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パワー系種目でも躍進へ ニッポン競泳、陸上の可能性

   
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 日本の「お家芸」と言えば競泳では平泳ぎ、陸上ではマラソンと相場は決まっていた。いずれも繊細な技術や豊富な練習量が必要とされる種目で、日本は粘り強さや真面目さを強みに体格差を補い、世界と戦ってきた。だが、近年その構図は変わりつつある。競泳は男子自由形の短・中距離、陸上は男子100メートルで世界トップとの距離が縮まっているのだ。技術系種目だけでなく、パワー系種目でも輝きを放ち始めた現状を紹介し、さらなる躍進の可能性を探る。

競泳 自由形も急成長 松元「金」レベル

長身を生かした豪快な泳ぎ。男子自由形で世界の頂点を期待される松元克央
長身を生かした豪快な泳ぎ。男子自由形で世界の頂点を期待される松元克央

 日本競泳陣は2000年以降、多くの種目でオリンピックのメダルを獲得してきた。男子個人メドレーでも覇権を争うようになったが、唯一欠けていたのが男子自由形のメダルだった。

 そこに今、世界で頂点を狙える選手が現れた。2019年世界選手権の200メートル自由形で、この種目でオリンピック、世界選手権を通じて日本勢初メダルとなる銀に輝いた松元克央(かつひろ)(23)(セントラルスポーツ)だ。松元を指導する鈴木陽二コーチ(70)は「自由形で金を目指せる選手がやっと現れた」と胸を躍らせる。

 松元は1メートル86の長身を生かした豪快な泳ぎで、世界選手権決勝では1分45秒22の日本新記録もマークしたものの、「鈴木先生は銀では納得しない。僕も金を目指したいと、気持ちが高ぶっている」と話す。

 全国高校総体で優勝し、大学時代から急成長した。要因の一つは筋力トレーニングだ。2001年に国立スポーツ科学センター(JISS)が発足。現在では水泳選手に合った筋トレ方法が確立されている。鈴木コーチは「松元も高校までは細身だったが、海外勢に劣らない筋力を身につけた」と語る。

 意識の変革もあった。日本は1970~80年代の低迷期を経て、88年ソウルオリンピックで鈴木コーチが指導した鈴木大地が男子100メートル背泳ぎで金メダル。92年バルセロナオリンピックでは14歳の岩崎恭子が女子200メートル平泳ぎで金を獲得し、この頃から「日本人でも頑張ればメダルが取れるという意識が広がった」と、鈴木コーチはみる。

広がる裾野から、有望株が成長

 水泳界では1964年東京オリンピックで男子800メートルリレーの銅メダル一つに終わった教訓から、翌年に有志らが国内初のスイミングクラブを発足。クラブは全国に広がった。2020年11月末時点で日本スイミングクラブ協会には1100近くのクラブが登録する。裾野が広がり、その中から有望株が成長するサイクルが定着した。

 16年リオデジャネイロオリンピック400メートル個人メドレー金メダルの萩野公介(26)(ブリヂストン)や銅の瀬戸大也(26)、200メートル平泳ぎ前世界記録保持者の渡辺一平(23)(トヨタ自動車)らに加え、自由形の松元――。男子も多くの種目で金を狙える態勢が整いつつあるが、鈴木コーチはもっと先の夢を見ている。「後生畏るべし。いつか一番の花形、100メートル自由形でも金を狙える選手が現れてほしい」

パワー系種目 夢膨らむ 北島康介さん

 アテネ、北京オリンピックの男子平泳ぎで2大会連続2冠を達成した北島康介さん(38)が、四つの泳法で最も技術が要求されると言われる種目で世界に挑んだ日々を振り返り、パワー系種目の未来を語った。

「世界で戦う選手は決勝進出で満足せず、貪欲にメダルを狙ってほしい」と語る北島康介さん
「世界で戦う選手は決勝進出で満足せず、貪欲にメダルを狙ってほしい」と語る北島康介さん

 平泳ぎは決勝進出者の数で言うなら、八人八色の泳ぎ方がある。自分は指先から足首までをコントロールし、脚で生んだ推進力をいかに有効に使うかを追求した。探究心を持ち、速く泳ぐために何が必要で何を削らないといけないかを常に考えていた。

 平泳ぎはパワーをそこまで必要とせず、粘り強く高い持久性を持つ日本人に合っている。「お家芸」で憧れられる存在となり、多くの選手から突き上げられたが、進化せざるを得ない状況だったことが、すごくありがたかった。日本や世界のライバルと競い合い、自分を高められた。

 トップの背中を見ながら後進は育つ。多くの種目で国内に世界で戦える選手がいれば、それだけジュニア世代が選択する種目も広がる。パワー系種目も今、その好循環が生まれつつある。松元、塩浦慎理(イトマン東進)、中村克(同)らが、次の世代にどんな財産を残すかが重要だ。

 近年は日本人も体格で海外選手に引けをとることが少なくなり、技術も大きく向上してきた。世界のトップ選手の泳ぎを4年に1度しか見られなかった昔と違い、今はいつでも世界の情報を入手し、普段どういう鍛錬をしているかを知ることができる。もう、この地域の選手だから、この種目は弱いという時代ではない。ジュニアの選手も「いつかケーレブ・ドレッセル(米)と勝負したい」と世界にも目を向けている。

 日本競泳界が今後も高みを目指し、歴史が変わる瞬間を見たい。そのためにも今、世界で戦う選手は決勝進出で満足せず、貪欲にメダルを狙い、若い世代の未来への夢を膨らませてほしい。

五輪4大会連続メダル

 日本男子は、1988年ソウルオリンピック100メートル背泳ぎの鈴木大地の金メダルを最後に、92年バルセロナ、96年アトランタ、2000年シドニーと3大会連続でメダルなしに終わった。04年アテネ大会では、平泳ぎ2冠に輝いた北島康介の活躍もあって5個のメダルを獲得。そこから4大会連続で表彰台に上がり、個人は自由形以外の全ての泳法でメダルを手にした。16年リオデジャネイロ大会では、1964年東京大会以来52年ぶりとなる800メートルリレーのメダルにも輝き、自由形復活への足がかりを築いた。

新たな怪物 ドレッセル 世界の競泳界

  

 競泳界に君臨してきたマイケル・フェルプス(米)が、2016年リオデジャネイロオリンピックを最後に引退した。五輪で通算23個の金メダルを獲得した「水の怪物」の後継者となり得るのは、同じ米国の24歳で、自由形とバタフライを得意とするケーレブ・ドレッセルだ。

 19年世界選手権でリレー2種目を含めて6冠を達成。男子100メートルバタフライでは、準決勝で高速水着時代の09年にフェルプスが樹立した世界記録を0秒32短縮する49秒50をマークし、決勝では2位に1秒17差で快勝した。100メートル自由形でも世界記録にあと0秒05と迫る46秒96で優勝した。

 同選手権では、日本男子がオリンピック4大会連続でメダルを獲得している200メートルバタフライでも、20歳のクリシュトフ・ミラク(ハンガリー)がフェルプスの世界記録を破った。男子200メートル自由形決勝で1着ながらフライングで失格となった25歳のダナス・ラプシス(リトアニア)は松元のライバルとなる。

陸上 9秒台その先へ 日本勢 多士済々

 

 日本陸上界が悲願にあと一歩まで近づいている。オリンピック男子100メートルファイナリスト。日本最速を巡る史上最高レベルの争いの中で選手が躍進し、かつては遠くにかすんでいた世界の決勝の舞台が見えてきた。

男子100メートル決勝で日本人初の9秒台を成し遂げた桐生祥秀(2017年9月9日の日本学生対校選手権=福井市)
男子100メートル決勝で日本人初の9秒台を成し遂げた桐生祥秀(2017年9月9日の日本学生対校選手権=福井市)

 急成長を遂げるのがサニブラウン・ハキーム(21)。2017年世界選手権200メートルでは史上最年少の18歳5か月で決勝に進出して7位。17、19年大会の100メートルは準決勝で敗れたが、加速力は世界の強豪と遜色ない。19年には9秒97の日本記録を樹立した。

 17年に日本人初の9秒台となる9秒98をマークした桐生祥秀(25)(日本生命)は、昨年の日本選手権で6年ぶりに優勝。「プロとして甘えをなくした」と勝負強さが備わってきた。19年の国際大会で9秒98を記録した小池祐貴(25)(住友電工)は「(五輪メダリストが)隣にいても自分の走りができないことはない」と精神的なタフさを併せ持つ。

 この9秒台の自己記録を持つ3人に、勝負強い山県亮太(28)(セイコー)、後半の強さに定評があるケンブリッジ飛鳥(27)(ナイキ)、スタートダッシュが魅力の多田修平(24)(住友電工)とまさに多士済々だ。

五輪で決勝進出「暁の超特急」の再来を

 飛躍の種がまかれたのは1991年、東京で開催された世界選手権。日本陸連は海外の一流選手を撮影し、フォーム解析に着手した。見えてきたのは、足首で蹴るのではなく固定して地面を押すようにして走るなど、日本の指導法とは異なる動き。研究は続き、知見はやがて全国へ浸透した。

 さらに、2008年北京オリンピック男子400メートルリレーのメダル獲得が意識の変化を促した。当時の監督だった高野進さんは「世界は遠いものではないという気持ちが日本人に芽生えたのでは」と指摘する。そのレースを見て胸を熱くし、最新の技術や知識のもとで育ったのが、桐生らの世代だ。

 16年リオデジャネイロオリンピックの決勝進出ラインは10秒01で、日本人の五輪最高記録は同大会で山県がマークした10秒05。山県が「決勝まであと半歩と感じた」と話すように、1932年ロサンゼルス大会で6位入賞した「暁の超特急」こと吉岡隆徳以来のオリンピック決勝進出は現実的な目標だ。

 サニブラウンは、さらにその先の戦いを見つめる。「決勝のスタートラインに立てば、何が起こるかわからないし、誰が勝ってもおかしくない」。夢に向かって駆け続ける。

 

サニブラウン 決勝十分 朝原宣治さん

 近い将来、日本人ファイナリストは誕生するのか。北京オリンピック男子400メートルリレー銀メダルの朝原宣治さん(48)に展望を聞いた。

「日本選手も『勝負できる』という気持ちを持ち始めている」と語る朝原宣治さん
「日本選手も『勝負できる』という気持ちを持ち始めている」と語る朝原宣治さん

 日本勢でオリンピック決勝に一番近いのは、サニブラウン。スタートで失敗した2019年世界選手権準決勝も、そこから差を縮めた。失敗しないのも実力のうちだが、その課題をクリアすれば決勝進出の実力はある。

 桐生は安定して10秒0台で走れるようになったが、オリンピックでその力を出せるか。中盤から後半にかけてもう一段力をつければ、決勝進出の可能性が上がる。

 日本勢のレベルが上がった背景には技術の向上がある。カール・ルイス(米)や僕の映像を見ると、走りに無駄がある。今の選手はスタートで頭を下げて滑らかに加速し、接地後もすぐに脚を前に運んで時間的なロスがない。動きの理解度やレースでの再現力も高い。

 身体能力では、アフリカ系選手が圧倒的に上。僕も海外で練習したが、知れば知るほどパワーの差を感じた。アサファ・パウエル(ジャマイカ)なんて、ケガでほとんど練習できなくても復帰戦で10秒02。「僕のベストじゃないか」と驚かされた。

 対抗するには戦略が必要となる。準決勝で勝負するなら、冬季練習からそこにピークを合わせる準備をしないといけない。(03年世界選手権200メートル銅メダルの)末続慎吾の冬季練習は「これ以上やったら壊れる」というぎりぎりの内容だった。その力を本番に凝縮し、差を埋めたのだと思う。

 世界を見渡すと、決勝レベルの選手が増えた一方、全盛期のパウエル、タイソン・ゲイ(米)のような絶対的な選手はいない。日本選手も「勝負できる」という気持ちを持ち始めている。ミスが許されない厳しい戦いになるが、期待したい。

熱い男子スプリント勢

 

 男子100メートルの日本歴代10傑のうち、現役選手が今や7人を占める。そのほとんどは、桐生が2017年9月、日本人初の9秒台となる9秒98をマークして以降の記録だ。伊東浩司が1998年に樹立した10秒00の日本記録は19年間も更新されなかったが、桐生が「10秒の壁」を破ったことで止まっていた時計が動き出し、男子スプリント界は一気に活性化。2019年にはサニブラウンが9秒97と日本記録を塗り替え、小池も9秒98で続いた。かつて「夢」とされた9秒台スプリンターは3人となった。

ブロメル 王国の威信 世界の陸上界

 

 オリンピックや世界選手権など主要大会で無敵を誇った世界記録保持者のウサイン・ボルト(ジャマイカ)が2017年に現役引退し、世界のスプリント界は群雄割拠の時代に入った。陸上男子100メートルの覇権を巡る激しい争いが続きそうだ。

 米国勢では、17年世界選手権金メダリストのジャスティン・ガトリンが健在。9秒84の記録を持つトレーボン・ブロメルが復調し、陸上王国復権を狙う。そのほかには、レース巧者のアンドレ・ドグラス(カナダ)、ジャマイカのエース格として期待を担うヨハン・ブレーク、進境著しいアカニ・シンビネ(南アフリカ)もメダル候補。400メートルリレー強豪の英国勢、9秒91のアジア記録を持つ蘇炳添(中国)も侮れない。

 直近の19年世界選手権を制したクリスチャン・コールマン(米)はドーピング違反をめぐって係争中で、東京オリンピックへの出場は微妙。ただ、スター候補の誰が出ても大きな差はない。サニブラウンにも決勝進出のチャンスはある。

運動部・平野和彦、工藤圭太、北谷圭

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1789409 0 東京オリンピック 2021/01/22 17:00:00 2021/01/22 18:06:23 2021/01/22 18:06:23 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/01/20210122-OYT8I50015-T.jpg?type=thumbnail
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