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    継承者のいらない墓に注目

    • 樹木葬墓地で「区画を購入して気が楽になった」と話す榎本さん。周囲の枯れ木を切るなどのボランティアで、度々訪れているという(大阪府高槻市で)=守屋由子撮影
      樹木葬墓地で「区画を購入して気が楽になった」と話す榎本さん。周囲の枯れ木を切るなどのボランティアで、度々訪れているという(大阪府高槻市で)=守屋由子撮影

    樹木葬 穏やかに流れる時間

     

     お盆休みも間近。お墓参りを計画しながら、先祖代々の墓をどうしたらいいのか、自分の墓はどうするのかと、悩みを募らせるシングルの人も多いのではないか。そんな中、木を植えて墓標とし、遺骨を土に埋葬する「樹木葬」は、継承者がいらない点で注目が集まっている。(持丸直子)

     

     「山が好きなので、見学に来て、即決しました」

     大阪府高槻市の神峯山寺かぶさんじ境内にある樹木葬墓地で、市内に住む榎本隆志さん(59)はすがすがしい笑顔で語った。緑の芝生に、桜やヤマモモなどの木が植えられ、墓地というより公園のよう。豊かな自然の中、穏やかな時間が流れる。

     樹木葬とは、墓地として都道府県知事の許可を得た区域に、石ではなく木を墓標とし、遺骨を土にかえす葬法。この墓地は、血縁者による継承を必要としない墓を普及する認定NPO法人「エンディングセンター」が企画し、2012年に開設された。宗教は問わず、全約2300区画のうち479区画(1日現在)が契約済みだ。榎本さんも15年、父親と一緒に、自分用と両親用の計2区画3人分を100万円で契約した。

     仕事の関係で長く高松市に住んでいた榎本さん。14年に末期がんの母を在宅介護するため高槻市の実家に戻り、母を看取みとってからは父と2人で暮らす。

     

    反対する父を説得

     

     実は榎本家の先祖の墓は兵庫県洲本市にある。母親が亡くなった時、家族は当たり前のようにその墓に納骨するつもりだった。「でも、墓を継ぐ長男の自分は独身で子どもがいない。以前から気になっていたそのことが再び頭をもたげた」。そんな時、妹からたまたま「樹木葬というのが近くにあるよ」と聞き、検討を始めたという。

     父親には当初反対されたが、母の遺骨を洲本の墓と樹木葬墓地に分骨することで納得してくれた。「『代々の墓は息子の代で途絶えるけど、樹木葬の墓は永遠に残る。毎年桜の咲く季節に合同祭祀さいしも行われ、寂しくならない』と思い直してくれたようです」と振り返る。

     1区画は25センチ四方。深さ80センチの穴に遺骨を埋め、地面に銘板が置かれる。存命中は年会費5000円などが必要だが、本人の死後は費用がかからない。自分が死んだ時、誰かに納骨してもらう手間はかけるが、その後は誰にも迷惑をかけない点が何より魅力だという。

     洲本の墓の墓じまいも考えるが、父らには思い入れのある墓。「生きているうちは、きっと猛反対される。時間をかけて考えるつもりです」

     「木を墓標として集まった人々の間には、“墓友”ともいえる、ゆるやかな絆が生まれている」と同センターの井上治代理事長はいう。墓友とは、死後に同じ集合墓などに入ることで生前から交流を深める人たち。同センターでも、合同祭祀のほか、終活や趣味の講座など、契約者が集まる機会を積極的に設けている。

     

    生前から交流「墓友」に安らぐ

     

     そんな墓友の存在に安らぎを感じているというのが、神戸市内の老人ホームに暮らす桂公子さん(72)だ。「従来型の石のお墓の中でずっと一人というのは嫌だった。この世はおひとりさまで生きてきた分、あの世ではにぎやかに過ごそうかな、って」

     山口県出身。銀行員として働き、関西には50歳の頃、転勤で移り住んできた。その数か月後に故郷で一人暮らしをしていた母親が亡くなり、「退職したら帰ろうと思っていた古里が遠くなった」。両親は故郷の納骨堂に眠るが、ついの住み家も墓も関西で決めた。

     「ほかの友人には話しにくい死にまつわる話も含めて、色んな話ができる墓友の存在は大きい。死に向き合うつらさは一人で背負っていかないといけないけれど、今から準備して、死後の世界にうまく着地できれば」。桂さんはそう言ってほほ笑んだ。

     

    未婚増え、墓選び多様化

     

     一人暮らしの高齢者を対象に内閣府が行った意識調査(2014年度)で、終末期医療、葬儀、お墓のそれぞれについて「準備や方法を、どの程度考えているか」と聞いたところ、お墓について「具体的に考えている」とした人が42・1%と、他の二つに比べて高かった。特に未婚女性では51・4%と、半数を超えた。

     「お墓の大問題」などの著書がある葬儀・お墓・終活コンサルタントの吉川きっかわ美津子さんは独身者の墓選びの注意点として、「先祖代々の墓がある人はまず、それを残すかどうかを決めることが重要」と話す。

     墓じまいをする場合は「中の遺骨をどこに移すか」、残す際には「自分の死後の維持管理を誰に依頼するのか」「管理料を前払いして永代供養してもらうのか」といった課題に向き合わねばならない。

     生涯未婚率の上昇で、墓は家で継承するという前提が崩れて多様化し、自分の死後に関しては、墓はいらない、散骨でいいという人もいる。近年増加する樹木葬や、使用期間が定められ、満了後は運営側で合葬墓に移すなどする「期限付き墓」は、場所により形態や費用が様々だ。

     「契約内容を詳細に確認することが大切。墓選びは手間や時間がかかるので、体力、気力が十分なうちに考えておきたい」と吉川さんは助言する。

     

    個々の価値観で

     

     先日、一足早くお墓参りに行ってきました。我が家の墓がある墓地の入り口には、墓石をピラミッドのように積み上げた碑があります。すべて無縁墓となったもので、横には、自分の家の墓に行く前に参拝するよう促す看板が掲げられています。碑の前で手を合わせながら、いつも「将来、うちの墓を継ぐ人がいなくなっても、こんな風に見知らぬ人に参ってもらえるならうれしいな」と思います。

     死後のこともすべて自分で決めなければならないシングルは、やはり大変。でも、葬送や墓について何を重視するかは個々の価値観によるところが大きいだけに、真剣に考えることで自らを見つめ直せる気もしています。(中舘聡子)

     

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    2017年08月10日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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