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「7:3」に見合った成績?
北京五輪と2024年パリ五輪の放送権料は、2大会合わせて440億円にのぼる。この巨額を国際オリンピック委員会(IOC)に対して支払っているのは、NHKと日本民間放送連盟(民放連)で構成するジャパンコンソーシアムだ。競技の中継は、NHKと民放の双方から派遣されたジャパンコンソーシアムのスタッフが、国際映像をベースに行っている。このため、民放とNHKの五輪番組には、競技中継に関して言えば、映像や実況、解説の質的な差は生じていない。違うのは、スタジオでのトーク部分やCMの有無だけだ。

NHKと民放連の放送権料の折半比率は非公表だが、「7:3」程度と言われている。北京五輪期間中の地上波テレビ番組の数も、ほぼ同じ比率だった。どの競技をどの局が中継するか、出資比率に応じて割り振られているとみられる。
競技中継の質に差がなく、放送している番組数には大差がある。そんな現状からみれば、高視聴率番組がNHKに数多いのも不思議はない。BSまで含め、多数のチャンネルを大会期間中はほぼ五輪中継一色にしてしまうのも、受信料で成り立っているNHKが視聴者ニーズにこたえて組んだ番組プログラムと言ってしまえば、それまでだろうか。
こうしたことをふまえて、NHKと民放連にそれぞれ取材のメールを送ってみた。五輪で得をするのはNHKだけ――という声がラジオ番組で放送されたことについて、「意見を聞かせてください」と。NHK広報局は「コメントはありません」との書面を寄せ、民放連の広報担当は電話で「回答する材料を持ち合わせていません」と答えた。
五輪放送を見直す時期では…砂川浩慶教授
「民放側から五輪中継への不満が噴出するのは、今回が初めてではありません。10年前のロンドン夏季五輪についても、民放連の会長は五輪放送を『赤字だ』と語っています」
こう指摘するのは、砂川浩慶・立教大教授(メディア産業・制度論)だ。赤字にもかかわらず、民放各社が五輪のたびにNHKとコンソーシアムを組んで放送し続けるのは、なぜなのだろう。砂川教授は説明する。

「五輪が終わると、メダリストや人気選手たちは、バラエティー番組にたくさん出演します。競技人生に密着したドキュメンタリー番組なども数多く制作されます。テレビ局側は、やはり五輪出場時の競技映像や感動の名場面をふんだんに盛り込んで番組を作りたいところです。そうした『アーカイブ映像』の使用権も、五輪の放送権には含まれます。コンソーシアムを抜けた放送局は、これを使えなくなってしまうのが痛いのです」
「北京五輪の視聴率ベスト10を見ると、トップは29・2%に上り10位でも16・2%。スポーツ中継で、テレビがインターネットの有料動画配信に押され気味の今、これほどの視聴率をたたき出せる五輪は、やはり手離しがたい優良コンテンツに違いありません」
民放側は、巨額の放送権の一部を払い続け、赤字の現状を耐え忍ぶしか、やりようがないのだろうか。
「五輪放送の方針を見直し、発想の転換が必要な時期」ではないかと、砂川教授は考えている。五輪期間中、地上波生中継の視聴率でNHKと競争し続けたところで、少ない番組を4~5局で分け合う民放の勝ち目は薄い。だが、テレビ地上波が、このまま五輪放送の主役であり続けるかというと、そうとばかりも言い切れない。
北京、東京、平昌(韓国)と、冬季と夏季の五輪開催地はここ3大会、日本との時差がないか小さかった。このため、地上波テレビが高視聴率をたたき出しやすいゴールデンタイムなどの時間帯に、人気競技の生中継を数多く放送できた。しかし、2024年パリ夏季大会や26年ミラノ・コルティナダンペッツォ冬季大会など、時差の大きい欧米開催の五輪では、生中継が真夜中になるケースが増える。ここ3大会ほど地上波テレビが視聴率を伸ばせない可能性はある。
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