落下が命取りです。
ホールドの配置はどの大会でもまったく同じなので練習でどれだけ体に動きを覚えこませることができるか。
短い秒数の勝負ですが、はしごを登るような同じリズムではなく、小刻みだったりホールドを飛ばすスキップがあったり。まるで、スピンやジャンプがあるフィギュアスケートの演技構成のようで、そこに選手の得手不得手が出てきます。
五輪競技に決まる前は日本国内には施設もなく、専門の選手もいなかった種目ですが、ここ数年の日本選手の進歩は目覚ましく、世界で順位やタイムを押し上げています。
ボルダリング
競技方法
課題となる複数の壁を、制限時間(決勝は4分間)内にいくつ攻略できたかを競う。完登課題数が同じ場合は、トライ数や途中地点の「ゾーン」と呼ばれるホールドに到達しているかどうかが考慮される。壁の高さは5メートル以下で決勝の課題数は3。

尾川さんの見どころ
他の2種目と違って、落下しても制限時間内なら何度でもトライができます。
選手は安全器具をつけず、下にはマットを敷きます。ホールドが大きいけれど持ちにくいとか、滑りやすいとか、最もてこずる種目でもあります。
リードと同様に、他の選手のトライを見ることができないので、競技開始前のオブザベーション(壁の観察)で、完登までの動きをしっかりと読んでおくことが必要です。
易しい壁で全員が登れても、逆に難しくて誰も登れなくても、どちらになっても順位が散らばりにくい。壁を作る人のセッティング能力が試されます。
女子の野口啓代選手、野中生萌選手、男子の楢崎智亜選手など日本選手が強い種目です。
リード
競技方法
12メートル以上の壁で命綱を着け、6分の制限時間内にどこまで登れるかを競う。最長で60手程度と、3種目の中ではホールドの数が最も多い。途中で落下した場合はその地点が記録となる。完登同士、または同じ高さの場合はタイムで順位が決まる。

尾川さんの見どころ
手数が多いので、持久力が問われるとともに、選手はオブザベーションで数多くのホールドの配置を頭に入れなければなりません。ルート上には難所が2、3か所設定されており、そこを超えられるかどうかで順位に影響が出ます。
長丁場のため、選手は片手を離せるホールドで、離した手を振って腕休みを入れます。獲得高度が同じ場合、最終的にタイム勝負になることもあるので、休みすぎると不利になることも。
通常は音楽のようなタンタンタンというリズムで登っていきますが、リズムが急に遅くなったり速くなったりした時は、選手が苦しくなってきた時です。「ガンバ」と声援を送りましょう。
複合
スポーツクライミングのメダル争いは3種目の総合成績による。予選、決勝はそれぞれ1日で3種目を行い、各種目の順位を掛け算して出した総合ポイントの少ない選手が上位となる。例えばスピード5位、ボルダリング3位、リード1位なら、その選手の総合ポイントは5×3×1=15点となる。
尾川さんの見どころ
東京オリンピックの競技方式が決まる前は国際大会でも複合は行われておらず、専門性をもった選手が種目ごとに出場していました。
スピード専門の選手がスピード1位、ボルダリング8位、リード8位になった場合、せっかく1位を取っても足し算だとすべて5位の選手に負けてしまう。だから、1位を1種目でも取ることに最も価値がおけるように掛け算方式としたのではないでしょうか。
日本は今、ボルダリングが強いし、複合方式が取り入れられてからはスピードにも一生懸命取り組んでいます。メダルを狙うなら三つのうちのどこかで必ず1位をとっておく必要がありますね。

尾川とも子 1978年4月14日、愛知県出身。日本人女性初のプロフリークライマー。早稲田大学理工学部在学中に国体山岳競技に出場して2位になり、クライマーの道に入る。2003年には競技歴3年でアジアチャンピオンに。12年10月、女性としては世界初となる難度V14の岩を完登し、世界で最も活躍した女性クライマーに送られる「Golden Piton賞」受賞。14年には「Golden Climbing Shoes賞」を受賞。同年に第1子、16年に第2子を出産し、現在はアスリートと母親の立場を両立させつつ、「学校にボルダリングウォールを」という夢を追いながら活動中。東京2020オリンピックパラリンピック教育事業講師。身長1メートル60。靴のサイズ23.5センチ。