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【自転車ロード】56歳記者が超難関オリンピックコースを走ってみた(前編)

 
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 オリンピックの自転車競技「ロード」は、市街地や山間部の一般公道を限界スピードで走り抜ける長距離レースだ。危険と隣り合わせのダイナミックな試合展開が最大の見所だが、一般の自転車乗りにとっては、世界のトップ選手が走行するコースを実際に走ることができるのも魅力。というわけで、自他ともに認めるロードフリークの私、吉田典之(読売新聞編集委員)が、来年の東京オリンピックのコースを走って取材した。これからチャレンジされる方の参考になりますように。

 東京オリンピックでは、男子(総距離約244キロ・獲得標高約4865メートル)と女子(約147キロ・約2692メートル)に分かれる。昨年発表されたコースは、東京・調布をスタートし、神奈川、山梨を抜けて静岡の富士スピードウェイでゴール。想定時間は男子で6時間。峠が連続する山岳コースが選手の前に立ちはだかり、完走者は3割とも言われるほどタフな競技だ。(日程は男子が来年7月24日、女子が25日)

 ただ、ほとんどが一般公道で、自分のペースで小分けにして走れば、走破は難しくない。あらかじめどこにコンビニがあるかを調べておいて、休憩を挟みながら走れるように計画するのがおすすめ。なお、取材では重複走行を避けた区間がある。特に山岳区間は道幅が狭く、クルマには十分注意してほしい。前編では「武蔵野の森公園」から山梨県道志村の「道の駅どうし」までの約83キロを紹介する。

 ・自転車競技の概要(競技方式など)
 ・「パラ選手 ストーリー魅力」…自転車競技マネジャー 片山右京氏

市街地(武蔵野の森公園~是政橋)

距離約10キロ 所要約30分

「念願だったオリンピックコースを走ります!」
「念願だったオリンピックコースを走ります!」
【動画】武蔵野の森公園~是政橋(※2倍速)
【動画】武蔵野の森公園~是政橋(※2倍速)

 【コース】(主な交差点など)武蔵野の森公園→基督教大裏門→前原交番前→けやき並木北→是政橋

 朝9時、天気は薄曇り。肌寒いが、走るにはちょうどよいコンディション。日曜日の朝で、まだ人や車通りも少ない。気を引き締めてスタートする。

 東八街道は幅も広く、デモ走行には最適だ。来年の開催時も、新型コロナへの警戒を怠るわけにはいかないだろうが、多くの人がスタートを見に来るだろう。そんな光景を想像しながら軽く流す。

 しかし、いきなり道を間違える。記憶通り、小金井街道へと斜めに入ったものの、すぐに交差する新小金井街道を南下してしまい、市街地を東西に貫く桜並木通りを逃してしまう。しばらく走っておかしいと気づいたが、そのまま南下し遠回りして是政橋へたどり着く。

 【用語解説】「パレード区間」先導車の後ろにつき、ゆっくりと走る区間。観客が出場チーム、選手を見る時間が長く、市街地で行われるレースのアピールにもなる。パレード区間を終えると先導車が外れ、本格的にレースが始まる。

市街地(是政橋~豊ヶ丘小入口)

距離約17キロ 所要約50分

日本らしい住宅が立ち並ぶ多摩ニュータウンを快走。細かいアップダウンが丘陵地を切り拓いて造成されたことを思わせる
日本らしい住宅が立ち並ぶ多摩ニュータウンを快走。細かいアップダウンが丘陵地を切り拓いて造成されたことを思わせる
【動画】是政橋~豊ヶ丘小入口
【動画】是政橋~豊ヶ丘小入口

 【コース】是政橋→城山公園→向陽台小学校南→稲城五中入口→稲城中央公園→大谷戸大橋北→長峰二→若葉台公園西→若葉台小学校西→多摩東公園→聖ヶ丘四→聖ヶ丘二→聖ヶ丘一→多摩馬引沢→多摩東公園→南豊ヶ丘フィールド前→豊ヶ丘小入口

 レースは是政橋からが本番だ。川を渡ると空へ向かって広く長い坂が現れる。滑走路から飛び立つような雰囲気をつかの間味わうと、右折して向陽台住宅街に入る。広々とした閑静な住宅街で、日曜日で家族連れが散歩したり、買い物をしたりと、のんびりとした雰囲気が漂う。

 ここを抜けると、大きな幹線道路を挟んだ向かい側の住宅街、その隣と、五つの住宅街を走り抜ける。戸建ての住宅、集合住宅と様々だ。コース選定に当たっては、日本の生活空間の中を通ることをアピールしたそうで、ここまではパレード区間の延長ともいえるだろう。

 住宅街ごとに道を間違えてしまう。「大勢で走る本番ではこのような苦労はないだろう」。そんなお気楽なことを考えながら、5番目の住宅街「聖ヶ丘」を出て都道18号線に出る。

 ここは広い上り坂。スタート地点からおよそ10キロで、いよいよ選手も調子を上げそうだ。短い坂を上ると上下線が別々の広い「南多摩尾根幹線道路」へ。しばらく走り、多摩ニュータウンの一つ、豊ヶ丘を南から北に抜ける。ゆったりとしたアパート群が並ぶ広い並木道で、ここでも多くの人が路肩、あるいはアパートのベランダから、選手を応援するに違いない。

 道を数回間違えたのが響き、予定より1時間遅れになる。

 【用語解説】「ロードバイク」軽量で速く走れる自転車のこと。重量は10キログラム以下が普通。数多くのメーカーがあるが、ギヤ、ブレーキは日本メーカー製が多く、フレームの材質、形状、品質、性能がメーカーのアピールポイントになる。

市街地(豊ヶ丘小入口~元橋本)

距離約11キロ 所要約40分

出発前に愛車を入念に点検
出発前に愛車を入念に点検
【動画】豊ヶ丘小入口~元橋本
【動画】豊ヶ丘小入口~元橋本

 【コース】豊ヶ丘小入口→多摩青木葉→多摩南部地域病院→島田療育センター入口→多摩ニュータウン入口→坂下→元橋本

 多摩ニュータウンを抜ける道はさらに続く。京王相模原線に沿って走る「多摩ニュータウン通り」では銀杏並木がところどころにあり、路面に落ちた銀杏が放つ独特のにおいが、秋の深まりを感じさせる。走りやすく、スピードも出せる。しかし、先はまだ長い。エネルギーを温存しつつ、少しだけペースを上げる。

 町田市の多摩境駅近くで、町田街道にぶつかる。ここからは、細めの片道1車線の道路だ。車道に面して、時を感じさせる住宅が立ち並ぶ。

 多摩地区を南北に結ぶ主要道の東京環状(八王子バイパス)で、高架の脇を南に曲がる。近くのコンビニで休憩。

 【トピックス】「オリンピック日本代表」ロードレースの代表は4人。男子は、沖縄県出身の新城幸也選手(36)と青森県出身の増田成幸選手(37)。女子は大阪府出身の与那嶺恵理選手(29)と宮城県出身の金子広美選手(40)。日本でロードレースの人気が高くなってきているが、ヨーロッパほどではなく、海外で武者修行する選手も多い。

 ・五輪の自転車ロードレース、3大会連続の新城ら4人内定
 ・増田選手五輪内定 自転車 「日の丸誇りに」

市街地から山岳区間へ(元橋本~青山)

距離約14キロ 所要約70分

中華料理店「孝和」で昼食休憩
中華料理店「孝和」で昼食休憩
【動画】元橋本~青山
【動画】元橋本~青山

 【コース】元橋本→相原2→相原台→久保沢→串川橋→関→青山

 道志みちの入り口となる、国道413号線(津久井街道)に入る。3キロほど走り、相模川の手前で県道510号の旧道へ。急坂を下り、河岸のヘアピンカーブを抜けると、相模川にかかる細い小倉橋を渡る。かながわの橋100選にも選ばれている、大小のアーチが組み合わさったデザインの美しい橋だ。

 橋を抜けると、ここからいよいよ山岳路だ。右へ曲がりながら空へと続くように、長い上り坂が始まる。選手にとってはもちろん、走りなれた人には力を発揮できるところだが、ヘタレライダーの私はまだ長い先を案じ、とにかくゆっくりと着実に走ることを心掛ける。

 速度はみるみる落ち、ギヤを次々と軽くしていく。時速10キロ程度。脇を若い人たちや、中学生と思われる子どもが軽々と抜かしていく。大切なのは、他人と比べないこと。とにかく、苦しくてもペダルを回し続けること。そんなことを考えながら昼食場所の食堂にたどり着いた。

 昼食を済ませ、元気を回復して出発する。登っては少し下り、また登りと、アップダウンを繰り返しながら、じわじわと高度を上げていく。元気であれば楽しい山道だろう。でも、疲労がたまった体には、下りは束の間の休憩時間。とはいえ、下りが長いと登りも長くなる。とにかく前へ進むことだけに意識を集中する。

 青山交差点を左に曲がり、しばらく走った先のコンビニでひと休憩。チョコレートを食べ、エネルギーとなる糖分を補給する。

相模川にかかる小倉橋(手前)。ここから風景が一変する
相模川にかかる小倉橋(手前)。ここから風景が一変する

 【用語解説】「獲得標高」山道の上り下りのうち、どれだけ坂道を登ったかを足し合わせた数字。坂道には緩急があり、獲得標高はコースの特徴を表す1指標に過ぎないが、一般的には獲得標高が高いほど満足感も高くなる。

山岳区間(青山~野原吊橋)

距離約19キロ 所要約55分

山岳区間でだいぶ体力を消耗した。せめて序盤のロストがなければ…(野原吊橋そばで)
山岳区間でだいぶ体力を消耗した。せめて序盤のロストがなければ…(野原吊橋そばで)
【動画】青山~野原吊橋
【動画】青山~野原吊橋

 【コース】青山→野原吊橋渓谷遊歩道駐車場

 坂道がきつくなり、疲労も増してくると、先行きの見通しで頑張り度合いも変わってくる。先が見えればなんとか頑張れるが、曲がりくねって先が見えなくなったり、木々で隠れていたりすると、気が萎えてしまう。トンネルの手前、斜度が10%近いきつい坂では、つい足を着いて休憩してしまった。

 気を取り直してトンネルを二つくぐると、国道413号線の神奈川県内最高地点の看板。思わずうれしくなるが、あくまで神奈川県内のこと。喜びもほどほどに足を進める。

 県境を抜け、山梨県道志村に入る。車やバイク、自転車は、東京方面に向かう車両ばかりになる。吊り橋の遊歩道駐車場で休憩する。

 【用語解説】「斜度」坂道の傾斜のこと。100メートル走って10メートルの高度差があれば斜度は10%。一桁台なら見た目はきつくないが、長時間になると辛い。オリンピックコース最大の難所は富士スピードウェーから山中湖に向かう明神峠超え。ここでの最大斜度は20%。

野原吊橋~道の駅どうし

距離約12キロ 所要約60分

【動画】野呂吊橋~道の駅どうし
【動画】野呂吊橋~道の駅どうし

 【コース】野原吊橋渓谷遊歩道駐車場→道の駅どうし

 予定の1時間遅れは縮まらず、曇り気味の天気で暗くなってきたため、約10キロ先の道の駅どうしまで行き、そこでその後は決めることにして出発。体の辛さは変わらないが、雲の切れ間から笠をかぶった富士山が顔をのぞかせ、気がまぎれる。スピードは相変わらず10キロ程度。元気なおじさんが、くるくるとペダルをこぎながら快調に私を抜いていった。

 道の駅に到着したのは午後4時半頃。もう暗くなってきたのでこの日はこれまでとする。

書いた人はこんな人

吉田典之
吉田典之

 自転車に乗り始めたのは3歳の頃。最初は子ども用の補助輪付きで練習したが、乗れるようになるとスピードが出ないのに飽き、大人用を乗り回す。高校生時代は片道8キロの坂を毎日上り下りする。

 ヒルクライムレースに出るようになったのは2012年。山梨県での富士山ヒルクライムが最初。麓から五合目までひたすら坂道を登るレース。鉄製の重いクロスバイクに乗り、タイムは2時間12分。

 食べ物のこと 炭水化物を多めに取るカーボローディングがよく言われるが、タイムは追求せず、楽しく乗るタイプなので日々の食事にはこだわらない。これぐらいの距離なら普段のトレーニングが大切。前日は昼にカツカレー、夜は魚の揚げ物。

 トレーニング 週末は10キロ走るか、自転車を数十キロこぐ程度。週日はジムで筋トレ。

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1654816 0 企画・特集 2020/11/16 05:00:00 2020/11/27 23:12:04 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/11/20201116-OYT8I50000-T.jpg?type=thumbnail
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