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「感染対策不安」の声も
東京五輪で有観客となった宮城、茨城、静岡3県の計5会場では、約4万3300人の観客が競技を観戦した。新型コロナウイルス下での開催に賛否が分かれた今大会。読売新聞が観客に行ったアンケート調査には、「選手の姿に勇気づけられた」「感染対策に不安を感じた」など様々な声が寄せられた。(北瀬太一、鈴木瑠偉)

■「意義ある」70%
アンケートは、宮城スタジアムや茨城県立カシマサッカースタジアム、富士スピードウェイ(静岡県)など5会場で観戦した計155人に実施。五輪の意義や感染対策への感想などを聞いた。
コロナ下での開催意義については、「ある」とした人は109人(70%)、「ない」とした人は34人(22%)、「分からない」または無回答などは12人(8%)だった。

宮城スタジアムで7月21日、女子サッカーの中国―ブラジル戦などを見た男性(67)(埼玉県熊谷市)は「気づけば、選手に自然と拍手を送っていた」と答えた。1964年の東京大会ではテレビのある家に押しかけて観戦。今回は家族の中に開催反対の意見もあり、不安な気持ちもあったという。男性は「みんなで選手を歓迎できなかったのは残念。ただ、様々な人種や国の人が戦う姿を直接見て親近感がわいた。平和を伝える意義があった」と語った。
「コロナ禍の中で前向きになれた。ルールを守れる日本だからこそ開催できた」(40歳女性)、「子どもに希望を与えられた」(47歳女性)などの意見もあった。
意義を感じなかったとしたのは、仙台市の男性(61)。「観戦すれば何か感じるものがあると思ったが、不安な気持ちは変わらなかった。国民の声が無視されているように感じる」と説明した。
「盛り上がりがない」(69歳男性)、「国際交流ができず意義はない。可能な限り観客を入れるべきだった」(40歳男性)などの声もあった。
「直行・直帰」95%
■歓声上げず
感染対策については、95人(61%)が「十分取られていた」、54人(35%)が「まあまあ取られていた」と回答。「全く取られていなかった」、「あまり取られていない」と回答したのは計6人(4%)だった。会場への行き帰りについて、直行・直帰すると答えた人は147人(95%)だった。
宮城スタジアムで、中学1年の娘と一緒になでしこジャパンの戦いぶりを観戦した会社員の男性(52)(東京都)は、係員の指示に従って娘との間を1席空けて着席。係員から「大声やハイタッチは控えて」と何度も呼びかけられ、周囲の観客は日本の得点時でも歓声は上げず、拍手を送った。男性は「安心して楽しめた」と喜んだ。
51歳会社員の男性(東京都)は、不安を感じたとした。自転車競技トラック種目が行われた伊豆ベロドローム(静岡県)では8月4日、IDカードを首から下げた海外チーム関係者約10人の団体が近くに陣取ったため、やむを得ず席を移動した。中には、マスクを外し大声で声援を送る関係者もいた。感染対策の指針「プレーブック」では、選手らが観客席に行くことを禁止しており、男性は「観客と海外の関係者が交わるのは感染対策上、問題はないのかと違和感を覚えた」と話した。
■復興五輪
宮城スタジアムでは、8人が自由記述で「復興をPRできた」などと書いた。
宮城県富谷市の自営業の女性(45)は「被災地で五輪が行われたというだけでも、復興のメッセージを届けられたのではないか」と力を込めた。
東日本大震災では、10年来の友人を津波で亡くした。最後に会ったのは、震災1か月前に仙台市内で挙げた自分の結婚式。妊娠中だったのに、南三陸町から夫の運転で数時間かけて来てくれた。感謝の言葉を伝えられず、喪失感と自責の念に駆られているという。女性は「五輪を観戦し、復興を感じたい。他の人にも感じてほしい」と話した。