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感動のシーンが見たくて…クライミングの「壁」を作るルートセッターの仕事

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 街なかに壁登りのジムができるなど、東京オリンピックの新競技として注目されるスポーツクライミング。形や大きさの様々なホールド(突起物)が付いた壁(課題)を攻略した時の達成感が魅力のスポーツだ。大会で使用する壁のルートを作るのは「ルートセッター」と呼ばれる専門家で、国際スポーツクライミング連盟(IFSC)公認のルートセッターは日本に数人しかいない。その一人、平松幸祐さんにセッターの仕事や課題作りにかける思いを聞いた。(平野和彦、千葉直樹)

ルートづくりはどういうふうに行われますか?

美しい曲面に大小のカラフルなホールド(突起物)がついている。(山形市のジム『FLAT BOULDERING』)
美しい曲面に大小のカラフルなホールド(突起物)がついている。(山形市のジム『FLAT BOULDERING』)

 大会の日数や用意するコースの数にもよりますが、世界選手権でリードなら6人、ボルダリングなら9人くらいのチームを、チーフと呼ばれるリーダーがまとめます。

 まず粗々の図面(設計図)を描いてチーム内でイメージを共有します。ルートが世界共通で決まっているスピード以外の2種目では特にひな型はないので、バリエーションは無限と言えます。

 ボルダリングの場合、決勝は3課題なので、それぞれの課題の役割づけは大切です。得手不得手や体格差のある選手に対して公平性を保つ必要があります。ジャンプのような動きが要求される課題ばかりではだめで、身長の高い人が有利になってもだめです。課題ごとに動きが違えば、観客にも競技の面白さが伝わります。

 課題は大会前にはできており、開幕して実際に壁に復元する時には準決勝から決勝までの慌ただしい間に、選手のパフォーマンスを見て修正する作業もあります。課題ができたら、試しに実際に登ってみます。

誰も登れない、もしくは誰でも登れる、となると順位がつきにくい。難易度はどうつけますか?

「ルートセッターは大工さんみたいでもあります」
「ルートセッターは大工さんみたいでもあります」

 大体は(登り方の)「正解」をイメージしながら作るのですが、僕は感覚的に新しい要素を入れたりして、自分も登り方がわからないところから考えることもあります。結局、終わってみなければわからないのが正直なところですが、長年の経験から養われた勘も働きます。

 (決勝に残る)6人の中で2人くらいは登れる、ぐらいの感覚です。経験が少ない時は、「登れる」「登れない」が極端に結果に出てしまうなど苦い思いもしました。時には「誰も登れないかもしれないが1人登れるかもしれない」というリスクも覚悟する必要があります。そうしないと差がつきません。

セッターとしてやりがいを感じるのはどんな時?

 若い時は選手への競争心から、登れない選手を見て「よしよし」と思ったこともあったけれど、今は選手がいいパフォーマンスをするとうれしくなります。課題を作ったから、攻略するのがいかに大変かを知っている。その選手たちの感動的な完登劇を見たいから作っているわけですよね。

 今はチームの中でも年長になりましたが、若いセッターには「君ができればオーケーじゃない。課題は選手のためにあるんだよ」という思いを伝えていきたいです。

課題で流行の変化はある?

 もともとクライミングで難しいのは、いかに「耐える」かでした。このホールドを持って、次を持って、耐えて、振られて落ちる。耐えられた者が勝ち。それを誰かが逆転の発想で、耐えられなかった時にもう1個動けば落ちずに済む、それでも止まらなければ次に足を出したら止まる、というふうに、耐えなくて済むけれどもコツがいる、という動きに変わってきました。

「課題は選手のために作る。選手がいいパフォーマンスをするとうれしいです」と話す平松さん
「課題は選手のために作る。選手がいいパフォーマンスをするとうれしいです」と話す平松さん

 「コーディネーション」と言われる、連続して繰り出す動きです。飛びついて色々な動作をして一気に(体を)止めるような動きがここ数年で主流になりました。そういう資質は日本選手が高いと思います。瞬発力が高く、身軽さを武器にしていて、指で保持する力が強い。日本のボルダリング選手はルートセッターにとってものすごく手ごわい存在です。

街など歩いていて職業柄気になることは?

 ホールドを壁に設置するのに電動ドライバーとネジを使うので大工さんみたいな側面があります。セッターの人は工具好きで、ホームセンターに行くと道具が気になります。リードは壁が高く、作業は高所作業車を使うので、電柱作業をしていると気になるかもしれません(笑)。

プロフィル


 1983年、神奈川県生まれ。大学1年でクライミングを始め、日本選手権などに出場。2009年にIFSC国際ルートセッターの資格を取得し、国内外の大会でチーフを務める。2015年春に山形市内にボルダリングジム『FLAT BOULDERING』をオープンした。

東京オリンピックのスポーツクライミング競技

課題にアタックする選手たちは、コースを読み、体力の限界に挑む。(五輪日本代表に内定している原田海選手)
課題にアタックする選手たちは、コースを読み、体力の限界に挑む。(五輪日本代表に内定している原田海選手)

 スピード、ボルダリング、リードの3種目の総合成績で争われる。男女ともに20人で予選が行われ、上位8人が決勝に進出する。予選、決勝はそれぞれ1日で3種目を行い、各種目の順位を掛け算して出した総合得点の少ない選手が上位となる。

  スピード  1対1で、高さ15メートルの壁を登り切る速さを競う。壁は世界共通のルート。フライングは1回で失格となる。予選は2本を登り、速い方のタイムで順位を競うが、決勝はトーナメント方式で1トライのみ。

  ボルダリング  課題となる複数の壁を、4分の制限時間内にいくつ攻略できたかを競う。完登数が同じ場合は、各課題のトライ数や各課題の一定の高さに設定された「ゾーン」と呼ばれるホールドに到達しているかどうかが考慮される。課題数は予選が4、決勝は3となる。

  リード  12メートル以上の壁を、命綱を着けた状態で、6分の制限時間内にどこまで登れるかを競う。途中で落下した場合はその地点が記録となる。完登同士、または同じ高さの場合はタイムで順位が決まる。

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2134749 0 東京オリンピック2020速報 2021/06/18 10:01:00 2021/06/18 10:01:00 2021/06/18 10:01:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/05/20210531-OYT8I50007-T.jpg?type=thumbnail
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