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[アスリートの選択]再び泳ぐ元世界記録保持者・山口観弘…五輪メダルへ「可能性1%でも」完全燃焼

  
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引退撤回で東京五輪を目指す山口観弘
引退撤回で東京五輪を目指す山口観弘
引退撤回で東京五輪を目指す山口観弘
引退撤回で東京五輪を目指す山口観弘

 山々から吹き下ろす夕方の風はまだ熱を帯びていたのに、日が落ちるとスズムシが鳴き始めた。山梨県南アルプス市の釜無川沿いで8月末、季節は夏にとどまろうか秋へ向かおうか迷っているようだったが、競泳男子200メートル平泳ぎの元世界記録保持者・山口観弘あきひろ(25)は腹をくくっていた。「最後まで頑張ります」と妻に伝え、東京都内から拠点を移していた。

 鹿児島・志布志高3年だった2012年の国体で世界記録を更新し、「(北京、アテネ両五輪2冠の)北島康介2世」と将来を嘱望された。しかし、大学時代に故障が相次ぎ、記録は低迷。16年リオデジャネイロ五輪への出場を逃し、昨年秋には所属先との契約も満了となった。身の振り方について迷う中、年が明けた。

 「年齢も年齢だしな」

 「(妻とまもなく1歳になる長男の)家族もいるし、暮らしを考えないと」

 競技から離れる理由は、いくらでも挙げられた。地元の鹿児島国体が、秋に予定(新型コロナウイルスの影響で延期)されていた。

 「地元の国体が、一番いい引き際かな」

 2月、国体後の引退を決め、公の場で口にした。ところが、東京五輪は1年延期。再びモヤモヤが頭をもたげてきたところに、「一緒に来年の五輪を目指して頑張らないか」とスポーツクラブ運営会社「ブルーアースジャパン」(甲府市)から連絡があった。

 完全燃焼できていない自分に、きっと気付いていた。だから、くすぶっていた心が一瞬で燃え上がった。「ずっと上を見続けて、100%の練習をやってきた。五輪が人生の目標だった」。6月、クラブに足を運んで施設を見学し、そのまま家族のもとへ向かい現役続行の意思を伝えた。妻は「納得いくまでやり切って」と背中を押してくれた。

 家族に対する責任感であったり、故郷への恩返しであったりと、恐らく周囲への気遣いもあって一度は決断した引退。撤回は、純粋に自分のためだった。

 小学生に交じって泳ぎ、ヨガなど新たな練習法も取り入れながら、トレーニングを積んでいる。「今は(ライバルたちと)渡り合えるレベルにはない」としながらも、「五輪のメダルを狙いたい。今の可能性が1、2%だとしても、練習で上げていきたい」

 釜無川のほとりで、まだスズムシは鳴いていた。来年、これを聞く頃には山口の挑戦も終わっている。笑いながら、「泥臭くいく。それにしても長い旅ですね」。口ぶりは実にカラリとしていた。(工藤圭太)

(おわり)

出場権争い 平泳ぎは激戦

 競泳個人種目で東京五輪代表に内定しているのは、昨年の世界選手権個人メドレー2冠の瀬戸大也(ANA)だけ。その他は、来年4月の日本選手権決勝の2位以内で、派遣標準記録をクリアした選手に出場枠が与えられる見通し。平泳ぎは、200メートル前世界記録保持者の渡辺一平(トヨタ自動車)、ベテランの小関也朱篤やすひろ(ミキハウス)、新鋭の佐藤翔馬(東京SC)ら実力者がひしめく「最激戦区」だ。

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1461311 1 東京オリンピック2020速報 2020/09/08 05:00:00 2020/09/08 15:55:56 2020/09/08 15:55:56 現役続行や東京五輪について語る山口観弘選手(17日午後4時50分、山梨県南アルプス市で)=加藤学撮影現役続行や東京五輪について語る山口観弘選手(17日午後4時50分、山梨県南アルプス市で)=加藤学撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/09/20200907-OYT1I50082-T.jpg?type=thumbnail
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