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    「命のSOS」つかむ

    • 断酒会の例会の2時間は毎回、真剣勝負だという松井さん。「この場には、人の生き死にがかかっているんです」(堺市南区で)=枡田直也撮影
      断酒会の例会の2時間は毎回、真剣勝負だという松井さん。「この場には、人の生き死にがかかっているんです」(堺市南区で)=枡田直也撮影

     「断酒会にいると、死はとても身近です」

     そう話す堺市泉北断酒会の会長、松井直樹さん(55)はこれまで10年で4人の断酒仲間を自殺で失った。

     一緒に断酒会の組織化に尽くしてきた男性は10年以上、酒を断っていたが、再飲酒。まもなくビルから飛び降りた。60歳。遺書もなく、再飲酒した事情も自殺した原因もわからない。

     40歳代の女性は、ある晩の断酒会で「お酒がやめられない」と悲痛な表情で語り、数日後に命を絶った。

     「SOSを出していたのに救えなかった」。そんな痛恨の思いを抱く松井さんだが、こうも言った。

     「死にたくなる気持ちは、僕もよく分かる」

     運送関係の仕事に就き、40歳を超えて独立したが、軌道に乗らず、ヤミ金に手を出し、取り立ての電話が殺到した。自暴自棄になり、入る金は大半を酒に費やした。最後は会社の有り金を持ち出し、「酒を飲めるだけ飲んで、金がなくなったら死のう」と街をさまよいながら、飲み続けた。3週間後、記憶が戻った時は警察に保護されていた。

     苦しい現実に耐えられず、酒に逃げ、心に壁をつくる。周りからさげすまれ、孤立し、死を考える。「自分でも酒がいけないことは分かっている。でも素直に人の話が聞けない。優しくされても、注意されても無性に腹が立つんです」

     そんな松井さんも断酒会に誘われ、体験談を語るうちに負の思考回路から抜け出せた。「みんなが『そんなに突っぱって生きなくていい』と温かくてね。初めて心が楽になった」

     現在は大阪府全体の断酒組織の役員も務め、奔走する。「僕は断酒会で酒を断てた。その恩返しです」

     ◆

     だが断酒会はいま、岐路に立つ。1万人以上いた全国組織「全日本断酒連盟」の会員数は2000年代に入ると減少を続け、現在は約7500人。半数以上が60歳を超える。

     「堅苦しい」「高齢男性ばかり」と若者や女性が定着しない。「1人でも断酒できる」と退会者が増える。悪循環だ。濃密に語り聞く例会のスタイルが敬遠されているとの指摘もある。

     〈社会は変わっている。断酒会も変わらなければ〉

     滋賀県野洲市の「野洲断酒会」世話人の仲村隆夫さん(72)から届いたメールに誘われ、27日午後、同市の「昼例会」をのぞいた。

     文字通り、通常の夜ではなく昼の例会。夜の外出が難しい人向けに7年前に始めた。市の健康相談会と同時開催のため、保健師の勧めで飛び入りする人もいる。

     十数人が長机を囲んだこの日、会場内は昼間ということもあって肩の力が抜けた雰囲気だった。「お酒を飲まないから、お菓子ばっかり食べてしまう」。女性の告白に笑いが広がった。

     価値観やライフスタイルが多様化する中、「命綱」を細らせないための模索が続く。

     ◆

     自殺総合対策推進センターの調査(2007~09年度)によると、自殺者の5人に1人が飲酒問題を抱えていた。アルコール依存症者の4割が自殺願望を持ち、2割が実際に自殺を図った経験があるとの統計もある。

     

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    2017年01月30日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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