日米韓 揺らぐ連携…第15回 安全保障シンポジウム―東アジア情勢を考える―

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 第15回安全保障シンポジウム(NPO法人ネットジャーナリスト協会主催、読売新聞社後援)が3月5日、東京・内幸町の日本プレスセンタービルで開かれた。「東アジア情勢を考える―日米韓関係の今後」をテーマに、2月末にハノイで行われた米朝首脳会談や最近の日韓関係の悪化などについて、今後の見通しや対策を論客たちが議論した。(敬称略)

 

基調講演

ミサイル防衛強化 着実に…田中明彦・政策研究大学院大学長

 トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩キムジョンウン朝鮮労働党委員長は、ハノイでの首脳会談で合意文書に署名しなかった。「訳の分からない取引が成立するよりは良かった」というのが専門家の大方の見方ではないか。トランプ氏は直前まで、金氏を持ち上げるような発言を繰り返していたが、米国の国益に従って決断した。

 北朝鮮が挑発をしない限り、ある程度の核・ミサイルの保持が続くのは仕方がないと思っているようだ。米韓の大規模な軍事演習を縮小したことは、北朝鮮が核・ミサイルの実験をやめたことへの対価を払ったことになるだろう。

 金氏は、経済制裁の解除を勝ち取れると思っていたかもしれず、メンツをつぶされたと思っているだろう。北朝鮮のことだから、再び全面的な対決路線を取る可能性もゼロではない。

 日本は引き続き、弾道ミサイル防衛システムや日米同盟の連携を強化すべきだ。日米の演習もスケールアップしていく必要がある。

 懸念は韓国の対応だ。南北関係を進めたいと思っているかもしれないが、米国に合わせて政策を調整してもらう必要がある。できる限り日米韓が連携できるような形を取ってほしい。対日関係がぎくしゃくしているのは大変な問題だ。

 米中関係はこの2年間に、質的な転換を遂げた。中国経済は減速するだろう。国内の矛盾を解決するために対外的な強硬策に出るというのは、権威主義体制の国家がしばしば行うことであり、要注意と言える。

 

米朝関係

「演習中止」大きな間違い…中谷

日本の戦略 見直す時期…岩田

中谷元氏
中谷元氏
木村幹氏
木村幹氏
岩田清文氏
岩田清文氏
伊藤俊幸氏
伊藤俊幸氏
モデレーター 勝股秀通氏
モデレーター 勝股秀通氏

 中谷 米国は、北朝鮮の非核化が実施されなければ、制裁解除や経済支援を行うことはないとしてきたが、今回もその姿勢は変わらなかった。北朝鮮はトランプ大統領と直接交渉すれば、軍事的圧力と経済制裁の解除を得られると誤認していた。これまでは対話路線から支援を得ては核開発を継続していたが、(トランプ政権に)同じやり方は通用しないということを理解できていなかった。

 伊藤 米国は交渉を急がないと言っている。なぜかというと、北朝鮮が米国に届く核ミサイルを持っていないと見ているからだ。米国は、北朝鮮が1トンぐらいまでの核の小型化はできると分析しているが、この核弾頭を撃ち込めるのは韓国だけだ。1トンの弾頭だと、重すぎて日本には届かない。そのため米国は、韓国にはミサイル防衛システム「最終段階高高度地域防衛(THAAD)」を入れたが、在日米軍は今まで通りイージス艦だけで迎撃する体制にしている。

 中谷 米朝首脳会談の後、毎年春に実施してきた大規模な米韓軍事演習「フォール・イーグル」「キー・リゾルブ」が中止された。これは大きな間違いだ。私も元陸上自衛官だが、訓練はいざという時に行動できる実力を養成する必要不可欠なものだ。抑止力が利かなくなってしまう。

 岩田 日本として最も避けるべき構図は、北が核を保有したまま韓国と何らかの形で統一し、米国から離れて中国寄りの国家となることだ。この構図になると、在韓米軍は撤退を迫られる。38度線が対馬へ南下することを意味する。日本が南西諸島防衛に力を入れている状況において、対馬、北九州にも対応正面を拡大することは、戦略上得策ではない。日本は危機管理上、この最悪のシナリオにも備え、安全保障戦略を見直すべき時期に来ている。

 木村 韓国の文在寅ムンジェイン政権は南北統一を考えていない。統一すれば北朝鮮の貧しい2500万人の国民が一斉に韓国に職を求めてやってくる。韓国経済では、格差が拡大し、特に若者の失業率が上昇しており、若い人からするとますます職を失う話になる。むしろ北朝鮮を積極的に支援して、立派に育てようとしている。

 勝股 統一とは逆に、北朝鮮が暴発し、分裂する可能性はあるか。

 岩田 ベールに包まれてわからない国だけに、これは常に考えておくべきだろう。米軍の将官たちは、米軍は常に即応体制にあると発言している。

 

日韓関係

「南北」優先の文政権 木村

中谷 今年は3月1日の3・1韓国独立運動から100年だ。文政権になって反日的な言動が強くなっている。それを象徴するのが徴用工の問題だ。前の政権は、大法院(最高裁)でこれを判断すると国際社会の中で韓国の対応が問われてしまうとして、判断を避けてきた。文氏の結果責任は非常に大きい。どう解決していいのか、非常に難しい問題になってきた。いろいろな問題があるが、大局的な日韓の戦略目標を、首脳会談を含めて確認する必要があるのではないか。

 勝股 韓国は米朝協議でどのような役割を演じようとし、それが日韓関係にどう影響を与えているか。

 木村 文政権は2017年5月にできた時点では、北朝鮮との対話を復活させることが目標だった。18年になると、南北対話が始まり、瞬く間に米朝対話につながった。文氏は、自分たち韓国が金正恩氏とトランプ氏を仲介し、朝鮮半島問題の「ドライバーズ・シート(運転席)」に座っていると高揚感を持った。この高揚感が、日韓関係にも影響している。日本は北朝鮮問題で強硬策をずっと言っているが、結局その意見が通らず、韓国はワシントンでの影響力で勝っていると思うようになった。北朝鮮問題でも、経済的にも重要ではない日本と問題が起きても、放っておいて構わないとなった。韓国軍は、中国、北朝鮮は敵ではないとしており、何のためにいるのかが問われている。そういう中では、隣にいる日本とは問題になりやすい。

 伊藤 韓国軍は自衛隊と交流を続け、かつては日韓関係がガタガタしても、「何も変わらないから(大丈夫だ)」と言っていた。今回は、レーダー照射の問題で軍も(大統領府に)なびいている。高官交流が止まり、対立が深まっていることに、衝撃を受けている。

 勝股 日本と韓国の関係はさらにとげとげしくなっていくのではないか。

 木村 現在の対日強硬策の下地は12年から13年に出そろっていた。保守派の李明博イミョンバク大統領の竹島上陸や天皇陛下に対する謝罪要求事件があった。徴用工問題も1度目の大法院判決があった。朴槿恵パククネ政権は慰安婦問題で最初から強硬姿勢を取った。日本との経済関係は重要ではないとして対中接近した。それに対し、中国と対立するようになった米オバマ政権が、日韓が協力しないと困ると韓国に圧力をかけ、関係悪化は一時的に止まった。その意味で、韓国への日本の影響力を担保するには米国との良好な関係が極めて重要だ。

 伊藤 日韓は同盟ではない。日米同盟があって、米韓同盟がある。日本としては、日米同盟をしっかりしておくことに尽きる。

 

軍備管理

軍縮には一時的軍拡…伊藤

 中谷 米国がロシアに中距離核戦力(INF)全廃条約をやめると通告した。ロシアも中国が入っていないINF条約は何の意味があるのかと思っていたはずだ。北朝鮮と中国の中距離ミサイルの脅威を受けている日本は、INF条約に代わるような中距離弾道ミサイル禁止条約の締結を提案すべきだ。

 岩田 韓国も中距離弾道ミサイルを持っている。過去の例では、当時のソ連が「SS21」という弾道ミサイルを欧州に向け、米国は対抗する形でドイツに「パーシング」を置いた。米国がソ連をたたく態勢をとって初めて、ソ連が中距離核を諦めた。軍縮のためには、米国の中距離弾道ミサイルを日本に持ち込ませるという覚悟を持てるかどうかが試金石になる。

 伊藤 理論的には、当時のソ連と欧州で核を撃ち合えば、生き延びるのはワシントンだ。それでソ連が撤廃を求めた。米国が今回、INF条約を離脱し、グアムに中距離核ミサイルを配備すれば、中国は中距離核ミサイルを撤廃しないと困ることになる。(一時的な)軍拡こそ、(相手に)軍縮させる方法なのだ。

 

「日米」高まる重要性

 米朝の非核化交渉は不透明さを増し、日韓関係は悪化の度合いを強めている。パネリストたちの分析を聞くと、韓国の反日的な姿勢は相当に根が深そうだ。日米韓の安保協力は見込めなくなっており、日本の安全保障戦略を再構築すべきだとの提言には納得させられた。朝鮮半島情勢が変革期を迎える中、日米同盟をきちんと機能させていく重要性がさらに増している。(政治部次長 小川聡)

 

 ◇動画は協会ホームページ(http://anpo.netj.or.jp/)で公開中

 

シンポジウム出席者

【基調講演】

 田中明彦・政策研究大学院大学長

【パネリスト】

 中谷元・元防衛相

 木村幹・神戸大教授

 岩田清文・元陸上幕僚長

 伊藤俊幸・元海上自衛隊呉地方総監

【モデレーター】

 勝股秀通・日大教授

489789 1 政治 2019/03/15 05:00:00 2019/03/15 05:00:00 2019/03/15 05:00:00 第15回安全保障シンポジウム「東アジア情勢を考える」で基調講演に臨む田中明彦・政策研究大学院大学長(5日、東京都千代田区の日本プレスセンタービルで)=伊藤紘二撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/03/20190314-OYT1I50078-T.jpg?type=thumbnail

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