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首相、基地返還の加速目指す[返還合意50年 沖縄の今]<1>

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日米首脳会談後、共同記者会見に向かう菅首相(左)とバイデン大統領(4月16日、米ワシントンのホワイトハウスで)=源幸正倫撮影
日米首脳会談後、共同記者会見に向かう菅首相(左)とバイデン大統領(4月16日、米ワシントンのホワイトハウスで)=源幸正倫撮影

 日米両国が1971年に沖縄返還協定に調印してから、17日で50年となる。沖縄が直面する課題を検証する。

 「キャンプ・キンザーを含め……」

 4月16日、米ホワイトハウスでジョー・バイデン大統領との会談に臨んだ菅義偉首相は、こう切り出した。

 キンザーは沖縄県浦添市にある米海兵隊の「牧港補給地区」の英語名で、収納庫のほか米軍人や家族の住宅、娯楽施設などが立ち並ぶ。菅が官房長官時代から、早期返還に取り組んできた案件だ。

 テーブルを挟んで向き合うバイデンに、菅は「沖縄にある米軍基地返還の加速化を目指しましょう」と続けた。

 バイデンとの初対面でキンザーの名を出して早期返還を促すことには、政府内で慎重論もあった。

 3月16日の岸信夫防衛相とロイド・オースティン米国防長官との初会談に際し、キンザー返還に言及するよう首相周辺が打診したが、防衛省側が「初顔合わせでは、そこまで具体的な話には踏み込めない」と突っぱねていた。

 菅の狙いは、トップ会談であえて具体名を挙げ、日米の事務方に返還作業の加速を促すことにあった。菅がキンザーに言及したことは、その後の記者会見では明らかにされなかった。

 キンザーは県都・那覇市に近接し、大動脈の国道58号沿いの一等地にある。面積は、東京ドーム57個分の268ヘクタールと広大だ。浦添市長の松本哲治は、跡地にキャッシュレス決済や自動運転車などの実験都市を築く構想を描いている。

 日米両政府が2013年4月に公表した嘉手納基地以南の返還計画では、キンザーは「25年度以降」に返還が完了することになっているが、実現への道のりは険しい。返還の前提条件は、キンザー内の施設を沖縄市の米軍嘉手納弾薬庫やグアムの米軍施設内などに移すことだが、移設先での施設の建設計画がなかなか決まらないためだ。

 県民に負担が重くのしかかる米軍基地は、少しずつ返還が進んでいる。少しずつでも、場所によっては、具体的な効果がある。

 15年12月、官房長官だった菅は駐日米大使だったキャロライン・ケネディと、キンザーのうちの国道に面した部分の先行返還で合意した。今年5月31日、国道沿いの細長い約3・6ヘクタールの返還が、ようやく完了した。これにより、今年度中に、国道が6車線から8車線に広がる。区間は2・9キロと短いが、渋滞緩和が期待されている。

 岸は、こう語る。

 「メリットが県民の目に見える形で基地の返還を実現し、負担軽減を進めていくことが大事だ」

 ◆ 嘉手納基地以南の返還計画 …沖縄本島中南部の人口密集地域にある米軍基地・施設の整理統合、返還に関する計画。全て実現すれば、対象6施設のうち約7割に当たる約1048ヘクタールの返還となる。

米軍の存在と折り合い…軍用地に投資活況

 米軍普天間飛行場は「45倍」、嘉手納基地は「58倍」……。

 那覇市の不動産会社「おだやか不動産」の店頭に貼られた軍用地物件のチラシには、通常の不動産広告ではみられない「倍率」が記されている。

 軍用地とは、米軍基地などに使われている土地のことだ。民有地の場合、日本政府が地主に借地料を支払う。「倍率」は、地主が、年間借地料収入の何倍の価格で軍用地を売りたいかを表す指標だ。

 新型コロナウイルスの感染拡大後、手堅い投資先として軍用地の人気が高まった。同社の平敷慶人社長は、「コロナ禍で経済が大変でも、軍用地の地主には確実に借地料が振り込まれる。しかも国債よりも利回りが良い」と語る。

 例えば年間借地料が10万円で、土地価格が「50倍」の500万円なら、単純計算で利回りは2%になる。

 皮肉にも、返還見込みがないほど「人気物件」で、「倍率」が上昇する。倍率が高いほど利回りは小さいが、その分、長期にわたって借地料収入が得られるため、買い手が付く。

 軍用地市場の活況は、多くの県民が「基地のない沖縄」を願いながらも、基地返還は一筋縄ではいかないという現実を物語っている。

 基地返還が進まない要因の一つは、日米で合意した返還に、しばしば反対運動が起きることにある。

 1972年の沖縄県の本土復帰以来、最大規模となった米軍北部訓練場(国頭村、東村)の約半分の返還は、日米両政府が96年12月に合意してから実現までに20年を要した。当初目標の「2002年度末」から、14年遅れた。

 返還の前提は、返還区域にあった7か所のヘリコプター着陸帯を、返還されずに残される区域の6か所に移設することだった。新たな着陸帯は、東村の約110人が住む行政区「高江区」集落を囲むように計画され、騒音や事故への懸念から住民に反対の声がわき起こった。

 しかし、反対運動の中に県外の活動家とみられる人物の姿が目立ち始めると、雰囲気は変わっていったという。反対派は工事車両の通行を阻止するため、自動車をバリケードのように何台も県道に放置し、独自の「検問」も行った。過激さを増す運動に、住民から「早く工事が終わればいい」と距離を置く声や、「どうせ国は完成させるよ」とあきらめの声が出てきた。

 「最初は高江区のみんなで反対だということで、県庁や県議会に要請に行きました。でも、外から反対派が集まってくると色々と懸念が出てきて……」

 高江区長の仲嶺久美子は、反対運動をこう振り返る。

 過激な反対派は、工事用車両の前に故意に飛び出したり、寝転がったりした。工事作業員の行く手を阻み、暴言を浴びせることも常態化した。2016年7月、県警は反対派の行動は危険だと判断し、機動隊も投入して反対派を抑えた。政府は、移設作業を再開した。

 一方、地元住民や自治体に、政府は手厚い財政支援で臨んだ。県内では「アメとムチの政策だ」との批判が根強いが、移設に理解を示した地元に報いようという考えもある。

 国の予算で、高江区には住民のための交流施設が作られ、売店の改修も進んでいる。

 当時、沖縄基地負担軽減担当と官房長官を兼ねていた菅義偉は何度も沖縄に足を運び、地元の村長や仲嶺らから要望を聞き取った。菅は仲嶺から携帯電話の番号を聞き、電話やメールでたびたび、「ヘリの騒音はどうですか」などと様子を聞いている。

 高江区の住民たちは、もろ手を挙げて移設に賛成したわけではない。訓練場跡地では、米軍のものとみられる廃棄物が見つかり、処理が問題となっている。

 仲嶺は「訓練があれば米軍機がグルグル飛んで、バラバラ音がして、窓はガタガタ揺れる。恐怖を感じますよ」と顔を曇らせる。

 住民は、様々なことに折り合いをつけながら、米軍の存在と向き合い続けている。

 (敬称略)

 ◆ 北部訓練場 …沖縄県北部で米海兵隊などが使う訓練施設。大半は森林。面積は県内最大の約7500ヘクタールあったが、1996年のSACO最終報告で、「過半」の約4000ヘクタールの返還が合意された。2016年12月に返還が実現した。

全国の7割集中…専用施設1万8483ヘクタール

 沖縄県が本土に復帰した1972年5月時点で、県内の米軍専用施設は2万7893ヘクタールで、県全体の約12%を占めた。復帰直後から施設の返還は始まったが、米軍関係の事故や犯罪が起きる度に、反基地運動が起きた。

 象徴的なのは、95年9月の米兵による女児暴行事件を契機とした全県的な運動だ。日米両政府は同年、基地の整理縮小に向けて「沖縄施設・区域特別行動委員会」(SACO)を設置した。SACOは96年12月、当時の基地面積の約21%を返還する最終報告をまとめた。住宅密集地にある宜野湾市の普天間飛行場は5~7年で返還するとされた。しかし、名護市辺野古のキャンプ・シュワブ沿岸部での代替施設建設が難航し、返還は2030年代にずれ込む見通しだ。

 防衛省によると、今年3月末時点で県内の米軍専用施設は1万8483ヘクタールあり、全国の米軍施設の約7割を占める。一方、米軍と自衛隊の共用施設を含めると、全国の約2割となる。

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2127122 0 政治 2021/06/16 05:00:00 2021/06/16 07:13:26 2021/06/16 07:13:26 首脳会談後、共同記者会見に向かう菅首相とバイデン米大統領(4月16日、米ワシントンのホワイトハウスで)=源幸正倫撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/06/20210616-OYT1I50013-T.jpg?type=thumbnail

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