読売新聞オンライン

メニュー

ニュース

動画

写真

スポーツ

コラム・連載・解説

発言小町

漫画

教育・受験・就活

調査研究

紙面ビューアー

その他

サービス

読売新聞のメディア

購読のお申し込み

読売新聞オンラインについて

公式SNSアカウント

[Gゼロサミット2020]コロナが示した国際システムの機能不全…イアン・ブレマー氏の基調講演全文<上>

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

Gゼロサミット開幕に先立ち、オンラインで基調講演を行うイアン・ブレマー氏
Gゼロサミット開幕に先立ち、オンラインで基調講演を行うイアン・ブレマー氏

来ることは分かっていた

 「パンデミックは森林火災によく似ています。早く見つかれば、それほどの被害なしに消火できる可能性があります。見逃されたままくすぶり続ければ、直ちに私たちの制御能力を超えて広がり、大火災になりかねません。パンデミックに対応するためには、医療業務従事者と十分な機材の供給が必要です。パンデミックでは、注射器から病院のベッド、呼吸器、マスク、そして、防御具にいたるあらゆるものが不足しかねません。パンデミックに襲われると、我が国は、新しいワクチンの迅速な提供を可能にする需要の急増に対応できる能力が必要になります」

 これは2005年11月のジョージ・W・ブッシュ大統領の発言です。

 もう一つあります。

 「空気感染する、命にかかわる感染症に見舞われるときが来る可能性があります。これに効果的に対処するためには、私たちは、我が国のみならず、全世界において、迅速に確認し、隔離し、素早く対応することを可能にするインフラを整備することが必要です。今から5年後、あるいは10年後にスペイン風邪のような新しいインフルエンザ菌が出現したときのために、私たちは、投資を行ってきました」

 これは、2014年12月のバラク・オバマ大統領の発言です。

 今年の災害の到来を予想していたのはアメリカの大統領だけではありません。私が話をしたことがある日本の複数の高官は、長年にわたりパンデミックのための準備について話をしてきました。

 来ることは分かっていたのです。唯一の問題はそれがいつなのかということでした。

 そして、それがやって来たとき、世界のリーダーはどのように対応したでしょうか。

 コロナウイルスは、第2次大戦以来最大の危機を生み出したのですから、私たちが新しい種類の国際協力を期待する理由がありました。ちょうど10年前に世界的な金融危機が発生したとき、世界のリーダーたちは、更に大きな大惨事の拡大、世界恐慌を回避するために協力しました。

 2009年、米国とG7の同盟国が問題を自分たちだけで解決できないことを私たちは知りました。グローバルな経済を元に戻すために、金融市場への信頼の回復において中国や他の新興国と協力することが必要でした。

 民主主義と独裁主義、自由市場経済と国家資本主義の両方を含むグループであるG20が協力することは困難でしたが、全ての国が共通の脅威を認識し、一緒に行動することができました。

 それは、G20が多くのことを達成できた最後になりました。

 また、米国内には、痛みを伴う分裂が増大しています。金融危機以来、米国の政治はますます機能不全に陥り、中国はますます強引になっています。自国第一主義のポピュリストは、ヨーロッパとラテンアメリカにおいて政治をひっくり返しました。EUのソブリン債務危機、アラブの春の混乱、シリアとリビアの内戦、ヨーロッパへ向かう難民の波、修正主義的ロシア、カオスな状態のブレグジット、そして、ドナルド・トランプ大統領の政権は、私たちのGゼロの世界がどれだけ分裂したのかを如実に示しています。

 その観点からは、コロナウイルス危機が、壁を築くよりも橋を作る方が安全であると、世界のリーダーたち、あるいは、その国民を十分に説得していないことは何ら驚くべきことではありません。

 今日、パンデミックは終息にはほど遠いですが、それが私たちの世界をどのように変えるかは既に知ることができます。コロナウイルスは、新たなグローバルな課題を作り出してはいません。良くも悪くも、コロナウイルスは不平等の拡大、民主主義の正統性の浸食、時代遅れのグローバルな制度、かつてなく速いレベルのテクノロジーによる破壊的イノベーションといった、既にかなり進行していた最も重要なグローバルな変化を加速しているだけなのです。

パンデミックの影響、最も恵まれない人々に

 「不平等」から始めましょう。これは、所得や富のギャップについての話に限らず、生活の質の急激な乖離(かいり)につながる機会の不平等の拡大に関する話でもあります。米国では、米国人は「K字型の回復」に直面しています。教育水準が高くデジタル社会に適応した知識経済(ナレッジエコノミー)に属する層にとっては、他の人たちよりも回復ははるかに早く訪れるでしょう。パンデミックによる持続的影響は、社会的に最も恵まれない人々に一番重くのしかかり続けることになります。リセッションはいつでも貧しい人々に最も激しくのしかかりますが、コロナウイルスにより引き起こされた失業と急激な経済収縮は、現代の米国の歴史の中で最も不平等なリセッションを生み出しています。

 パンデミックの初期段階では、議会は、強力な財政刺激策で対応しましたが、紛糾した選挙シーズンにより生じた対立によって、経済についての超党派の協力はすぐに停止してしまいました。失業保険が枯渇するにつれて経済状況が悪化しました。抵当権の執行の数は急増しています。暫定的な一時解雇は、恒久的な失業となりつつあります。

 米国では、医療へのアクセスや、コロナウイルス危機により混乱する可能性が最も高い職種において、貧富の差が拡大しています。ユーラシア・グループでは、全ての従業員が、ノートパソコンを開くだけで「出勤」することができますが、ニューヨーク、ワシントン、ロンドン、サンパウロ、そしてここ東京において、多くの市民がさほど恵まれてはいないことを私たちも承知しています。

 世界中の政治指導者は、職を失った何百万人もの人々を助けるために、更に資金を使うことができるかどうかの検討を余儀なくされています。ロボットには病気休暇は不要であり、ロボットには健康保険が必要ではないことから、ウイルスは、雇用者が従業員を減らし、職場のオートメーション、機械学習、3Dプリントに多額の金を投資するインセンティブも生み出しています。取って代わられているのは豊かな国の労働者だけではありません。外注された多くの仕事の目的地である貧しい国々では、新しい仕事も少なくなっています。

 つまるところ、私たちは2020年、当然のことながら、コロナウイルスによってもたらされた人間の健康被害に焦点を当ててきました。2021年の最も深刻なコロナウイルスの影響は、医療問題ではなく、経済問題になるでしょう。特に、開発途上国において債務が急増し、また、今年の非常に効果的な緊急事態対応の後、国際的金融機関による貸し付けが少なくなっています。

政治制度への信頼低下が加速

 コロナウイルスは、私たちを安全に保つものと想定されている国内及び国際的な機関に対する人々の信頼の喪失を加速しました。

 米国では、深い対立と国レベルの政治的エスタブリッシュメントに対する人々の怒りが、何年にもわたり高まってきています。大統領、議会、公務員、そして、特にニュースメディアとソーシャルメディアが標的になっています。民主党と共和党は、公衆衛生と経済的活力のニーズのバランスをとるための最善の方法、及び、25万人のアメリカ人を殺したウイルスが深刻な健康リスクであるかどうかを巡って厳しく対立しています。

 2016年の米国大統領選挙における外国の干渉により、広い意味で選挙の健全性に対する米国民の信頼は既にむしばまれていました。今年の選挙の前は、ウイルスによる感染への恐れから、多くの有権者が直接投票することを怖がっていたときに、トランプ大統領は、郵便投票に対する全面攻撃を行いました。トランプ大統領が選挙での負けを認めることを拒否していること、及び、彼の米国の民主的制度への度重なる攻撃によって、将来のリーダーが最も重要な問題についてコンセンサスを構築する能力に対する信頼が更に損なわれています。

 こうしたあらゆる点において、コロナウイルスによって、大統領、議会、疾病管理予防センター等の機関、地方政府、ニュースメディア、そして、司法制度に対するアメリカ国民の信頼が一層損なわれています。

 こうした機関の健全性への信頼は、数十年にわたってむしばまれてきました。トランプの下で突然新たに起こったことではありません。しかし、合衆国は、権威主義国になりつつあるわけではありません。はっきり言えば、ジョー・バイデンの勝利は、米国がビクトル・オルバンのハンガリーやエルドアンのトルコにはなっていないことを示しています。そうなることもできないほどはるかに対立しているのです。しかし、日本、ドイツ、北欧諸国、カナダにみられるような健全な市民による民主主義は米国にもありません。

 政治的二極化の問題及び政治制度に対する信頼の低下の問題は、米国だけではなく全世界において加速しています。ブラジルからナイジェリアまで、オーストラリアやドイツにおいてすら、多くの国でコロナウイルスがもたらしているロックダウンに対する激しい抗議が行われています。事実、この1か月間に民主主義国及び独裁政権の国双方を含む26か国において、政府が課したパンデミック関連の制限に対し30を超える大規模な抗議が行われてきました。こうした国々や他の国においても、大勢の人は、公衆衛生上の脅威を深刻に受け取っていないとみられるリーダーに対してデモを行いました。政府は、社会契約の目的を維持しているとは思われていません。極端な陰謀説の周辺に構築された政治的な運動は、全世界において増えています。

国際的なリーダーシップが「蒸発」

 パンデミックは、国際政治のアーキテクチャーの変化も加速しています。世界経済は周期的に動いています。地政学もそうですが、地政学の場合、四半期ではなく数十年単位で測られます。これまでに大幅に改変されてこなかった限り、国際機関は、それが創設された時点におけるパワーバランスと、エリート及び国々の支配的な価値観を反映しています。世界的な価値観と国際的なパワーバランスは変化しており、その変化は機関そのものの変化よりも急速です。こうした機関の中で最も影響力がある者は、改革に抵抗することにたけている傾向があります。

 今日、国連安全保障理事会、世界貿易機関、国際通貨基金等の機関は、中国や多くの重要な開発途上国が登場する前の世界を広く代表し続けています。日本とドイツは安全保障理事会の常任理事国であるべきです。両国がそうなっていない唯一の理由は、両国が第2次世界大戦で負けたことです。はっきり言えば、それはばかげた理由です。日本、韓国、オーストラリアは、米国との同盟、多国間の軍事同盟の加盟国である必要があります。北大西洋に重点をおいているNATO(北大西洋条約機構)と一緒に、それはどうやって実現できるでしょう。すなわち、コロナウイルスの登場前ですら、世界は、「地政学的リセッション」の期間に突入し、国際的なリーダーシップや国境を超えた協力が蒸発していたのです。

 現在の公衆衛生上の大惨事までは、この問題を明らかにするほど危険な国際的な危機は存在しておらず、世界の最も強力な国のリーダーたちは、より国内的な問題に集中することにしていました。

 実際、このパンデミックとその世界中の経済的・政治的影響は、現在の国際システムが実際にどれだけ壊れているかを明らかにしました。冷戦時代の多国間機構は、もはや適切ではありません。そうした機関は、もはや存在しない世界を統治するために作られたのです。

 また、新興の中国に世界的なリーダーシップを期待することもできません。代役を務める準備ができていないのです。中国は、感染拡大があったことを認めてからですが、他の国々よりもコロナウイルスの感染拡大からはるかに迅速かつ完全に回復しました。2020年に成長する世界で唯一の主要な経済国です。ピュー・リサーチ・センターの最近のリポートによれば、ヨーロッパの主要10か国及びオーストラリアの複数の回答者が、現在、米国ではなく、中国を世界の主たる経済大国とみなしています。パンデミックにより、中国は、米国における無能力や苦い二極化の増大と思われるものと比較して、また、他の国々が中国との経済的関係への依存を高めていることから、自信を高めています。

 コロナウイルスは、西側のリーダーシップに代わる選択肢として自国を提示するという中国政府の野心を加速しています。手頃な値段により多くの開発途上国で利用されるワクチンの開発及び販売もそれを促しています。これは、より高度なインフラを必要とするファイザーやモデルナにとっては大きなチャレンジです。

 しかし、コロナウイルスは、パンデミックのかなり前から高まっていた中国に対する国際的な不信感も加速しています。湖北省における最初のコロナウイルスの感染拡大を隠蔽(いんぺい)し、その危険について世界に警告しようとした中国人医師を沈黙させた中国政府の行動は、中国のイメージを著しく傷つけました。私が引用したピュー・リサーチ・センターの同じリポートによれば、そうした全ての国々の大半に加えて日本と韓国は、習近平主席が「世界的な問題において正しいことを行う」ことについて信頼していないとしています。

 つまり、コロナウイルスは、中国が不可欠な経済パートナーであるという認識を加速させるとともに、中国の計画に対する疑念を大いに加速させたのです。コロナウイルスのために、今日、私たちは団結するのではなく、更に分裂しています。地政学的秩序は、コロナウイルスのせいで、実際には以前よりも断片化されています。

20世紀の経済エンジンを破壊

 最後にコロナウイルスは、新しいテクノロジー、人工知能(AI)への世界の投資を加速しました。パンデミックは、20世紀の経済のエンジンを破壊し(バックミラーに映る工場や実際の店舗での小売りを想像してみて下さい)、AI、情報テクノロジーそしてオンラインでの小売業者等の21世紀のエンジンにターボチャージャーを付けたように大幅に加速しました。

 人類の歴史におけるあらゆる重要な技術的進歩と同様に、デジタル革命は、コロナウイルスがより私たちの働き方や生活を変えることによって加速され、勝者と敗者を生み出しています。時間がたつにつれ、こうしたものを含む技術的進歩は、更なる人間の可能性を解き放つことになります。遠隔学習、遠隔医療の実践、より効率的な農業に向けての前進、将来の「スマートシティー」を生み出すブレークスルーのための前例のない機会を生み出すことによってです。

 残念ながら、過去最高値へとマーケットを押し上げる上で役立っているこうした技術的変化は、豊かな国、貧しい国の両方において多くの人々を置き去りにすることにもなります。この問題が今後数年にわたり、政治的混乱を多く生み出すことは確実です。ウイルスはこのトレンドも加速しています。

 つまり、コロナウイルスがそうした問題を生み出しているのではなく、問題の拡大を加速させたのです。そして、ウイルスは、問題を解決するために必要な時間とリソースを私たちから奪っているのです。

 多くの被害が発生し、特に国内及び国際社会の両方が政治的に著しく二極化しているときには、政府のリーダーを非難することは簡単です。中国のリーダーは真実を隠蔽しました。ドナルド・トランプ、ブラジルのジャイール・ボルソナーロ、イギリスのボリス・ジョンソン及び他の多くの人々は、危険を深刻には受け止めませんでした。ロックダウンを実施したリーダーは、学校を閉鎖し失業を増やしていることによって非難されています。

 しかし、スケープゴートを探していると全体像を見失います。問題はGゼロです。来るべき課題がグローバルな課題であり、グローバルな解決策を見いだすためにはグローバルな戦略が必要であることを私たちが理解できないという集団的な無能力なのです。

 ウイルスとの闘いで我々が団結して、失敗したことから学んだ教訓を、前に進むための道を描く際に確実に役立てることが必要です。日本、ヨーロッパ、米国、そして世界中のみんなが一緒にです。

 良いニュースもあります。先ほど申し上げたように、パンデミックが世界中にもたらした経済的損害は、20世紀型の商取引からよりダイナミックな21世紀の経済への移行を加速することになるでしょう。これは極めて重要です。

 別の危機を想像してみましょう。一つは、大規模なサイバー攻撃がオンライン経済に打撃を与え、世界の金融市場を混乱させ、個人のデジタルIDの安全性に対する信頼を致命的に害したという危機です。もしそれが起こったら、最も革新的な企業がその影響を受け、途方もない損害を被り、将来、21世紀の課題に対応することができなくなるでしょう。

 その代わりに、現在見舞われているコロナ危機は、世界の最も革新的な企業にパワーを移転させています。情報の共有、食糧の栽培及び流通、エネルギーの消費、それらの方法を変えることができる企業にです。

気候変動への対応、中核的戦略に

 気候変動について少し考えてみましょう。確かに、パンデミックによって、地球の温暖化を抑制するために必要とする大胆な行動に向けた協調した前進から、国内及び国際的な関心がそらされています。しかし、世界中の人々にオンラインで集まり、働き、買い物をし、学習することを強いたり、検査や接触追跡から治療やワクチンの開発までのあらゆるものに役立つ不可欠な新しいツールを提供したりすることにより、パンデミックは、既に気候に優しい行動に最も強いコミットメントをしていた企業にパワーを与えています。

 主要国は、今年、新たな大胆な気候政策を設定しました。中国、日本、韓国は全て、ネットゼロの目標を掲げました。EUは、パンデミックによる不況をクリーンエネルギーと技術に投資する機会として扱っており、進むべき新しい道を設定しました。最近では、米国は、その歴史上最も積極的な気候変動対策を掲げて立候補した大統領を選出しました。

 こうした政策は市場の動きを追いかけているのであり、逆ではありません。世界最大の金融機関、資本プール、そして企業は、気候変動への対応をその中核的なビジネス戦略の問題に位置付けています。

 つまり、コロナウイルスは、エネルギー転換も加速しているのです。気候変動の最も有害な影響を回避するほど十分な速度では動いておらず、その影響の多くは長い間そのままになっていますが、私たちは、2021年に向けてスピードを上げています。コロナウイルスによりもたらされた経済的損害は、大気中に大量の二酸化炭素を排出する化石燃料に対する需要、及び、それに依存しているインフラの建設を大幅に減少させ、政府や石油・ガス会社に、再生可能エネルギーへの投資を増やすための新たな理由を提供することになります。

EU、妥協と調整で復興策に合意

 政治的リーダーシップはどうでしょうか? 疑いもなく、コロナウイルスの最も肯定的な地政学的な影響は、ヨーロッパの指導者がアメリカと中国の指導者にどのように協力するかを示すために歩み寄ったことです。

 コロナウイルスは、欧州大陸を何度かの波で横断しました。最初の波への対応において、ほとんどの欧州諸国は、米国よりもはるかに効果的に、かつ、中国で見られている個人のプライバシーへの永続的な被害なしに、ロックダウンを行いました。

 そして、10年前のソブリン債務と移民危機の後の資金調達をめぐる争い後、EUの指導者たちは、27加盟国すべての支持を得て今年前半に2兆3600億ユーロ以上の復興パッケージに合意しました。その資金は、コロナウイルスからの復興、労働者、企業及び加盟国のための社会的セーフティーネットによる保護の強化、そして永続的な経済再建を確実にする上で役立てるために2021年から2027年までのEU予算の拡大に向けられます。

 ハンガリーとポーランドからコンディショナリティーと法の支配について見たように、この政治的成果は、依然として課題が残っています。そうではありますが、この政治的成果は、疑いもなく、世界がこの世代において、国際的な妥協、協力、調整の最も重要な事例でした。また、それは、コロナウイルスにもかかわらず起こったものではなく、コロナウイルス故に起こったのです。どれだけの金額だろうとそれだけでは感染症により損なわれた社会を再建することはできないと言う人々は、金なしで仕事を失った労働者、企業、そして政府を助けてみてください。

 これを達成するために、ドイツのアンゲラ・メルケル首相とフランスのエマニュエル・マクロン大統領は、欧州統合派のアジェンダを推進しましたが、これは、パンデミックの前に、裕福なEU各国の納税者を激怒させ、EU内の貧しい国々で憤激をたきつけ、元共産国であった加盟国を阻害し、ブレグジットを後押ししたアジェンダと同じものでした。

 その過程で、メルケルとマクロンは欧州連合におけるユーロ懐疑論を弱め、多くの加盟国は大いに必要としていた助けを得ました。数週間前、友人であるギリシャのキリアコス・ミツォタキス首相と話しましたが、彼は、度重なる危機に(ひん)したギリシャにとっての「マーシャルプラン」と見なしていると私に語りました。その資金が全て配布されるまでには何年もかかりそうですが、全会一致で合意されたこの大胆な緊急対応措置は、自国第一主義のポピュリズムが欧州連合の将来に疑問を投げかけたときに、他の何ものよりも、犠牲を共有することの価値を示したのです。

 もう一つのポイント:この金融パッケージには、グリーンテクノロジーへの投資や、欧州との貿易を希望する非EU加盟国が、欧州の技術規格に準拠するか、高い税金を支払うことを要求する規制上の刺激策も含まれています。

 それは、最も重要な分野である技術及び環境に関する規制における欧州の影響を強化することになります。世界最大の共通市場であるEUには、他の地域に見られるような画期的なハイテク企業、強力な軍隊、強力な銀行、豊富な天然資源はありません。しかし、それは関係がありません。EUには、世界で最も有能なルールメーカーがおり、特に、米国と中国の政府は、EUから学び始めることが賢明でしょう。特に気候、テクノロジーの規制及び21世紀のための社会的セーフティーネットの構築などにおける欧州の先見性に関してです。これは良いニュースです。悪いニュースはどうでしょうか。

 大きくは、グローバルな問題に対処するために、集団的なグローバルな対応が必要であるにもかかわらず、それがないということです。それに近いものすらありません。世界のリーダーの間で十分な妥協、協力、そして調整が行われていないことから、今年は各国が不必要な被害を受けています。私が生きてきた間の最悪の危機であるコロナウイルスですら、私たちがGゼロから脱出するために有益な新たな国際的なアーキテクチャーが必要であることを世界のリーダーに説得しかかることすらできていません。今のところ、私たちは、いまだ間違った方向に向かっているのです。

>>イアン・ブレマー氏の基調講演全文<下>へ

無断転載・複製を禁じます
1686188 0 政治 2020/12/08 19:54:00 2020/12/09 06:52:50 2020/12/09 06:52:50 Gゼロ・サミット開幕に先立ち、オンラインで基調講演を行うイアン・ブレマー氏 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/12/20201209-OYT1I50021-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)