[自民党研究 政党を問う]第1部 地方・党員<3>権力闘争 活力の源泉

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 4月の福岡県知事選を巡る自民党の候補者調整は、政権中枢を巻き込んだ攻防に発展した。

 1月28日、国会内の総理大臣室に首相の安倍晋三(64)(党総裁)と副総理兼財務相の麻生太郎(78)、党選挙対策委員長の甘利明(69)の3人が顔をそろえた。福岡が地元の麻生はかねて、3選を目指す現職の小川洋の対抗馬として、県連が公募で決めた元厚生労働官僚の武内和久を擁立するよう盟友の安倍に伝えていた。

 「麻生さんの決めた通りでいこう。あとは甘利さんの仕事だよ」

 安倍が言い渡すと、麻生は神妙な面持ちでうなずいた。「武内に推薦が出なければ閣外に出る」。周辺を介し、そんな覚悟も安倍にちらつかせた。麻生は2012年の第2次安倍内閣発足時から、一貫して安倍を支えてきた政権の屋台骨だ。

 だが、推薦はすんなりとは決まらなかった。

 麻生に対抗するかのように、党副幹事長の武田良太(50)(衆院福岡11区)ら福岡選出の二階派議員3人が同日、幹事長の二階俊博(79)を訪ね、小川の推薦を直訴した。党本部の1月中旬の調査では現職の優位が顕著だったことを引き合いに、武内を推薦しないよう二階に迫った。

 福岡では元副総裁の山崎拓(82)、元幹事長の古賀誠(78)が一線を退き、党重鎮で残るのは麻生のみだ。武田にとっては世代交代をかけた抗争でもある。麻生と距離を置く山崎、古賀も武田を後方支援する。

 2日後の1月30日、二階は甘利とともに党県連会長の蔵内勇夫(65)と面会した。知事選が分裂選挙となれば、夏の参院選に影響しかねないとの懸念から、二階は「参院選で一丸となれるのか」と尋ねた。蔵内が「大丈夫です」と応じ、武内の推薦が決まった。武田は「県民と一緒に戦うだけだ」と吐き捨てた。

 福岡は17年衆院選で、県内小選挙区の全11議席を自民党が独占した。対抗する野党の不在が、自民党内の権力闘争を呼ぶ。

 麻生は意気軒高だ。

 「保守分裂は瞬間的には間違いなく自民党が弱くなるが、競争も生まれる。競争をしない時に自民党は最も弱くなる」

 

頻発する保守分裂…小選挙区導入 力学に変化

対立から協調

 「よくやったね。大変な選挙だったね」

 1月29日、首相の安倍晋三(64)(自民党総裁)は、2日前の山梨県知事選で初当選した長崎幸太郎(50)を首相官邸に迎え入れ、笑顔で労をねぎらった。

 前自民党衆院議員の長崎が「自民党籍を残したまま立ち位置をはっきりしてやっていきたい」と意気込むと、安倍は満足そうに「そっちの方が信頼感が高まるよね」と応じた。

 知事選は、野党が推す現職候補との事実上の与野党対決だった。最大の勝因は保守分裂の解消だ。

 長崎は2005年の郵政選挙で「刺客」として衆院山梨2区に立ち、自民党総務会長を務めた堀内光雄に挑んだ。その後は党公認を受けず、堀内の長男の妻詔子のりこ(53)と衆院選を3度戦った。10年以上も堀内家と抗争を繰り広げたが、今回は「知事は長崎、2区は堀内」で折り合いがつき、詔子も長崎の支援に回った。

 長崎の得票は、山梨2区内の全市町村で現職候補を上回った。長年のしこりが完全に消えたわけではないが、対立のあつれきを協調のエネルギーに転化させたことを証明した。選挙を主導した幹事長の二階俊博(79)は満足そうな表情を浮かべ、頻発する保守分裂にも、こう余裕を見せた。

 「自民党周辺にそれだけ人材が多いということだ。困る反面、ありがたい」

 

交互に出馬

 中選挙区制から小選挙区制への移行は、党内力学に劇的な変化をもたらした。中選挙区時代のライバル同士が公認を争う場合は、緊急避難措置として小選挙区選と比例選に交互に出馬させる「コスタリカ方式」を編み出すなど、分裂回避の知恵が絞られた。

 だが、民主党が政権交代を果たした09年衆院選で、自民党の当選者は119人と半分以下に激減し、コスタリカ方式は下火となった。12年に政権復帰して党勢が回復し、再び公認争いが激しくなる中で目立つようになったのは、コスタリカ方式ではなく、中選挙区時代の同士打ち以上に熾烈しれつな対決構図だ。

 

当選者を公認

 「福岡方式」――。自民系無所属2人を競わせ、当選者を追加公認する手法は今、党内でこう呼ばれる。16年の衆院福岡6区の補欠選挙が由来だ。

 郵政民営化に反対した衆院議員の小泉龍司(66)(埼玉11区)は05年の離党以来、自民候補としのぎを削ってきた。17年衆院選を福岡方式で戦って今野智博(43)と雌雄を決し、ようやく追加公認を得た。小泉は「対立候補がいたからこそ強くなれた」と激闘を振り返る。

 次期衆院選での「地盤」獲得を狙い、福岡方式での出馬も辞さない構えなのは、衆院議員の中曽根康隆(37)(比例北関東)だ。

 「日本を背負って立つサラブレッド中のサラブレッドだ。近い将来、ぜひ1区から出てもらいたい」

 1月30日夜、前橋市内で開かれた後援会会合で、支援者からこう水を向けられると、中曽根も「比例当選はやはり立場が弱い。群馬1区という場所は大変、大事だ」と引き取った。

 祖父に元首相の康弘(100)、父に参院議員の弘文(73)を持つ中曽根は当初、17年衆院選で群馬1区からの出馬を目指した経緯がある。1区に地盤を築いた元財務相の尾身幸次(86)の長女・朝子(57)とかち合うため、最終的には比例選に回ったが、あきらめるつもりは毛頭ない。

 「お前は中曽根でも小曽根でもなく、まだまだ『微曽根』だと言われる。自分で勝ち上がらなければ、周囲からなめられる」

 保守分裂を不毛な内紛とみるか、切磋琢磨せっさたくまの代償とみるか。一寸先は闇の政界で、自民党は活力の種をまき続ける。(敬称略)

 

【福岡方式】 無所属同士が競い、当選者を追加公認する手法。鳩山邦夫・元総務相の死去に伴う2016年10月の衆院福岡6区補選で採用され、この名がついた。鳩山氏の次男・二郎氏と、自民党福岡県連の蔵内勇夫会長の長男・謙氏による保守分裂選挙となり、自民党は当選した二郎氏を追加公認した。県連は謙氏に推薦を出し、麻生副総理兼財務相らも支援した。小川洋知事は中立を貫き、麻生氏との関係が悪化した。

 

「1強に不満」 石破氏支持

 自民党では幾多の権力闘争が繰り広げられてきた。盤石に見える安倍体制でも、2018年の党総裁選で「1強」への批判票が石破茂・元幹事長への支持となって顕在化した。

 読売新聞社の自民党員調査では、18年総裁選で首相を支持したと答えたのは57%、石破氏は38%だった。実際には、首相は党員票の55%、石破氏は45%をそれぞれ得票している。

 今の自民党に満足しているかどうかを聞いたところ、「満足していない」は党員全体で50%だったが、総裁選で石破氏を支持した層では71%に上った。同じ質問をした一般有権者の63%よりも高い割合だった。

 自民党に満足していない理由(複数回答)は、石破氏の支持層に限ると、「党の運営のあり方が良くない」が60%で最も多く、「執行部の顔ぶれが良くない」52%、「政策が良くない」50%などが続いた。特に「執行部の顔ぶれが良くない」は党員全体や一般有権者に比べて高かった。また、石破氏の支持層は、2大政党制を「望ましい」と思う割合が66%に上り、党員全体の57%、一般有権者の56%を上回った。

425908 1 政治 2019/02/06 05:00:00 2019/02/06 05:00:00 2019/02/06 05:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/02/20190206-OYT1I50024-T.jpg?type=thumbnail

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