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    「育児は妻」もう限界

    退職後男性は社会的孤立

    • 「働く男性でも入っていけるように、家事・育児、地域活動の要求水準をもう少し下げましょう」=栗原怜里撮影
      「働く男性でも入っていけるように、家事・育児、地域活動の要求水準をもう少し下げましょう」=栗原怜里撮影

     働く女性は矛盾した要求にさらされ、退職後の男性は社会的孤立に追い込まれている――。現代の家族像などについて多数の著作がある社会学者で詩人の水無田気流みなしたきりうさん(47)の考察は、とても示唆に富む。小学4年生の息子の母親でもある気鋭の学者に、働く母親が直面する課題を聞いた。(聞き手・梶多恵子)

     ――伴走記には、育児と仕事のはざまで悩む母親たちが登場します。

     「働く女性に対する社会や家庭からの要求は、矛盾だらけです。正社員の女性が結婚、出産・育児をしながら就労を継続するのは難しく、管理職への昇進は困難を極めます。一方、近年は男性の賃金水準の低下や昇給の鈍化で夫の稼ぎだけでは家計が回らず、パートで働く女性は増えていますが、低賃金で一人前の労働者とはみなされず、専業主婦と同水準の家事と育児、場合によっては介護を要求される。要求される水準は、先進国の中でも高く、高水準の家庭教育や食育、地域ボランティアまで期待される。相当大変です」

     ――一方、職場では育休後、負担の軽い仕事をする代わりに、昇進が遠のく「母親向けコース」に固定化されるマミートラックのような問題があります。

     「マミートラックは非常に深刻です。企業の評価体系は、育児や介護を妻に丸投げして働ける男性を基本にしているため、多くの企業では育休や時短を取ると、メインストリーム(主流)から外れてしまう。人間としては『立派』と言われても、収入に直結する職場の評価は大幅に低下します。ここでも矛盾しています」

     ――大学で接する学生の意識に変化は感じますか。

     「男子学生の共働き志向が高まっています。自分一人で妻子を養って生きることに、彼らは、もう懐疑的です。私の授業では、1950年代から現在に至るまで、子連れ出勤論争など育児と仕事のあり方に関する論争を取り上げていますが、女性に関するものばかり。ずっと男性は、就労第一主義でカヤの外です。男性は実は働く以外の選択肢はない。だから定年退職すると、社会的に孤立し、居場所がなくなってしまうのです」

     ――最近は親の介護で離職する男性も増えています。

     「現在、男性は50歳時点で一度も結婚したことのない割合が、ほぼ4人に1人です。つまり、今後は中高年の男性が老いた親の介護をしつつ、仕事をしなければならない時代がやってきます。万全のコンディションで働き続けられる人だけを評価している会社は早晩、持たなくなります」

     ――これからの働き方や夫婦のあり方は。 

     「日本の夫婦は性別で分業しているのが特徴ですが、話し合いながら家庭生活を構築していくべきです。夫が働き、妻が子供を育てるという旧来の家族観は、高度経済成長期に普及したもので、今の時代にそぐわなくなっています。社会構造の変化に合わせ、一人ひとりの能力や家族構成、適性を考えていかなくてはならない時代になっています」

                            ◎

     退職後の男性の社会的孤立を「非常に心配している」と言う水無田さんの考察は、女性として見失いがちな視点だ。生きづらさや働きづらさの危機感が性別問わず、社会全体で共有され、働き方や家族のあり方を見直す原動力になってほしい。

    ◇社会学者・詩人 水無田気流(みなした・きりう)さん

     神奈川県出身。国学院大教授。「『居場所』のない男、『時間』がない女」など著書多数。2006年、詩集「音速平和」で中原中也賞を受賞するなど詩人としても活躍する。

    2017年07月05日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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