読売新聞オンライン

メニュー

ニュース

動画

写真

スポーツ

コラム・連載・解説

発言小町

漫画

教育・受験・就活

調査研究

紙面ビューアー

その他

サービス

読売新聞のメディア

購読のお申し込み

読売新聞オンラインについて

公式SNSアカウント

[Gゼロサミット2020]「妥協・協力・調整を」…イアン・ブレマー氏の基調講演全文<下>

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

二つのテクノロジー超大国

 ジョー・バイデンの米国大統領への選出は、このGゼロの地政学的秩序の浸食を遅らせることになるでしょう。しかし、これはオバマ時代への逆戻りではなく、また冷戦後の1990年代への回帰ではないことは確実です。コロナウイルスとその経済的副産物は米国において激しさを増し、政治的二極化が深まり、反エスタブリッシュメントの怒りは高まり続けるでしょう。バイデンは、自分が立案を支援した貿易協定である環太平洋パートナーシップに米国を戻すために必要な議会や一般の人々の支援を得ることはないでしょう。今までで世界最大の多国間貿易協定でありながら米国が含まれていないRCEPの発表後においても、事態は変わらない。また、議会の行き詰まり状態により、政権にとって最も優先順位が高い気候変動問題への対応能力が厳しくテストされることになるでしょう。

 アジアと欧州の両方における米国の同盟国は、友好的な顔をしたアメリカの大統領と向かい合うことになるため、安堵(あんど)のため息をつくことになるでしょうが、新しく来る医者の満面の笑みではアメリカの慢性的な問題を治癒することができず、米国主導の同盟のほころびを遅らせることができないことにすぐに気付くでしょう。今後しばらくの間、Gゼロが続くことになります。

 Gゼロと並行して力学的変化が現れることになり、それは、やがて、世界の風景を根本的に変えることになるでしょう。それは破壊的な新しい技術の世界に根ざしたものです。世界には、米国と中国という二つの勃興(ぼっこう)するテクノロジー超大国が存在します。これをT‐2と呼びましょう。

 地政学的には、北京はいまだワシントンには匹敵しません。主として、中国はグローバルではなく、地域的な軍事力にとどまっています。中国の経済的影響力は急速に高まっていますが、兌換(だかん)通貨と、国際的基準のシステムを構築するために必要な法の支配が欠けています。また、その文化的影響力は、世界的には依然としてアメリカとは競争になりません。

 それでも、技術的には、中国のイノベーション能力は、世界経済や、国家の安全保障にとって本当に重要ないくつかの主要なセクター等において、今、米国のイノベーション能力と競合しています。米国には、まだ十分に訓練を受けた科学者がより多くいますが、中国企業は、はるかに多くのデータを生み出しています。アメリカの企業は基礎的な研究開発に多くの資金を投資していますが、中国企業はしっかり戦略的に焦点を据えて事業活動や応用研究に多額の投資を行っています。米国は、フィンテックの成長の活用方法の探求に後れをとっていますが、中国は、デジタル通貨の開発を最大限進めており、ブロックチェーンを大規模に展開しようとしています。

 人工知能の研究及びそのデジタル経済、世界的インフラ、エネルギー及び人間の行動へのその応用の中核的領域においては、米国と中国の間で差がなくなりつつあります。こうした分野では両国は既に同等であり、まさに拮抗(きっこう)しています。また、世界的には、他の国は米国と中国に比肩できません。

 T‐2はいまだ地政学上の概念ではありません。G2ではありません。それは、舞台にはいまだ多くの利害関係者がいるからです。米国では、技術のイノベーション、データ、監視能力及び影響力のほとんどが民間企業のグループに属しており、規制環境は依然として脆弱(ぜいじゃく)です。中国では、国家が国のチャンピオンを選出し、強力な規制の傾向により、セクターの形と方向が決められます。

 このダイナミクスは、技術を巡る米中対立のあらゆる側面を形作り、5Gインフラを誰が作り運用するかをめぐる争いは、このライバル関係の中心であり続けるでしょう。ネットワーク・トラフィックを監視する能力、すなわち名前、キーワード、関係及び場所に加えて、重要なインフラ関連データへアクセスすることは、国家による介入にとって更に重要なツールになるでしょう。

 これは、未来の武器でもあります。5G上で稼働している重要なインフラを停止させることを確実に脅すことができれば、それは国際システムにおいて多大な影響力を持つことになります。

 今のところ、過渡期にある米国は、いまだ完全には関与していません。ファーウェイ、アリババ・クラウド、アント・フィナンシャル等の国家的なチャンピオンを含むチーム・チャイナは、アフリカ、中東、東南アジアでは支配的です。トランプ大統領の下での米国の対応は、米国の金融、経済及び情報共有能力を利用して、チーム・チャイナと同調しそうな者に影響力を行使することでしたが、その間、米国とその同盟国は、戦略的代替案を開発しようとしています。しかし、5年から10年先を見てみましょう。新しいテクノロジーは、住んでいる場所、家、車、体までも監視し、生成されるデータは、限られた数の企業のサーバーに保存されます。これは必ずしもディストピアではありませんが、社会全体にわたるパワーバランスの根本的な変化です。

 中国では、そのパワーの多くが、直接的にも間接的にも国家に帰属します。米国では、それはいまだ分かりません。大まかには二つの可能性があります。国家がハイテク企業と戦略的な関係を構築しナショナル・チャンピオンを育成するか、ハイテク企業のパワーが国の主権を浸食し続けるかです。

 今のところ、結果的には、T‐2競争では中国が「勝っています」が、これは、企業の能力が優れているからではなく(まだ優れているとは言えません)、一帯一路やデジタルシルクロード等の構造内でより戦略的な効果をもって使用することができるからです。米中両国の企業は、物事がどのように機能するかについての並外れた知見を生み出していますが、中国だけが、そうした知見を国家権力のために展開する意思を有し、そうすることが可能なのです。習近平の下では、現在、そうした能力は、中国共産党の利益とより密接に関連しています。

 米国の政策立案者が遅れているもう一つの重要な例は、金融サービスです。中国企業は、モバイル決済の分野において世界を支配しようとしていますが、中国は、代替的金融システムを確立し、ドルの長期的な支配を脆弱化するために、一帯一路に属する国々においてそのソブリン・デジタル通貨を打ちだそうとしています。また、中国は、ブロックチェーン技術の分野でのイノベーションを支援しており、長期的な戦略的ビジョンを備えた規制構造を構築する強い意欲を示しています。それは、統制を維持しつつイノベーションを解放し、参入障壁がまだ低い今、正に中国企業にこの分野での優位性を提供するものです。

 このテクノロジー冷戦のリスクは、米中経済の依然として強い相互依存関係を理由として限定されています。高度な製造及びサービスのサプライチェーンは縮小するでしょうが、堅固でグローバルなものに留まり、中国の3兆ドルに上る製造業の威力と物流ネットワークは、中国外へと容易に代替することができません。パンデミックが収まれば、グローバルな旅行と観光が再開します。米国は、中国へアイデアや商品を輸出します。これはまだ続くでしょう。中国の消費者と政府は、それに対し支払いを続けるでしょう。バイデンが大統領である間、GゼロとT-2は共存するでしょう。

三つの懸念

 しかし、この状況がどれだけの間持続可能であるかはいまだ分かりません。私には三つの懸念があります。

 第一に、世界経済は、特に5G及びIoTネットワークの展開が加速するにつれて、今後数年間、制限のない大量のデータフロー及び関連したテクノロジーに更に深く依存することになるでしょう。その結果、経済力をめぐるグローバルな競争は、一層ゼロサムになり、ウィン・ウィンとなる可能性は少なくなるでしょう。

 第二に、技術・データ分野は、米国では国家権力を浸食していますが、それには、二つの全く異なる可能性があります。一方は、米国政府は、こうした企業を最も重要な愛国的な企業として扱い、青いサプライチェーン・ピルと赤いサプライチェーン・ピルのどちらの側を選択するかを強いることです(20世紀の主要なエネルギー企業のように、勝者は、正しい戦略的選択をする企業になります)。他方は、ハイテク企業は、ますます独立したアクターになり、世界のパワーバランスを断片化することです。

 第三に、世界経済のデジタル化は、国家安全保障を通常戦力及び核戦力から、サイバー・情報戦争能力へと再定義しています。これは、米中間の安全保障の競争の場を急速に平準化し、ロシアを周辺勢力にし、これらの全ての勢力に、既存の同盟の価値を再考させることになるでしょう。

 これは、世界の勢力バランスが変化する最も重要なあり方です。

米国が持つ多くの利点

 米国が国際協力の回復において依然として極めて重要な役割を果たすことができると認識することも重要です。いずれにせよ、中国は興隆していますが、米国は没落しているわけではないのです。現在の世界には、世界のあらゆる地域へ政治力、経済力及び軍事力を投入できる国としての超大国は依然として一か国しかありません。その超大国は米国です。米国には、永続的な多くの利点があります。

 米国は、有利な地理的恩恵を享受しています。南側の国境の安全保障はホットな政治的な話題のままですが、欧州が今後、中東や北アフリカの現実から逃れようとして奮闘する絶望的な人々の波から予想される圧力のようなものに米国は直面しません。

 米国には新しいアドバンテージもあります。2008年、金融危機が米国経済を減速させる前ですら、米国は、1日当たり500万バレルの原油しか生産していなかった。その後、数年にわたる探査と生産のイノベーションの後、その数字は、2019年には記録的な1230万バレルまで上昇しました。

 石油ブームに貢献した多くの米国企業は、価格の変動に応じて、従来のスーパーメジャーよりもはるかに迅速に生産量を増減できる中小企業であり、競争相手よりもはるかに強い回復力を持っています。サウジアラビアとロシアの両国は、2020年に再度その教訓を学びました。

 次は食糧生産についてです。多くの国々でコロナウイルスによる貧困が再現し、気候変動が農業に与える損害の両方に直面している世界においては、農業生産がさらに重要になっています。中国とインドだけが米国よりも多くの食糧を生産していますが、これら2大国に比べて米国の養うべき人口ははるかに少ない。それにより、米国は、長期にわたり世界最大の食糧輸出国であり、「食糧安全保障」については、シンガポールとアイルランドに次いで世界第3位にランクされています。

 米国は依然として世界の金融超大国です。コロナウイルスによりデフォルトのリスクが急上昇しており、銀行はどこでも多大な重圧にさらされています。しかしながら、危機におけるクレジット・デフォルト・スワップの価格は、危機が始まる前に米国最大の銀行に多大な資本があったことを一部の理由として、投資家は、ウォールストリートの銀行よりも欧州の大手銀行の方が大きなリスクに晒されていると考えていることを示唆しています。

 世界の主要な準備通貨の座をドルが引き続き支配しているおかげでアメリカ人は引き続き「途方もない特権」を享受しています。

 しかし、COVID後最大の米国のメリットは、そのハイテク企業の継続的な優位性にあります。世界最大のインターネット企業13社のうち11社が米国企業であることだけではありません。米国は、今後数十年にわたり世界の経済発展を支配する人工知能、ビッグデータ、クラウドコンピューティング、自動運転車、ドローン及びその他の最先端のハイテク分野においてイノベーションを牽引(けんいん)する最大のデジタル・プラットフォーム企業とスタートアップの「ユニコーン」の両方を非常に多く生み出しています。

 実際、新型コロナウイルスは、封鎖された経済を再開する上でのそうした企業が持つ中心的な重要性により、そうした企業の利点を高めています。接触追跡用のジオトラッキング、免疫パスポートの開発、ソーシャルディスタンシングを維持しながらビジネスを行う能力を考えてみてください。米国企業は、こうした全ての分野において新しい基準を設定しています。

 しかし、Gゼロから抜け出す道を見出そうとするのであれば、米国の関与の回復をはるかに超えたものが必要になります。新しい国際的なアーキテクチャーを生み出し、依然として私たちの安全と繁栄が依存している国際的な法の支配を守るためには、世界は、全ての主要民主主義国の間の妥協、協力、調整を必要とするでしょう。

 残念ながら、このニーズは、最も経験豊富で有能な二人のリーダーがステージを去るときに訪れています。ドイツのアンゲラ・メルケルは、現在、その政治的キャリアの黄昏にさしかかっており、過去15年間に彼女が欧州に提供してきたような安定した手腕を後継者がどのように提供できるかは明確ではありません。日本の安倍晋三は既に去りました。菅総理は、その最初の数か月間、手強い政策立案者として頭角を現しましたが、その前任者が長年にわたり細心の注意を払って構築してきた重要な国際関係を構築する時間はいまだありません。実際、メルケルが去る時期にもよりますが、次にG7が会合するときは、カナダのジャスティン・トルドーが最も長い期間つとめたリーダーになります。リーダーシップの必要性は喫緊の課題です。

日本への期待

 とはいえ、日本の新しい総理大臣には多くのことが期待されます。以前申し上げました通り、Gゼロサミットが、偉大な国日本の中心である東京で開催されることは私にとって大変重要です。私は、来年の秋に、私たち全員が東京で集まれることを大変楽しみにしています。

 私たちは、世界で最も健全な先進的な産業国、すなわち、強力な政治的リーダーシップがあり、他の多くの主要な民主主義国の政治を害している二極化、不平等、制度の正統性の低下、及び、政治的阻害を避け続けている国のリーダーシップを大いに必要としているからです。

 私自身の個人的な経験からは、日本の民間セクターは引き続き革新的でありダイナミックです。日本は、その政治部門及び民間セクターの意思決定者が、上級ポストを含む労働力において急増する女性がもたらす才能、想像力及びハードワークを迎え入れることによって恩恵を受けるでしょう。

 ソサエティ5.0に向けた前進のおかげで、日本は、世界を持続可能な経済成長に導く手助けをすることができます。菅総理の2050年までに日本をカーボンニュートラルにするという計画は、日本のエネルギー使用の大きな変化を必要とするでしょう。それは、まさに、もっと多くの国々で行われ、調整されなければならない大胆な一歩なのです。

 また、私は、菅総理大臣のリーダーシップの下で、デジタル化された政府サービスの提供システムを日本が開発し、それが世界中の国々にとっての効率性と個人のプライバシー保護のモデルになれることを期待しています。それは、アジアの国々が、石炭への依存から抜け出すことを手助けすることができるものであり、世界の環境のためになります。

 私は、強く必要とされるときに、日本が米中間の協力を促進し、さらに重要なことですが、米中間の対立を限定する役割を果たすことができるものと信じています。この役割は、次期バイデン政権によって歓迎されるでしょう。

 また、日本は、現在、かつてないほどに必要とされている世界における人道援助を提供し、援助の配分の調整を主導することもできます。

 最後に、日本は、日本企業及び国際システム全体のために、多国間機構を強化する役割を果たすことができます。日本は、貿易、データ移転及びイノベーション政策についての世界的なルール作りを主導するために、欧米の同盟国とより密接に協力することが必要になるでしょう。

 日本のリーダーシップは不可欠です。それは、世界にそのようなリーダーシップが欠けていることのみを理由とするものではありません。対応すべき課題の性質が新しいものであり、ルールがいまだ書かれていないことも理由です。こうした状況は、気候変動、制度的浸食及びテクノロジーによる破壊的イノベーションの時代においては増えていくでしょう。

 私たちは、依然として、人々が信頼し、あてにすることができる世界的なリーダーシップが不在であるGゼロの世界に住んでいます。気候変動、機会の不平等の拡大、より良い生活を求める人々の国境を越えた流れの政治的・経済的影響、破壊的イノベーションがもたらす我々の生活への影響といった、私たちの眼前にある大きな危険は、一気に私たち全員の脅威になるのです。

 どれだけ強力であっても、どのような国も単独ではこうした課題に対処することはできません。私たち全てが役割を果たす必要があります。全く異なる価値観をもった様々な政治制度のリーダーたちが協力する方法を見いださなければなりません。ビジネスのライバルは、非政府組織と協力することを含め、共通の課題に対処するためにどのように協力できるのかを検討することが必要になります。

 私たちみんながそれぞれの役割を果たさなければなりません。権力者、影響力がある者、あなたや私のような人、みんなです。

 それは、私たちそれぞれのためであり、私たちみんなのためにです。

(敬称略)

※ユーラシア・グループの日本語訳を基に作成しました。

>>イアン・ブレマー氏の基調講演全文<上>へ

無断転載・複製を禁じます
1686191 0 政治 2020/12/08 19:54:00 2020/12/08 20:05:46 2020/12/08 20:05:46 Gゼロ・サミットのロゴ https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/12/20201208-OYT1I50072-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)