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    花ふきん(中川政七商店)

    特産の蚊帳 今風に変身

     

     中川政七商店の「花ふきん」は吸水性と速乾性に優れた蚊帳生地を使い、使うほどに柔らかくなる肌触りが特徴だ。奈良の伝統的な素材を取り入れるライフスタイルを提案し、見せ方にも工夫を凝らすことで、1995年の発売以来、支持を集めている。(梨木美花)

     

    リピーター8割

     花ふきんを発案したのは現会長・13代目中川政七(44)の母で、元専務の中川みよ子(69)だ。

    • 花ふきんのブランディングを担当する田出睦子さん(左)と山口葉子さん(奈良市の中川政七商店本社で)
      花ふきんのブランディングを担当する田出睦子さん(左)と山口葉子さん(奈良市の中川政七商店本社で)

     20年以上前に、みよ子は奈良市の店舗で、集客のために様々な企画展を開催していた。そのうちの一つで、当時、生前葬が話題になっていたので、「骨つぼ」など葬式に関する用品の企画展示会を開いた。会場に幽玄な雰囲気を出すための装飾として、蚊帳生地をつるそうと思いつき、手に取った。その時、ふんわり手になじむ触り心地に、「毎日使う台所用のふきんにしたら良いのでは」と思いついた。

     蚊帳用の生地は、たたんで使うと素早く水気を吸い取り、開いて干せば素早く乾かせ、機能性もふきんに向いていた。二つ折りにしたところ、58センチ四方と一般的なふきんより大きく、4人家族の1食分の食器を拭ききれるほどとなり、使い勝手も悪くなかった。

     サクラやアジサイなど、季節を感じさせる花の色に染め上げ、美しい色合いのふきんは、その利便性とともに次第にファンが広がっていった。そして今では購入者の8割がリピーターになるほど、ブランドを代表する商品となった。

     

    包装を一新

     これまで、花ふきんは主に2種類のパッケージで発売されていた。一つは、高級感があり、衣類を包む時に使われることが多い「たとう紙」を採用し、黒い文字で「花ふきん」と書かれたパッケージで、贈答用として人気が高かった。

     しかしもう一つは、「大判薄手」などの特徴をシンプルに書いた普通の包装紙で、商品を包み込んでいた。ただ、それでは商品の素材感が伝わらないためか、売り上げが伸び悩んでいた。

     中川政七商店では伝統的な素材や技術を今の消費者が買いたくなるような形に改良する手法で販売を拡大してきた。花ふきんでも、パッケージの改善が必要なのは明らかだった。そこで17年冬頃から、魅力的なパッケージへの変更が検討され始めた。

     担当課長の田出睦子(44)は「パッケージを変えることは、お客様との距離感を縮めるコミュニケーションの仕方を変えること」との考えから、アイデアを絞った。ターゲットは、自分用に買う消費者だった。そこで、商品の質感を見て納得できるように商品の露出部分を増やしたり、機能性を明示するため、「よく吸ってすぐ乾く」というフレーズを記したりした。

     デザイナーの山口葉子(35)は「顧客の大部分を占める女性に好まれるよう、花の絵を添えよう」と商品名になっているアヤメやツバキ、ヤマブキなどの花を何度も試行錯誤して描いた。一緒に並べる文字の太さや曲線のなめらかさなど微妙なニュアンスにこだわりながら、花ふきんのイメージである優しい雰囲気が伝わるように努めた。裏面は、これまで「用途」の説明を書いていたが、今回は生地そのものの背景を伝えるため、蚊帳生地の歴史の記述に変えた。

     見せ方にこだわって、伝統的な蚊帳の生地に新しさを吹き込んだ新商品を、満を持して8月1日に店頭に並べた。8月7日の「花ふきんの日」にちなみ、8月に発売の照準を合わせた。田出は「ふきんだったら何でも同じと思っている人にも一度手にとってもらい、違いを感じてほしい」と期待しながら売れ行きを見守っている。(敬称略)

     

     奈良特産の蚊帳に用いる生地で作られた大判のふきん。綿と麻の2種類の生地を手縫いで縫製している。耐久性があり、使い続けると柔らかくしなやかになる。拭く以外にも弁当包みや野菜の水気取りなど幅広い用途に活用できる。寒色から暖色まで幅広い色があり、サクラやヤマブキ、スズランといった花などの名前が付けられている。現在販売されているのは27種類で税込み540~1080円。2008年度のグッドデザイン金賞に選ばれた。

     

    伝統工芸 現代の生活に

    千石(せんごく)あや社長 42 

    • インタビューに答える千石あや社長
      インタビューに答える千石あや社長

     「日本の工芸を元気にする!」というビジョンに基づいて、全社員が行動している。国内には約200の工芸があるが、家族経営など小規模な事業者が多い。売り上げが減少し、事業を継承すべきか悩む経営者もいる。そこで我々は伝統的な工芸の良さを生かし、現代の生活に沿う形になるよう、プロデュースしている。

     商品開発後、自社店舗での販売や卸しといった流通まで手がけるのが我が社の特徴だ。話題性があり、機能的にも優れた商品を作れても、商品を消費者へ届ける物流や営業には、別の力が必要だからだ。

     現在、自社店舗の最大面積は50坪だが、商品の販売力が強まり、我々と一緒に商品開発を手がける工芸仲間が増えて、商品が店頭に置ききれなくなってきた。今後、主要都市のショッピングセンターに100坪を超える大型店を作りたい。

     工芸に携わる人たちを潤すには、商品販売だけでなく、産地に訪れる人を増やすことも大切だと思い、自社サイトで情報発信したり旅行用アプリを開発したりしている。

     みんなが食べていける状態を実現するには、まだまだ課題が山積みだ。ビジョンに立ち返りながら進み続けたい。

     

    こんな会社

     本社は奈良市。高級麻織物「奈良晒(さらし)」の卸問屋として1716(享保元)年に創業。現在は品質にこだわった生活雑貨を扱う「中川政七商店」や各地の工芸品などに焦点を当てる「日本市」などの自社店舗を運営し、オリジナル商品を企画・販売するほか、全国の地場産品のコンサルティングも行う。2018年2月期の売上高は57億2000万円、従業員は402人(2018年2月現在)。

    2018年08月08日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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