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[連続在職最長政権・政策点検]アベノミクス、コロナで失速

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 「経済が悪いのは世界中どこも同じだ。問題なのは感染拡大をどう防ぐかだ」

 安倍首相は今月上旬、あきらめたように周囲にこう語った。

 新型コロナウイルスという「100年に1度」の危機が日本を襲った。17日発表された2020年4~6月期の国内総生産(GDP)は、物価変動を除いた実質で前期比7・8%減、年率換算で27・8%減となった。戦後最大の下落幅だ。名目値で見たGDPの実額は506兆円で、7年前の水準に逆戻りした。首相官邸筋は「驚きはない。緊急事態宣言をして経済を止めた時点で数値の悪化は予想された」と強調する。GDP発表の数日前、首相を交えた打ち合わせで20%台の落ち込みが予測されたという。

 だが、経済の失速はアベノミクスの貯金を帳消しにしかねない。過去最高の63兆円を見積もる20年度税収は、大幅な下方修正が確実だ。50兆円台前半まで減るとみるエコノミストもいる。6年前の税収水準だ。解雇や雇い止めになった労働者は見込みも含め4万5000人超。首相の決まり文句「アベノミクスで雇用が増えた」も揺らぐ。

 公明党の山口代表は周辺にこう語り、首相に同情を寄せる。「総理にとってアベノミクスが政権最大の成果だ。日本経済を立て直した。でも、こうなった。正直、かわいそうでもある」

 コロナ禍からの経済再生という重い荷物を背負いながら、首相はアベノミクスの総仕上げを図る。

          ◇

 安倍首相は24日、12年末の第2次政権発足からの連続在職日数が2799日となり、佐藤栄作元首相の記録を抜き、歴代最長となった。自民党総裁任期は来年9月末までで残り1年余り。これまで取り組んできた政策を振り返り、課題を探る。

幻の「戦後最長景気」…3本の矢 成果は限定的

 2012年12月の安倍首相の返り咲きと同時期に始まった景気回復が、戦後最長のいざなみ景気(73か月)の記録を更新――。政府は19年1月、こうした見通しを発表した。

 「アベノミクスの3本の矢で取り組み、もはやデフレではないという状況を作り出した。政権発足以来続く景気回復は74か月。戦後最長の可能性が高い」

 首相は当時の国会審議でこう自画自賛した。

 しかし、今年7月、有識者で作る内閣府の「景気動向指数研究会」(座長=吉川洋・立正大学長)が、実際には18年10月に景気は後退に転じていたとの判断を下した。アベノミクスによる「戦後最長景気」は、幻だった。

 新型コロナウイルスの直撃に苦しむアベノミクスだが、コロナショックの前にピークを打ち、首相が胸を張った頃には下り始めていたわけだ。吉川氏は記者会見で、71か月にわたったアベノミクスによる景気拡大局面の特徴を「大企業の収益に比べると消費は伸びなかった。もう一つ、人手不足なのに賃金が何となく上がらなかった」と総括した。

結果出した

 金融緩和、財政出動、成長戦略の3本の矢で「経済が上向いたことは間違いない」(第一生命経済研究所主席エコノミスト・新家義貴氏)。異次元の金融緩和で1ドル=80円台だった円高を是正し、企業業績が拡大、雇用を大幅に増加させた。

 日経平均株価は、第2次政権が発足した12年12月26日の終値が1万230円で、この間、2倍ほどの水準に上昇した。名目GDP(国内総生産)は19年7~9月期に年率換算で557兆円まで増えた。「間違いなく我々は結果を出した。(結果を)出していないのは、よほど運が悪いか、経営者に能力がないかだ」。麻生財務相がこんな軽口を飛ばしたこともあった。

 しかし、吉川氏ら多くのエコノミストが指摘するように、中流層以下を中心とする家計への波及は限定的だ。「官製春闘」で賃上げを財界に働きかけ、最低賃金も749円(12年度の加重平均)から902円(20年度の加重平均)まで上昇したが、物価上昇に追いつかず、実質賃金は前年比マイナスとなった年の方が多い。一方で、野村総合研究所の推計によると、金融資産を1億円以上持つ富裕層と5億円以上の超富裕層は計127万世帯(17年)で11年から約46万世帯増えた。

 3本の矢で最も重要とされた成長戦略は不十分との見方が定着している。首相はかつて規制改革に向けて「いかなる既得権益も私のドリルから無傷でいられない」と意気込んだが、介護や医療分野の改革は道半ばだ。内閣府によると、今回の景気回復局面でも潜在成長率は年1%を割ったまま。IT技術の発展に伴い、米国や中国では新しいグローバル企業が続々と誕生する中、日本では世界で勝負できる企業が生まれてこない。

 1989年には上位10社のうち半数以上を日本企業が占めていた世界の時価総額ランキングでは現在、トップ50社にトヨタ自動車が顔を見せるぐらいだ。「余力があるうちに企業の生産性を上げる構造改革を行い、財政再建を進めるべきだったが、コロナの直撃で有効な政策をとれない状況になっている」(野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト・木内登英氏)。

 アベノミクス総仕上げに向けた熱気はない。

総仕上げ

 コロナ禍からの経済再生に向け、政府は第3次補正予算案の編成を視野に入れる。しかし、2度の巨額な補正予算を経て、今年度予算の歳出総額は160・3兆円に膨張し、国債発行額も90・2兆円となった。借金への依存度は56・3%で、過去最高だ。

 「経済成長なくして財政再建なし」を掲げ、アベノミクスで税収増を果たしたものの、財政再建はさらに厳しくなった。財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の榊原定征会長は「平時に財政健全化を進める重要性が再確認された」と指摘したが、後の祭りだ。

 年末に向け編成作業が進む2021年度当初予算案は、首相が来年9月末の自民党総裁任期中に取り組む最後の当初予算になる。財務省は本来なら今頃、概算要求の締め切り間際で作業に追われる時期だが、今夏は新型コロナウイルスの影響で締め切りを来月末に延ばしたため、幹部の動きも少ない。

 「補正予算は財源が赤字国債で、どんな要求も通す状態だった。秋以降もコロナに絡めて『歳出を増やせ』の大合唱だろう」

 財務省幹部は冷ややかに語った。

遠のくPB黒字化

 財政再建にどう道筋をつけるのか、今後の大きな課題だ。2020年度予算の歳出は、2度の補正予算を経て160兆円を超えた。ここ数年は減少傾向だった国の基礎的財政収支(PB)の赤字幅は、当初予算時点の9兆円から66兆円に膨らんだ。

 PBとは、政策経費を賄うのに借金に依存するかどうかを示す。政府は20年度に黒字化することを目指したが、安倍政権は25年度に先送りした。今回のコロナ対策による巨額支出で、目標の再延期は避けられそうもない。

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1429144 1 政治 2020/08/24 05:00:00 2020/08/24 21:16:32 2020/08/24 21:16:32 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/08/20200824-OYT1I50006-T.jpg?type=thumbnail

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