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    {探る} 未来のバーチャル・リアリティー/電気で味覚を操る

    減塩してもいつもの味に

     電気を使って味の感じ方を変える研究を、大阪大学の安藤英由樹・准教授(人工現実)らのグループが進めている。人の感覚の中でも繊細な味覚をどうやって操るのか? 実際に体験してみた。

    (冨山優介)

     舌の粘膜には味を感じる味蕾みらいという、つぼみ状の小さな器官がある。1人の舌にある味蕾は数千個とも言われ、味蕾には異なる味を感じ分ける味細胞が50~100個も集まっている。

     味細胞には味を感じ分ける部分があり、ショ糖なら「甘味」、グルタミン酸などのアミノ酸なら「うま味」の部分が反応する。その刺激が脳に伝わり「甘い」「苦い」など味を感じる。

        ■□■

     「注目したのは味物質、食塩です」。安藤さんがスライドを使って、味を変える仕組みの説明を始めた。

     食塩の化学的な名前は「塩化ナトリウム」だ。食塩が水に溶けると電気的に+(プラス)のナトリウムイオン、-(マイナス)の塩素のイオンに分かれる。ナトリウムイオンが味細胞に流れると塩味を感じる。

     食塩水に電気を流すと+極側に塩素、-極側にナトリウムのイオンが偏る。これは学校の理科の授業で昔、習った記憶がある。この電気の性質を利用して、味の感じ方を制御する研究だそうだ。

     方法は、口に食塩水を含んだ状態で、体に微量の電流を流す。すると口の中で-極側にナトリウム、+極側に塩素のイオンが偏り、舌全体でナトリウムを感じにくくなって味が薄く感じる。電流を切ると、一気にナトリウムイオンが味細胞に流れ、塩味を強く感じる――。これが安藤さんが考える仮説だ。

     「味を強く感じる時間を長くするため、20分の1秒という短い時間で電流のオンとオフを繰り返し、味細胞の刺激を持続させます」

        ■□■

     実験開始だ。首の後ろに+極を付ける。食塩水の入ったコップには、-極側の電線が入ったストローが差し込まれている。「食塩の濃度は1%。海水の3%よりもしょっぱくないですよ」という言葉に意を決し、ストローを吸って食塩水を口に含んだ。それでもちょっとしょっぱかった。

     「オンにします」。実験を担当する大学院修士課程1年生、原彰良あきよしさんの声に、ストローをくわえたまま、軽くうなずいた。すると、すっと潮が引くように、味が薄くなった。

     「オフにします」。今度は塩味が一気に濃くなったように感じた。同じ食塩水を、口に含んでいるだけなのに。「思ったより味が変わるでしょ?」。原さんの問いかけに、「本当ですね」と驚くしかなかった。

     面白い技術だが、何の役に立つのだろう?

     「まず考えられるのが、健康管理の減塩です」と安藤さん。塩分の取り過ぎは高血圧の原因になるが、味付けが薄いとおいしくない。塩分を減らしても塩辛さが同じなら、無理なく減塩できるという発想だ。

     安藤さんはその先の夢として「全く新しい味を作れないか」と考えている。

     「色々な食べ物を混ぜると、予想もしない味がすることがあります。味覚を人工的に変えると、人間が新しい魅力的な味に出会えるかもしれません」

     バーチャル・リアリティーの世界で、味の変化を楽しめる未来が来るかもしれない。そう感じた。

    ◇「UMAMI」日本人が発見

     味には基本となる5種類の味がある。「甘味」「塩味」「酸味」「苦味」「うま味」で、料理の味付けに重要な役割を果たす。

     五つの基本味のうち、最後に発見されたのはうま味で、日本人が貢献した。約110年前、東京帝国大(現東京大)の池田菊苗博士が、昆布からうま味の成分を抽出することに成功した。池田博士の弟子らが、さらにほかのうま味成分も見つけた。うま味は英語でも「UMAMI」と表記される。

     ちなみに唐辛子などの「辛味」を感じるのは味細胞ではなく、熱さや痛さを感じる器官が対応している。そのため、医学的には痛覚の一種と考えられている。

    2018年07月06日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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