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世界中から「集う」それだけで感動、「光」になる瞬間を探したい…河瀬直美・東京五輪公式記録映画監督

  
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 コロナ禍という目に見えない脅威に世界が覆われてから1年近く。私たちは命を守ることを優先し、触れ合いを避け、不安を抑え続けてきた。新たな日常は、人を信じ、人とつながるという、人類が本来持ち得る最大の力の源を、気づかぬうちに枯らしてしまいつつあるようにも思える。
 2020年東京五輪・パラリンピックの公式記録映画を任された河瀬直美監督の目には、大会の延期をも呼んだこの変転が、どう映っているのだろう。海外でも高く評価されてきた作品の数々には、苦難を抱える主人公たちが、他者と心を重ね、自然の中に光を見いだし、自分は生きていていいのだと感じ取る救いが隠されている。その希望を今、監督はどこに見るのだろうか。(編集委員 結城和香子)

どうすれば世界が再びつながれるのか…スポーツは最初の光

リオデジャネイロ五輪の閉会式。ブラジル・リオデジャネイロのマラカナン競技場で。2016年8月21日撮影。
リオデジャネイロ五輪の閉会式。ブラジル・リオデジャネイロのマラカナン競技場で。2016年8月21日撮影。

 私が育った奈良は、1300年の(記述に残る)歴史がある。その1300年前の文書によると、当時天然痘が日本で大流行し、多大な人命が失われたという。その際に建立されたのが奈良の大仏さまです。人類の横にはいつもウイルスなどの脅威があって、しかし日本人は、まつるなどという形で、それと共存しようとする精神性を持ち続けてきたように思います。

 コロナ禍が世界を覆って以来、当たり前であったことが、実は当たり前でなかったという現実を、私たちは今生きています。映画館が閉められ、スポーツができなくなり、集うことで生まれていた人々の力が奪われていく。集えば感染のリスクがあり、だけど集わなければ孤立や孤独が襲う。なかなか見つからない答えを、探す知恵が必要なのだと感じます。

 古来から人間は、試されながら進化してきた。ウイルスはなくならない。また新しいものが生まれる。排除するという考えだけではうまくいかない。日本人が昔から持ち続けてきた、共存という考え方もとり入れ、世界に訴えるべきことがあるのではと思います。

 人はひとりでは、ものすごく弱い生き物です。なのに発展してきたのは、人と人のつながりが、何かを作り上げてきたからです。どうすれば世界が再び集えるのか――。スポーツは、それを表現していく最初の光になれるはずで、その象徴が2020年東京五輪・パラリンピックなのだと思います。

 大会の延期が決まった時、思ったことがあります。1年後に大会が開催できたら、ただそこに人々が集うだけで、どれだけ感動的なものになるだろうか。演出などいらない、ただシンプルにみなが集まるだけで、と。

なぜ作品で光を描くのか。「亡くなる間際の方に、世界に光を与えるような映画を作れという言葉をもらったことがある。人類は何度も試練に遭う。その先の光を、見ようよ一緒に、と思うのです」(東京都新宿区のジャパン・スポーツ・オリンピック・スクエアで)=平博之撮影
なぜ作品で光を描くのか。「亡くなる間際の方に、世界に光を与えるような映画を作れという言葉をもらったことがある。人類は何度も試練に遭う。その先の光を、見ようよ一緒に、と思うのです」(東京都新宿区のジャパン・スポーツ・オリンピック・スクエアで)=平博之撮影

今だからこそ国を超えて、競技でつながり合いたい

 スポーツは、本当に美しいです。単なる記録や勝敗だけではないものが潜んでいます。鍛錬を積んできた人たちの人間性、情熱。その物語に私たちが触れ、自分たちも前向きに生きていこうと思える何かがある。アスリートたちの精神が、希望を伝えてくれるのだと思います。私も、真剣にバスケットボールに打ち込んでいた時期があったので分かります。

 公式記録映画の監督として、難民選手団も追っています。難民の若者たちが、コロナ禍の中で日本に来て、走り、競い合う。ただそれだけで、どれほど幸せだろうと感じます。人類が、戦争で殺し合うのではなく、競い高め合う場を持てるように。それがオリンピックの始まりでもあったはずです。

 今、報道や世論には、なぜこんな時に五輪を開催しなきゃいけない、という声があります。感染が広がり、国境も封鎖される中で、不安が募るのは無理のないことです。でも私はもっと、アスリートなどの思いも伝わってくれればいいと思う。大会で目指すのは、勝ち負けだけではないのだと。今だからこそ国を超えて、競技でつながり合いたいのだと。なぜ五輪を開くのか、そこにはお金だけでは測れないものがあるからです。他方、五輪自体も、コロナ禍という警鐘も経て、本来人類にとって大切であった形に、根本にあった哲学に、近づくといいと思います。

大切にしなければいけなかったもの

 映画を撮るようになって、加速している感覚があります。毎日、当たり前にしている光というのは、実は当たり前ではないのじゃないかと。過去からの流れの上に、未来へのつながりの中に、今ある自分がいてこの一瞬が存在する、奇跡に近いのではないかという思いです。

 でも私たちは、デジタル媒体などがもたらす情報を処理するのに忙し過ぎて、本来大切にしなきゃいけないものを見落としながら生きています。本当に見て、本当に触れる時間が、あまりにもなさ過ぎるのです。私はそれを、奈良と都会の時間の感覚の違いに見ることがあります。パンデミックの中、家族と過ごす時間が増えて、大切にしなければいけなかったものを、見ていなかったことに気づいた人も多いのではと思います。

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1776056 0 東京オリンピック2020速報 2021/01/17 10:33:00 2021/01/17 10:33:00 2021/01/17 10:33:00 2020年東京オリンピック公式記録映画監督の河瀬直美さん(11月24日、東京都港区で)=平博之撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/01/20210112-OYT1I50031-T.jpg?type=thumbnail
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