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鬼気迫る演武で、前評判通りの圧倒的な強さを見せた。沖縄県勢として初の金メダルに輝いた空手男子形の
沖縄勢初の金メダル

「お母さん、愛しているよ」。2019年3月、沖縄市での告別式。いつも感情を表に出さない男が、声を詰まらせて弔辞を読んでいた。母・紀江さんは乳がんを患い、57歳で亡くなった。

中学3年から師事した元世界王者・佐久本
一日も練習を休まず、終わった後も、道場の鏡の前で形を磨き続ける。「一切妥協をしない、努力の天才。誰かが止めないと何時間でも稽古する」と佐久本さんは言う。
空手漬けの毎日を支えたのが紀江さんだった。高校の部活が終わった後、道場がある恩納村まで片道1時間ほどの道のりを送り迎えし、車の中で食べる弁当を用意した。
高校3年時には高校総体と国体に出場。父・勇さん(59)は「諒がめきめき成長していくのを、妻と一緒に楽しんでいた」と振り返る。
紀江さんにがんが見つかったのはその頃だった。通院治療を続けながら、試合会場に足を運んだ。14年から世界選手権を3連覇し、国内外で無敵の強さを誇るようになってからも、息子の演武を心配げに見守った。
16年に空手が五輪競技に採用されると、「五輪まで頑張ろう」が、勇さんと紀江さんの合言葉になった。しかし、病状は徐々に悪化。家族が見守る中、息を引き取った。「金メダル、頑張ってね」。息子に最後にかけた言葉だった。
「自分の形を思い切りやれば、母も喜ぶ」。変わらず鍛錬を続けられたのは、東京五輪で恩返しをしたい、との思いからだった。
試合後の表彰式。喜友名選手は母の遺影を手に表彰台に上がり、一緒に君が代を聴いた。
「しっかり、約束を守ったよ。安心して」