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【自転車ロード】56歳記者が超難関オリンピックコースを走ってみた(後編)

   
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 自他ともに認める自転車フリークの吉田典之(読売新聞編集委員)です。来年の東京オリンピック本番前に、ロードレース男子の244キロを体験走行します。後編は山梨県道志村の「道の駅どうし」から、ゴールである静岡県小山町の「富士スピードウェイ」を目指します。実は、静岡県は私の出身地で、山梨県は新人記者として地方支局に配属された、どちらも思い入れのある土地なのです。苦楽をともにした富士山のおひざ元に世界屈指の超難関コースが作られ、そこに各国のトップ選手が乗り込んで来ると思うと、いてもたってもいられません。いざ、出発!(前編は、こちらからご覧になれます。自転車コーナーは、こちらから

 

道志みちの先に霊峰を拝む

「道の駅どうし」を出発する筆者。尻のポケットにサポートカーの「カギ」を入れたことを忘れている
「道の駅どうし」を出発する筆者。尻のポケットにサポートカーの「カギ」を入れたことを忘れている
コース動画 道の駅どうし~長池親水公園
コース動画 道の駅どうし~長池親水公園

 【コース】道の駅どうし~平野~長池親水公園(約17キロ)

 前編のゴール「道の駅どうし」でサポートカーを降り、自転車を組み立ててスタートする。雲一つない天気で、絶好のサイクリング日和だ。

 山梨県山中湖村までの上り坂は、急ではないものの、やはりスピードは出ない。陽光が照らす川沿いの道志みちを、時速10キロ前後のスピードでじわじわと高度を上げる。

 県境の短いトンネルを抜けると山中湖村。下り坂を山中湖岸の平野まで心地よく駆け抜ける。平野交差点で右折し、ほぼ平坦なマリモ通りを走る。ところどころ坂道があるが、その分、見晴らしがよくて気持ちがよい。静かな湖面とその向こうにそびえる富士山、周辺に広がる山々と、これまでとはガラリと変わった風景を堪能しつつ、休憩地点の長池親水公園に到着した。

 ここでリュックにしまっていた携帯電話の着信音に気づく。取り出して画面を見た瞬間、サポートカーの運転者から20回以上も着信があったことを知る。何かあったのかと電話に出ると、「吉田さん、車のカギ持ってませんか?」。

 しまった……。道の駅で運転者が手洗いに行っている間に預かったカギを尻のポケットに入れたまま出発してしまったのだ。すぐに来た道を引き返したが、1時間以上もロスしてしまった。降りたばかりのサポートカーに乗り込み長池親水公園まで戻ると、気を取り直して再スタートした。

 【長池親水公園】山中湖北岸に位置する公園で、湖越しに富士山を望める格好のビュースポット。湖面が静かなら「逆さ富士」や「ダイヤモンド富士」が楽しめる。湖岸に沿ってサイクリングロードが延び、ゆったりと走れる。

上り返しが怖い 屈指の高速コース

「道の駅どうし」から山中湖方面を望む
「道の駅どうし」から山中湖方面を望む
コース動画 長池親水公園~忠ちゃん牧場
コース動画 長池親水公園~忠ちゃん牧場

 【コース】長池親水公園~旭日丘~籠坂峠~須走(約14キロ)

 山中湖南端の旭日丘までは車道沿いのサイクリングロードを走行する。散歩する観光客に気をつけながら景色も楽しむ。来年のオリンピック本番も、選手たちは道志みちの長い上り坂から解放され、この日本を代表する景観を楽しみながらレース後半に備えるのだろう。

 旭日丘を南に曲がると、御殿場方面に向かう箱根裏街道の上り坂が始まる。2キロ強で籠坂峠に差し掛かり、ここから始まる急な下り坂は道幅が広く、舗装もよいため、スピードを競うコースになりそうだ。

 約12キロの距離で標高差は約500メートル。世界最高峰の自転車レース「ツール・ド・フランス」では、山岳路の下りで最高時速100キロに達するという。ここでもそれに近いスピードが出るだろう。だが、ロードバイクのタイヤの幅は2センチ程度。ここはとにかく安全第一に徹する。ブレーキから文字通り手が放せない。これだけ一気に下ると、終盤に山中湖まで上り返す道程の厳しさが思いやられるほどだ。

世界遺産に触れてパワーをもらう

厳かな雰囲気が漂う「須山浅間神社」
厳かな雰囲気が漂う「須山浅間神社」
コース動画 忠ちゃん牧場~玉穂支所入口
コース動画 忠ちゃん牧場~玉穂支所入口

 【コース】須走~玉穂支所入口~須山浅間神社~忠ちゃん牧場(約25キロ)

 須走から東に向かう長い下りを終え、進路を南に取る。しばらくは平坦路だ。茶畑が点在する、のんびりとした山里を駆け抜ける。御殿場市に入り、国道469号を3キロほど走ると、富士山スカイラインとの交差点に出る。ここは陸上自衛隊東富士演習場を1周するルートの起点だ。

 さらに南下を続け、市街地を5キロほど走ると、広々とした原野が眼前に広がる。演習場だ。ススキが一面に広がり、遠くの山々が霞んで見える風景は壮大だ。緩やかなアップダウンが続く楽しい区間だ。

 ススキの原が終わると、須山浅間神社の看板が見えてくる。世界文化遺産・富士山を構成する一つだ。コースから500メートルほど脇に入ったところにあるが、ここで一休み。

 【須山浅間神社】富士山をご神体とし、昔は富士山東口の社だったという。境内の赤い鳥居をくぐると杉の巨木が立ち並び、厳かな雰囲気が漂う。深山を思わせるものの、本殿へ至る石段はそれほど長くなく、クリート付きのサイクリングシューズでも楽に登れる。

観光スポットとしても人気がある「忠ちゃん牧場」
観光スポットとしても人気がある「忠ちゃん牧場」

 神社を出てコースに戻ると、すぐに丁字路にぶつかる。右折して西に向かう道は再び上り坂となる。舞台芸術の場面転換のように雰囲気ががらりと変わり、杉林の中を縫うように走る。この後、延々と続く上り坂の始まりだ。4キロ弱走ったところで休憩地点の忠ちゃん牧場に到着。

 【忠ちゃん牧場】静岡県東部、富士山の南側は多くの観光施設があるが、忠ちゃん牧場は特に子どもに知られた存在だと、かつて富士市に住んでいた筆者は知る。何より名前が親しみやすい。国道脇にあって立ち寄りやすく、家族連れの富士周遊ドライブに取り入れやすい観光スポットだ。

最高地点1450メートルから一気に下る

コンビニで買ったペットボトルの水を水筒に移す。山岳区間はコンビニが少ないので余分に買っておこう
コンビニで買ったペットボトルの水を水筒に移す。山岳区間はコンビニが少ないので余分に買っておこう
コース動画 玉穂支所入口~旭日丘
コース動画 玉穂支所入口~旭日丘

 【コース】忠ちゃん牧場~水ケ塚公園~玉穂支所入口(約27キロ)

 牧場から見た富士山は、中腹の宝永火口が大きく迫り、他の角度・距離からでは味わえない荒々しさを間近に感じることができる。休憩もそこそこに牧場を後にし、原野と別荘地の中、なおも坂道を上る。

 ただ、この先からコース最高地点へと至る約8.5キロの南富士エバーグリーンラインは自動車専用道路のため、自転車は通行できない。サポートカーに自転車を積んで北側の終点、水ケ塚公園に向かう。

 約15キロで約900メートルの標高を稼ぐこの上り坂は、静岡県に入って最初の上り山岳路だ。ここまで120キロを走ってきた選手たちは、ここでどんなレース展開を見せるのだろうか。

 この道路、自転車は通行できないが、見晴らしのよい風景と適度な上り坂が楽しめる。思うに、自転車も走行可能にしてくれれば、オリンピックコースの一部となったこともあって、富士山南側の魅力あるサイクリングコースになるのではないか。

水ケ塚公園から望む富士山
水ケ塚公園から望む富士山

 南富士エバーグリーンライン北端に位置する水ケ塚公園の標高は約1450メートル。この辺りがコース全体の最高地点となる。ここから富士山スカイラインを東へと一気に下る。山中湖南の籠坂峠と同様の高速コースだ。御殿場の周回コース終点の玉穂支所入口まで約16キロ。選手でない我々は、スピードの出し過ぎに注意して「安全第一」を心がけたい。

 【水ケ塚公園】休憩所「森の駅富士山」(現在は冬期休業中)は食事や土産物のショッピングもできる。園内には遊歩道があり、スノーシーズンはそり遊びができる広場もある。

最大の難所「三国峠」で己の実力を知る

季節柄人けの少ない「水ケ塚公園」で自転車を組み立てる。後ろは自転車仲間が運転するサポートカー
季節柄人けの少ない「水ケ塚公園」で自転車を組み立てる。後ろは自転車仲間が運転するサポートカー

 【コース】玉穂支所入口~冨士霊園~富士スピードウェイ~冨士霊園~富士スピードウェイ~三国峠~平野(約32キロ)

 演習場周回路を終えて北上、小山町の国道151号まで戻り、東進してすぐに坂道を左折、緩やかな上り坂を経て富士スピードウェイへ至る。

 選手らはスピードウェイ内を1周走り、南側の町内を走って再びスピードウェイに戻ってくる。そこから最大の難所であるゲキ坂「三国峠」へ向かうのだ。

 富士スピードウェイを出て三国峠へ向かう県道147号は、いきなり急傾斜から始まる。根気よくペダルをこぐが、傾斜はきつくなるばかり。ここは通常の坂ではない。最大斜度は20%近くになる中、一本調子で急坂が続く。自動車でもエンジンを吹かしながら上っていく急斜面は、冬期の凍結を意識したコンクリート路面に変わる。懸命にペダルを回そうとするのだが、スリップ防止のドーナツ形の溝が自転車の細いタイヤを突き上げ、容赦なく体力を奪う。

 上り坂は約7キロ。1、2回の休憩で上り切れば上々と思っていたが、甘い考えだった。100~200メートルごとに休みを挟み、節約しながら飲んでいた水筒の水もほとんどなくなった頃、ようやく峠に到達。駐車場での一休みは生き返る思いだった。東京オリンピックのロードコースはかつてなく過酷と言われている。最大の理由がこのゲキ坂にあることは間違いない。少なくとも、ここを制した者だけがメダルに近づくことを許されるのだと身をもって感じた。

三国峠を越え、パノラマ台から山中湖を見下ろす
三国峠を越え、パノラマ台から山中湖を見下ろす

爽やか林間コースでラストスパート

 【コース】平野~旭日丘~須走~冨士霊園~富士スピードウェイ(約22キロ)

コース動画 旭日丘~富士スピードウェイ
コース動画 旭日丘~富士スピードウェイ

 三国峠を越え、下り坂で体を休めながら走ると、道志みちにつながる平野に到着する。山中湖東岸を抜け、2回目の籠坂峠越えをすれば再び高速コースの下りだ。須走を過ぎ、分岐路を今度は左に入ると、ゴルフ場の脇を抜ける最後の坂に入る。ほどよい傾斜で風が心地よいが、選手にとっては正念場のラスト10キロ。死力を尽くすラストスパートになる。

 ちなみに、昨年夏のテストイベントでは、御殿場市の周回コースが省略されたが、1位のタイムは179キロを走って4時間50分台だった。オリンピッククラスの選手がどれだけ強いか分かろうというものだ。一方で、出場した96人のうち41人が脱落しており、超難関コースであることをこれでもかと見せつけた。来年の本番は完走率3割との見方すらある。この超難関コースで、どのようなペース配分や駆け引きが行われるのか興味津々だ。

 とはいえ、今回の私のように休み休み走れば走破できないわけではない。むしろ、そのほうが風景や観光スポットも楽しめる。ゆったり走るのが好きな人、苦しさを乗り越えることに充実感を覚える人、それぞれの好みやレベルに応えてくれる要素がふんだんに盛り込まれているルートだと感じた。

観戦上の注意

ヘルメットに小型カメラを装着し、ところどころで4K映像を撮影した。左耳にはサポートカーの運転者と無線機で会話するためのイヤホンマイクをつけている
ヘルメットに小型カメラを装着し、ところどころで4K映像を撮影した。左耳にはサポートカーの運転者と無線機で会話するためのイヤホンマイクをつけている

 国内でこれほど広範囲を駆け抜ける自転車レースは初めてだ。来年の本番は、一般道ならチケットなしで観戦できるとあって、沿道で多くの人が見物するだろう。気を付けてほしいのは選手の安全面だ。トップ選手の平均時速は40キロ前後と予想される。ヘルメット以外、ほぼ生身の体で、時にはオートバイ並みの速度で競うので、落車すれば命の危険もある。応援するつもりでつい身を乗り出してレースを妨げるようなことは厳に慎みたい。

 たとえば、コース際で写真を撮ろうとすることも危険行為になりかねない。下手にスマホを向けると、選手の上体と接触する恐れがあるからだ。特にカーブは選手が内側すれすれを狙って突っ込んでくる。カーブの先の視界を妨げたり、衝突のリスクが高かったりすることから、必ず外側で観戦しよう。

 総距離244キロに及ぶコースのどこで観戦するのがよいだろうか。序盤は東京・府中市のパレード走行(10キロ)に始まり、正式スタート後もしばらくは住宅街を走る。歩道が広い大きな道路も多く、大集団で走る選手たちを間近で見るのは迫力があって面白そうだ。沿道の住宅からレースを見られる幸運な人も多いだろう。

 山梨、静岡に入ってからの山岳路は事情が異なる。道幅が狭く、一本道も多いため交通規制が相当の場所で実施されるだろう。周辺の道路も混雑するため、車でレース観戦に行くのは控えたい。自転車で観戦しに行く人もいるだろうが、それでも交通規制などの情報を事前に入手し、余裕を持ってでかけたいものだ。

 さて、本番は来年7月24日(女子は翌日)。もし会場のどこかで私の顔をみかけたら声をかけてください。自転車談議を楽しみましょう。

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1704215 0 東京オリンピック 2020/12/16 11:00:00 2020/12/16 12:58:39 2020/12/16 12:58:39 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/12/20201214-OYT8I50091-T.jpg?type=thumbnail
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