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友と父と「三本の矢」…パラアーチェリー・上山友裕[仲間とともにTokyo2020+]<2>

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父・博和が作った自宅ガレージの練習場で弓を引く上山。今も練習に使う(昨年4月、大阪府内で)=川崎公太撮影
父・博和が作った自宅ガレージの練習場で弓を引く上山。今も練習に使う(昨年4月、大阪府内で)=川崎公太撮影

 上山友裕(33)(三菱電機)の目に、車いすで近寄ってくる仲 喜嗣よしつぐ のくしゃくしゃの笑顔が飛び込んできた。試合で使う矢を納める黒い「矢入れ」が、付けっぱなしで揺れていた。

「矢入れ」「練習場」形見を力に

仲喜嗣
仲喜嗣

 2019年6月にオランダであったアーチェリーの世界選手権。上山は2回目、還暦間近の仲は初めてのパラリンピック代表内定を決めた。

 仲は、31歳で全身の筋力が低下する難病を発症して車いす生活になり、競技を始めたのは、46歳と遅かった。過去2度、パラ出場のチャンスを逃していた。

 「良かった~」。仲が差し出した右手を握ると、さらに左手で包み込んできた。大きく、力強い手のひらだった。いつもは試合に勝ってもすまし顔の仲がこれほど喜びをあらわにする姿を初めて見た。パラにかける思いの強さが胸に染みた。

    ◎

 「仲選手が、お亡くなりになりました」。今年2月上旬、日本身体障害者アーチェリー連盟からのメールに言葉を失った。コロナ禍で、重症化リスクのある仲は代表合宿に参加していなかった。昨秋に体調を崩し、半年近い入院生活の末に亡くなった。60歳だった。

 思い出すのはたわいもない話ばかりだ。海外遠征先の空港。神経をとがらせる選手が多い中、客室乗務員と一緒に撮った写真をうれしそうに見せてきた。いつも陽気さに救われた。親子ほど年齢が離れていたが、不思議と馬が合った。

 尊敬していた。「競技を諦めてもおかしくない年齢なのに、頑張り続ける姿勢に刺激を受けていた」。一緒に自国でのパラに出場するのが楽しみだった。

    ◎

譲り受けた仲の矢入れを手にする上山(上山のインスタグラムから)
譲り受けた仲の矢入れを手にする上山(上山のインスタグラムから)

 奈良県で営まれた告別式。ユニホームや弓……。会場に飾られたゆかりの品を眺めるうち、「仲さんをパラに連れて行きたい」との思いが湧き上がった。代表内定を得た時に使っていた黒い矢入れが目に留まった。

 2月下旬、仲の妻、奈生美(53)に「譲ってほしい」と連絡すると、快諾してくれた。7月末に自宅を訪れ、矢入れを受け取った。競技を始めて以来、大切に使い続けていたと聞いた。

 「仲良くしてもらって楽しかったです」。亡き仲へ感謝のLINEを送ると、思いがけず奈生美から返信が届いた。「仲に読み聞かせたら、こう言ってました。『俺が真ん中に入れるようにしたるけど、全部真ん中は面白くないから、たまには大きく外してやる』」。メッセージは、こう締めくくられていた。「外れたときは仲のせいやと思って」。すっと肩の力が抜けた。

    ◎

 もう一人、大切な存在がいる。初出場で7位入賞したリオデジャネイロパラ前年の15年5月に53歳で死去した父・博和=写真=だ。

 大学でアーチェリーに興味を持った。初期費用は約30万円。工面できず途方に暮れていると、父から封筒を渡された。「いつか返してくれたらいいから」。30万円が入っていた。

 競技にのめり込むようになると、父は自宅のガレージに畳を使って練習場を作ってくれた。社会人1年目に原因不明の両下肢機能障害を発症した後も、父の接し方は変わらなかったが、競技を頑張り続ける息子の話を周囲にうれしそうにしていると人づてに聞いた。

 会話の多い親子ではなかった。父が練習や試合に顔を出すこともなかった。だからこそ、パラの舞台に立つ姿を見せたかった。「急に呼び出してごめんな」。仕事中に倒れたと聞いて駆けつけた時の末期の一言。最後まで不器用で、思いやりのある父だった。

 本番では、矢入れに仲と父の写真をしのばせる。「天国の2人に最高の報告をしたい」。大切な人たちを思って立つ大舞台だ。(敬称略、新田修)

  パラアーチェリー  1960年の第1回ローマ大会からの正式競技。障害の種類や程度で三つのクラスに分かれ、弓は一般的な「リカーブボウ」と、滑車付きで軽い力でも放てる「コンパウンドボウ」の2種類。ルールは一般のアーチェリーとほとんど変わらないが、手や体幹に障害がある「W1クラス」では、自分で矢をつがえられない場合、他者による補助が認められている。

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2296579 0 東京パラリンピック2020速報 2021/08/19 05:00:00 2021/08/23 12:07:03 普段の場所ではない車庫に設けた練習場で汗を流す、上山友裕選手(9日午後3時8分、大阪府内で)=川崎公太撮影※オリジナル出稿エトキは、貴部で入力をお願いします。(写真部)2020年4月9日撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/08/20210819-OYT1I50013-T.jpg?type=thumbnail
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