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コロナ禍の中で迎えた2021年。期待より不安が先立つ年明けだ。私たちは多くの困難に立ち向かわなくてはならない。東京五輪・パラリンピックの開催、医療の充実、経済再生、暮らしと絆の回復――。「再起」「開発」「変革」「分散」「連帯」という五つの力をキーワードに、明日の日本を築く姿を追ってみたい。(文中敬称略)

倒れてもまた起き上がり、高みを目指す。それがアスリートだ。
「再起」という言葉が今、最も似合う男かもしれない。競泳の萩野公介(26)(ブリヂストン)。昨年12月の日本選手権で見事に復活した。
覚悟はあるのか――萩野は自分に問い続けている。
16年のリオデジャネイロ五輪で、400メートル個人メドレーの優勝を始め、三つのメダルを獲得した後、極度の不振に陥った。東京五輪に向けて高まる周囲からの、そして自分自身の期待。「それが足かせになり、重荷になっていた」
18年1月、心身ともに疲れ果てて入院。「強くなりたい」と念じていた時、ベッドで新田次郎の「八甲田山死の
雪中訓練で起きた遭難事故の史実に基づく小説。主人公の大尉が上官の無謀な行軍命令に
しかし一度狂った歯車は容易には戻せない。19年春からは3か月も休養。さらに1年近くもがく中で、東京五輪の延期が決まった。
時が与えられ、心に変化が生じる。五輪があったはずの夏が過ぎ、覚悟が固まった。「一歩ずつでも前に進もう」
2年ぶりの出場となった年末の日本選手権。200メートルと400メートルの個人メドレー2冠に輝いた。「何があっても時は進み、明日はまた来る」

パラリンピアンも「再起力」のスイッチを入れた。
陸上からトライアスロンに転向した谷(旧姓・佐藤)
20歳の時、骨肉腫により右足膝下を切断したが、04年アテネ大会から3大会連続でパラリンピックに出場。13年、2020大会の開催地を決める場で不屈の体験を語り、東日本大震災からの復興を示す東京開催を訴えた。聴衆の拍手を呼び、招致は実現した。
その東京大会が延期に。競技を続けるべきか――谷は悩みに悩んだが、海杜の存在と夫の昭輝(40)の支えが再起を促した。
「家族でパラリンピックを目指してきた。みんなでゴールを迎えたい」