コロナ下 混乱と分断…GZERO(Gゼロ)サミット

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オンラインで行われたGゼロサミット
オンラインで行われたGゼロサミット

 米国際政治学者のイアン・ブレマー氏と経団連の十倉雅和会長、経済同友会の桜田謙悟代表幹事が共同議長を務める「GZERO(Gゼロ)サミット」(ユーラシア・グループ主催、読売新聞社など後援)が7~9日の3日間、オンラインで開催された。新型コロナウイルスが国際秩序やアジア経済に与える影響のほか、日本のあるべき針路などについて、世界と日本の専門家、政治家らが議論した。

巨大IT 世界の動向左右

◎基調講演 イアン・ブレマー氏 米国際政治学者

 新型コロナウイルスの変異株が広がるなか、新たな政治的・経済的圧力が国境紛争を引き起こしている。指導国が不在の「Gゼロ」世界の欠点は、明らかだ。

 米国と中国の対立は続き、台湾、香港、南シナ海に関して合意することは決してないだろう。ただ、米中は「21世紀の冷戦状態」にあるとの主張には強く反対したい。今後数年間、両国政府はともに深刻な国内問題に直面し、自国への対処を優先することになるからだ。

 米国は、政治的、経済的、文化的、軍事的パワーを全世界に投じることができる唯一の国家だが、自国との戦いの中にいる。富の不平等は拡大し、白人と非白人、都市と地方、教育水準が高い人々と高くない人々の間の分断を広げている。政治の仕組みに対する国民の不信感は高まり、選挙結果をめぐる争いが続いている。

 中国では、 習近平シージンピン 国家主席の「中国の夢」が現実になり、何億人もが貧困を抜け出した。だが、中国製品を大量購入した富裕国で雇用が失われ、中国の製造拠点からの撤退を余儀なくされている。自動化やロボット化で、低賃金という中国の強みも失われつつある。

 両国が内向きになって生じる力の空白に踏み込むのは、他国政府だけではない。IT企業も地政学的に重要な主体となりつつある。経済的勝者と敗者、選挙結果、国家の安全保障が、政府と巨大IT企業の双方による決定に左右されつつある。これこそ「テクノポーラー・モーメント」だ。

 海面上昇や天候が不安定になるのと同様、我々は、IT企業が民主主義や社会に与える影響を抑えるため、今すぐ行動しなければならない。破壊的な技術とその技術を生み出す企業は、気候変動よりも速く、我々の生活を変えているからだ。

◎主な発言

クアッド 対中外交を援護

■中国とクアッド

 イアン・ブレマー氏 米国が太平洋で新たな国際秩序を構築する動きの中で、最も重要なのはクアッド(Quad、日米豪印の枠組み)だ。地域情勢にどんな影響を与えるか。

ケビン・ラッド氏
ケビン・ラッド氏

 ケビン・ラッド元豪首相 中国は当初、インドのクアッドへの関与は限定的だとみていた。インドが歴史的にも非同盟主義をとってきたためだ。だが、2020年に国境が未画定のカシミール地方で中印が衝突し、事態が変わった。インドの外相に聞いたが、この衝突によって、インドの政治指導層らはクアッドへの関与を強める方向に考えを変えたそうだ。

 中国は、インドの日米豪への接近を当初は無視したが、今は中傷に近い形で攻撃している。なぜか。東南アジア諸国や韓国はアジアの地政学的な緊張の高まりに不安を感じているが、クアッドによって安心感を得て、対中外交の自由度が高まった。クアッドが背後に控えているからだ。中国は、クアッドがアジアの非参加国からも外交的に支持されることを恐れている。

■先端技術

 ブレマー氏 従来の地政学と比較して、技術分野での興味深い変化は、支配的なプレーヤーが中国と米国に絞られてきていることだ。両国は技術的にはるかに他国より進んでいる。AI(人工知能)研究に他国の何倍も予算をつぎ込んでいる。日本は、どちらの国にも技術力は遠く及ばない。

 グーグル元会長のエリック・シュミット氏 日本は、米国のように(国、民間企業、大学など)社会のあらゆる英知を集め、AIの主要プレーヤーを集め、AIパートナーシップを構築すべきだ。国家としてAIに関する戦略を構築する必要がある。

 日本のAI戦略は、日本国内の法律だけではなく、日本の文化や価値観に合わせたものである必要がある。各方面が一体となって国家戦略を策定し、実行に取り組めば、日本の並外れた技術力で、世界でも重要なプレーヤーになれるだろう。

 ブレマー氏 米国、中国、日本、全ての国が半導体を必要としている。台湾にはTSMC(台湾積体電路製造)があるが、台湾は米中対立の最前線でもある。半導体をめぐり、日本はどんな政策をとるべきか。

エリック・シュミット氏
エリック・シュミット氏

 シュミット氏 非常に速度の速いコンピューターやスマホを製造するには、半導体が死活的に重要になる。半導体の分野では、台湾のTSMCと韓国のサムスンが非常に優れている。速度と低コストを両立させているからだ。

 中国も多くの半導体チップを輸入しており、世界のサプライチェーン(供給網)において半導体がいかに重要かを改めて感じさせる。TSMCは中国本土と米国に工場があるが、いずれも最先端ではない。もし日本に最先端の工場をつくることができれば、非常に大きな意味をもつだろう。

■新しい資本主義

萩生田経済産業相
萩生田経済産業相

 萩生田経済産業相 新型コロナ対策としての健康安全保障の確保にとって、民間の力をいかに生かすかが鍵だ。経産省は平時にバイオ医薬品を製造し、有事にワクチン製造に転用するデュアルユースの生産設備の整備支援などに3000億円近くを投資する。

 岸田首相が目指す「新しい資本主義」の象徴的な事業だ。官民の力を結集して国民の命を守り、グローバルな健康安全保障にも貢献する体制の構築に全力で取り組む。

 日本企業による人への投資額は、対GDP(国内総生産)比で諸外国に比べて低かったが、これを反転させたい。働く個人の能力を最大限に発揮させる取り組みを行う。

 リモート(ワーク)や兼業、副業を行いやすい環境作りを後押しする。企業の非財務情報開示を進める。海外投資を呼び込み、成長と分配の好循環につなげる。

 ブレマー氏 困難にうまく適応する社会を維持したいなら、社会が崩壊し始める前に対応すべきだ。今日の日本は、民主主義の先進国の中で、最もうまく困難に対処している国だ。日本には、米国やカナダ、フランスや英国のようなポピュリズムは存在せず、国民の間にも、それほど反体制的な感情がない。

 こうした状況の日本が、「新しい資本主義」に焦点を当てているのは、非常に興味深い。これは日本の民主主義が崩壊しているからではない。日本人は、どんな価値観を支持するか分からないまま、米国や欧州のような状況になってしまうのではないかと懸念している。だからこそ、早期に対処する必要があると考えているのだ。

気候変動 日本の役割重要

■持続可能性

小池百合子東京都知事
小池百合子東京都知事

 小池百合子東京都知事 気候変動の影響は、私たちの身近にも及ぶ。環境問題は、歴史的に重要な局面を迎えていることを認識する必要がある。この問題は「Gゼロ」の世界のリスクやチャンスとも関連する。東京都は気候変動問題と戦うための効果的な行動を進め、世界に貢献していく。持続可能な社会をつくることは我々の将来への責任だ。

 ブレマー氏 Gゼロの世界にリーダーシップが全く存在しないわけではない。気候変動はリーダーシップが存在する珍しい分野だ。若い世代は、SNSなどでの抗議行動を通じて、政府や民間企業などを動かしている。

 新浪剛史サントリーホールディングス社長 COP26(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議)では様々な合意が得られた。世界が連携し、行動する必要があるが、アジア諸国の発展段階は様々で、新型コロナとも戦っている。長期的なサステナビリティー(持続可能性)に取り組むのは簡単ではない。アジア諸国もより議論に加わるべきで、日本の役割も重要だ。

 中尾武彦前アジア開発銀行総裁 日本は回避できているが、多くの国で党派に基づき社会が分断されている。持続的な成長や民主主義にとっても憂慮すべき事態だ。パンデミック(世界的大流行)は国際協力を必要としているが、多くの国が自国だけを守ることに関心を持っている。民主主義に支えられた多国間主義、国際協力を維持していかないといけない。

成長と分配の好循環…岸田首相あいさつ

 資本主義は、更なる進化を求められている。新自由主義的な考えは、世界経済の成長の原動力となった反面、多くの弊害も生んだ。格差や貧困が拡大し、気候変動問題が深刻化した。

 米中関係をはじめ、地政学的緊張が高まり、Gゼロの度合いが強まっている。市場偏重・株主偏重の資本主義がもたらしたゆがみによって、選挙ポピュリズムや偏狭なナショナリズムという形で、健全な民主主義にしわ寄せが来ている。

 岸田政権は「人への分配」強化や、気候変動、デジタル化、経済安全保障などの分野への大胆な投資で、「成長と分配の好循環」による「新しい資本主義」を実現する方針を打ち出した。同じ問題意識を持つ主要国の首脳と、議論を 牽引けんいん していく。健康の安全保障として、社会全体で新型コロナの脅威を可能な限り引き下げる。予防、発見、早期治療までの一連の流れを抜本的に強化する。信頼性のある自由なデータ流通や、気候変動の問題にも取り組む。

 日本は米豪印、東南アジア諸国連合(ASEAN)などと「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)を実現し、日米豪印4か国の枠組み「クアッド」(Quad)を実りあるものにする責任があると考えている。

◆Gゼロ  先進7か国(G7)が指導力を失い、新興国を含む主要20か国・地域(G20)も機能しなくなった結果、国際政治で権力の空白が生じている状態を指す。ブレマー氏が2010年代初頭に提唱した。

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使い方
2606351 0 政治 2021/12/18 05:00:00 2021/12/18 05:00:00 2021/12/18 05:00:00 イアン・ブレマー氏(同サミットのウェブサイトから)※17日組別面詳報 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/12/20211217-OYT1I50136-T.jpg?type=thumbnail

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