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逆襲のヒロイン ~競泳 池江璃花子

  
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 競泳女子で日本大2年の池江璃花子(20)(ルネサンス)が、2021年の幕開けにあたって読売新聞のインタビューに応じ、心境を明かした。18年のアジア大会で6冠に輝き、白血病でどん底に落とされ、20年夏にレース復帰を果たした。「第二の水泳人生」は新たなステージに入った。

日本大学三軒茶屋キャンパス(東京都世田谷区)の教室で
日本大学三軒茶屋キャンパス(東京都世田谷区)の教室で

 日大水泳部の公式スーツに身を包み、池江は大学のキャンパスに姿を見せた。柔らかな日差しに似合う穏やかな表情を浮かべて、しかし、両目に強い光が宿っていた。20年10月の日本学生選手権(インカレ)の50メートル自由形で25秒62をマークし、4位に入ったのも遠い昔の出来事になっていた。

 「先のことしか考えていない。あの時より絶対に速くなっているし、強くなる自信も湧いている。これから先は、どこまで行けるかというチャレンジ」

 白血病と診断されたのは19年2月。抗がん剤治療、造血幹細胞移植を受け、約10か月の入院生活で体重は15キロ減った。筋肉で覆われていた体は、見る影もないほど細くなった。胸中を思いやる周囲に心から感謝する一方で、池江は悲劇のヒロインになるつもりなど、さらさらなかった。

 「(闘病は)死ぬほどきつかった。痛いし、苦しいし、治療も、この病気も、早くやめたかった。(水泳を始めて)15年間、積み上げたものはゼロになっちゃったかもしれないけれど、また新しい自分として結果を出せばいい。努力次第で、結果はどうにでも変わる」

チームメートらと笑顔でカメラにポーズ
チームメートらと笑顔でカメラにポーズ

 24年パリ五輪に出場したいと公言した。20年7月23日、国立競技場で東京五輪の聖火がともされたランタンを掲げ、メッセージを発信した。大会延期によるアスリートの喪失感に寄り添う言葉を並べながら、恐らく、頭の中で自らを戦いの舞台に上げていなかった。ところが、5か月あまりで少し変化が生じたらしい。

 「(今夏の東京五輪への挑戦は)迷っている。出ることに大きな意味はあると思うけれど、目指すべきか、24年まで(長期計画で)強化すべきなのか。それこそ、これからの結果次第」

 ある日、東京都内のプールで五輪出場経験のある選手たちと練習に取り組んだ。最後のメニューは全力で25メートル。「12秒2」と宣言してスタートし、タイムは12秒39だった。「ああっ!」と悔しそうな声が響き渡った。勝負の世界に生きている、根っからのアスリートの叫び声だった。

飛躍 活躍 躍進の年に

池江が自筆で書き入れた2021年のテーマ
池江が自筆で書き入れた2021年のテーマ

 池江は読売新聞のインタビューで、2021年のテーマとなる一文字を「躍」に定めた。4月に予定されている日本選手権に向け、100メートル自由形で54秒台と、具体的な目標も掲げた。

 ――2019年12月に退院した後、20年3月にプールでの練習も再開したが。

 「ビート板を使い、バタ足でタイムを計ったら25メートルで21秒。1か月足らずで19秒くらいになり、今は15秒台前半。元々キックがあまり得意じゃなかったけれど、水に顔をつけられなかった時期、キックの練習ばかりやって得意になってきた。今は週に4日、1日1回の練習で、距離は平均して4000メートルくらい」

プールでの練習にのぞむ
プールでの練習にのぞむ

 ――今年のテーマを漢字で表現するなら何か。

 「飛躍、活躍、躍進の『躍』。自分にとって、すごく意味のある言葉。それに見合った結果を徐々に出していければいいなと思っている。(過去の)結果が良かったところをピークにするんじゃなくて、心の底から満足できるまで泳ぎ続けたい」

 ――白血病の治療は続けているのか。

 「免疫抑制剤の服用は終わっていて、今は抗ウイルス剤を服用している」

 ――4月に日本選手権が予定されているが。

 「以前の日本選手権は、100メートル自由形の予選を54秒台でさらっと泳いでいた。それくらいの(タイムを出せる)自分には戻りたい」

「絶対戻る」決めていた

 

 ――復帰後のレースを見て、やはり天才だと驚く声も上がった。

 「嫌な気はしないけれど、少なからず私は努力しているつもり。努力は苦にならない。きついことはしなきゃいけないし、きつくないと『あ、強くなっているな』という実感が湧かない」

トレーニングに汗を流す
トレーニングに汗を流す

 ――負けず嫌いは変わらないようだ。

 「練習でも試合でも負けたら悔しい。以前は練習でも自分が一番だったけれど、復帰直後は誰にも勝てず、初めてネガティブになった。『もう誰にも勝てない』と決めつけていた。でも、マイナスな気持ちでは速くなれないし、意味がないと思って切り替え、インカレまでは、がむしゃらに頑張ろうと決めた。そうしたら、インカレは楽しかった。好きな水泳は『苦しい』じゃなく『楽しい』と考えてやればいいと思えた」

 ――あらためて、闘病を経て気付いたことは。

 「色んな人の気持ちがわかるようになったと思う。最近も、ふと入院中のことを思い出して夜中まで寝られなかった。自分も苦しかったけれど、家族にとっては『どうしようもない』『代わってあげられない』つらさがあるだろうなと感じ、勝手に涙が出てきた」

 ――第二の水泳人生は以前と意味合いも違うのか。

 「復帰して(一つひとつ)次のステップに向かうことが自分の中でのチャレンジ。今もアスリートとしての気持ちは強くある。でも、病気をしたからこそ人として成長もできたと思う。元気になった姿を見せることで、病気と闘う方々にも頑張ってほしい」

 ――頑張っている人に伝えたいことはあるか。

 「つらいことがあっても、人は気持ちや努力次第で、どうにでも変われると信じている。自分は、『絶対に戻る』と決めていたから今があると思っている」

美しい泳ぎ 「翼」描く

 

バタフライを泳ぐ池江。手足の周りに、水泡がきれいな左右対称を描く(2018年アジア大会で)
バタフライを泳ぐ池江。手足の周りに、水泡がきれいな左右対称を描く(2018年アジア大会で)

 2020年8月の東京都特別大会でレースに復帰した時、池江のパワー不足は明らかで、タイムも自己記録に遠く及ばなかった。しかし、多くの競泳関係者が舌を巻いた。闘病で長期離脱を強いられたにもかかわらず、無駄のない美しいフォームが、ほとんど色あせていなかったからだ。

 12年ロンドン五輪女子50、100メートル自由形金メダリストのラノミ・クロモビジョヨ(オランダ)に言わせれば、池江の泳ぎは闘病前から「美しい。白鳥が舞っているみたい」だった。

 日本水泳連盟が18年日本選手権の女子100メートル自由形で、選手がワンストロークごとに進んだ距離を調べたところ、優勝した池江が2メートル27~46で突出。大半の選手が2メートル前後だった。

 17年まで日本スポーツ振興センターで動作解析を担当していた岩原文彦・日本体育大准教授は「筋肉質な体ではないが、(身体の特長を)最大限に生かし、水の抵抗を少なくして効率よく泳いでいる」と説明する。ほぼ左右にぶれることなく、水面を滑るように進む。これまでに岩原准教授が見た選手の中で、自由形の際に尻が水面から見えるほどしっかり体を浮かせているのは、池江のほかに男子の萩野公介(ブリヂストン)と、女子の今井(るな)(日本コカ・コーラ)だけという。

新型コロナウイルスの感染拡大で「満喫」しているとは言えないけれど、ずっと憧れていた大学生活。キャンパスの校門の前に立つ姿から、充実感があふれ出ていた。
新型コロナウイルスの感染拡大で「満喫」しているとは言えないけれど、ずっと憧れていた大学生活。キャンパスの校門の前に立つ姿から、充実感があふれ出ていた。

 また、岩原准教授は池江の腕の動きを「水を逃がすのがうまい」と表現する。池江の全身にセンサーをつけて解析した。例えば、バタフライ。前方へ腕を投げ出した後、ほぼ肘を伸ばしたまま水をかき切る選手が多い中で、池江の腕は腰のあたりから肘を曲げた状態で水面に現れる。これが推進力を妨げない回転の形だといい、「効率がいいところで繰り返し腕を回すから、無駄なエネルギーも使わず(レースの)後半も伸びる」そうだ。

 

 運動部・工藤圭太、北谷圭、岡田浩幸
 写真部・上甲鉄
 取材・撮影協力 日本大学

(この記事は2021年1月1日付読売新聞元日第4部で掲載しました)

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1781706 0 東京オリンピック2020速報 2021/01/20 05:00:00 2021/01/25 15:56:11 2021/01/25 15:56:11 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/01/20210118-OYT8I50116-T.jpg?type=thumbnail
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