車いす陸上55歳の伊藤智也が世界記録男に挑む~アジアパラ間近

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 日本のメダル量産に沸いたアジア大会に続き、アジアパラ競技大会が10月6~13日、インドネシアのジャカルタで開催される。陸上競技の男子400、800メートル(車いす T52 )では、佐藤友祈(28)(WORLD-AC)に伊藤智也(55)(バイエル)が挑む。佐藤は7月に400、1500メートルの世界記録を樹立した第一人者で、伊藤はパラリンピックの金、銀メダル計5個を誇り、2020年東京大会での優勝を目指して現役復帰した「車いすの鉄人」。今まさに全盛期の佐藤に、2回り以上年長の伊藤は、どこまで食い下がれるか。(敬称略、メディア局編集部・込山駿)

日本選手権の男子800メートルで、スタート位置に並んだ佐藤(左)と伊藤(9月1日、高松市で)
日本選手権の男子800メートルで、スタート位置に並んだ佐藤(左)と伊藤(9月1日、高松市で)

鉄人に立ちはだかる佐藤友祈

 9月1日、高松市屋島競技場。アジアパラの前哨戦とも位置づけられる「日本パラ陸上競技選手権」が行われた。この大会の男子800メートルで、佐藤と伊藤は顔を合わせた。

 号砲とともに勢いよく飛び出したのは、伊藤だった。「勝負よりも、スタートのタイミングを確認するのが第1のテーマ。そのうえで、自分と佐藤くんの現在の力関係を確かめられたら」と話していた通り、積極的な走りを見せた。この瞬間は、ベテランの勝負勘が垣間見えた。

佐藤友祈
佐藤友祈

 しかし、佐藤はやはり速かった。トラックの第1カーブを抜ける頃には、出遅れを完全に挽回。雨まじりの難しいコンディションをものともせずにグングン加速し、車いすの鉄人を引き離していく。タイヤから手が大きく離れずに回り続けるようなこぎ方も、腕力を効率よく車いすの推進力に変えられているように映った。2周目もスピードを落とさず、1分56秒88でゴール。自身の持つ大会記録を0秒60、更新した。

 「スタートがうまくいかなくて、日本記録を塗り替えられるほど、伸びなかった。ただ、このコンディションのもとで1分56秒台にタイムをまとめられたレース内容は、決して悪くない。今はモチベーション(やる気)も常に上がっている」と、佐藤は自身の走りに納得できた様子だった。翌日の400メートルと1500メートルでも、大会記録をマーク。アジアパラへの弾みをつけるには、十分な日本選手権となった。

 2016年のパラリンピック銀メダリストでもあり、今や王者の風格を漂わせる佐藤。20年東京パラリンピックで「世界記録を更新して金メダルをとる」ことは、かなり現実味のある目標だ。

車いすトラブルに泣いた伊藤

練習する伊藤智也(2017年11月撮影)
練習する伊藤智也(2017年11月撮影)

 一方、伊藤の800メートルは、2分10秒43というタイムに終わった。佐藤には13秒以上、距離にして100メートル近く、水をあけられた。「佐藤くんは、才能あふれる世界一の実力者。彼にとって『いいライバル』でありたいと思うけれども、きょうはレースにならなかった」と、首をかしげた。1分52秒31のアジア記録を出した当時の感覚を取り戻すには、まだ時間がかかりそう。翌日は佐藤の出ていない100メートルだけに出場し、19秒20の2位。このタイムも自身の日本記録に1秒71及ばず、短距離の調子も今ひとつだ。

 それでも、伊藤の表情には、まだ余裕が漂う。

 「今大会は、車いすの状態が悪すぎたんだ」と打ち明けた。パラリンピックでは、現在の体力や体つきに合った新しい競技用車いすで勝負するつもりだが、その完成は年明け以降になる見込み。このため、2012年に現役を一時退くまで使っていた車いすで今年のレースを走ってきたが、座席の支柱が金属疲労のために折れ、日本選手権直前に乗れなくなった。やむを得ず、10年以上前の予備機を物置から引っ張り出して出場。ところが、この車いすもレース前に不具合が生じてカーブを曲がりにくい状態に陥っていた。「車いすの修理は、アジアパラには間に合う。着々と(復活への)階段を上れているから、大丈夫」

 それぞれのペースで、2020年東京を見据えて走る新旧のトップレーサーたち。その一里塚となるアジアパラ競技大会で、佐藤は400、800メートルに、伊藤は100、200、400、800メートルに出場を予定している。第一人者=佐藤の快記録と鉄人=伊藤の巻き返し、その両方で秋のジャカルタを盛り上げてほしい。

日本選手権の男子800メートルで、スタートを切った佐藤(5)と伊藤(4)
日本選手権の男子800メートルで、スタートを切った佐藤(5)と伊藤(4)

T52 車いす陸上のクラスは、障害の程度別に国際大会では4段階に分かれており、T52は2番目に重度な選手たちが競う。四肢欠損、関節可動域制限、筋力低下、脚長差の障害を抱える選手のうち「肩・肘・手関節の筋力は正常。ただし手指の屈伸筋の機能は不十分であり、手内筋は萎縮している」選手が該当する。

プロフィル
佐藤 友祈( さとう・ともき
 1989年9月8日、静岡県藤枝市出身。2010年秋に脊髄炎を発症して歩けなくなり、左手もまひ。1年あまり、実家に引きこもってテレビやインターネットを見るだけの日々を送ったが、2012年ロンドンパラリンピックのテレビ観戦を機に車いす競技を始めた。14年に岡山県へ移住して競技生活を本格化させると、2年後のリオデジャネイロパラリンピックで400、1500メートルの銀メダルを獲得。昨年の世界選手権で両種目を制し、今年7月の関東選手権では世界記録(400メートル=55秒13、1500メートル=3分25秒08)を樹立した。
 
伊藤 智也( いとう・ともや
 1963年8月16日、三重県鈴鹿市出身。34歳の時、多発性硬化症にかかり、下半身まひや左目の視力などに障害が残って車いす生活になった。1999年に始めた陸上競技でトップアスリートに。パラリンピックは、2004年アテネ大会が初出場。08年北京大会の400メートルと800メートルで金メダル、12年ロンドン大会の200、400、800メートルで銀メダルを獲得した。12年9月に現役を一時引退、17年6月に復帰した。

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39856 0 トピックス 2018/09/04 16:25:00 2019/07/24 12:28:17 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180904-OYT8I50055-T.jpg?type=thumbnail

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