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[視界良好]64年大会 手書きの記憶…編集委員 三木修司

  
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 1964年開催の東京五輪では「オリンピック記録ブック」が発売された。競技結果を自分で書き込む記録帳で、見どころや余話も盛り込まれた。大阪の文秀出版社が1冊150円で売り出し、「東京大会の全内容を、トランジスタにした国民必携のメモ帳」と うた った編集者の言葉が、昭和の時代を感じさせる。

男子マラソンの結果を書き込んだ五輪ブック
男子マラソンの結果を書き込んだ五輪ブック

 全種目の結果を鉛筆で 几帳面きちょうめん に書き込んだ現物が手元にある。持ち主は東京・駒込在住だった当時40歳の片山充子さん(93年没、享年68)。ご家族の話によると、「自宅の窓を開けるとブルーインパルスの描いた五輪が見えた」という原色の思い出が残る。趣味は俳句で、相撲以外にスポーツをテレビ観戦する人ではなかった。その女性が「国民必携」の一冊をびっしり埋めたのだから面白い。

 マラソンの欄は、1位のアベベから20位まで書き込まれている。アベベは後続を4分以上離してゴールした後、柔軟体操をする余裕を見せ、円谷幸吉は最後の競技場でヒートリーにかわされてメダルの色が銀から銅に変わった。勝負の悲喜が詰まった名場面だ。そんな光景を頭の中に再現しながら毎日、毎夜、帳面を埋めていったのだろう。

 2020大会の印象を問われれば、個人的には大橋悠依の個人メドレーだ。400、200メートルともにラスト3メートルが忘れがたい。400は逃げ切り、200は追い込んだ。両種目とも疲労の極みで腕の力は限界だったろう。だが、遅咲きと呼ばれた彼女が磨き上げた水の抵抗の少ない、伸びやかで美しい泳ぎの姿勢は乱れなかった。輝かしい2冠を裏付ける技術だ。

 高画質映像やSNSなどとは対極にある古い記録帳だが、眺めていると57年前の匂いがよみがえる気がする。自分の記憶も20年、30年後、風化が手伝う余韻のような景色でありたい。

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2310210 0 東京オリンピック2020速報 2021/08/24 15:00:00 2021/08/24 16:10:11 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/08/20210824-OYT1I50081-T.jpg?type=thumbnail
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