読売新聞

未来貢献プロジェクト

SDGs

未来貢献プロジェクト > 腸内環境から未病を考える

腸内環境から未病を考える 2016年9月14日(水)品川グランドセントラルタワー ザ・グランドホール

2016年10月3日

腸で頑張る善玉菌 健康長寿へのカギ

「未来貢献プロジェクトシンポジウム・腸内環境から未病を考える」(読売新聞社主催)が9月14日、東京都港区の品川グランドセントラルタワーで開かれ、約440人が参加した。前半は大谷泰夫・前内閣官房参与が、病気になる前段階の「未病」の考え方について解説し、清野宏・東京大学医科学研究所教授が、腸が果たす免疫機能と、腸内細菌の重要性について説明した。後半のパネルディスカッションでは、阿部文明・森永乳業素材応用研究所長とプロフィギュアスケーターの荒川静香さんが加わり、健康長寿社会の実現に向け、腸内環境を整える生活の工夫や取り組みについて、4人で話し合った。

未病とは

主催:
読売新聞社
後援:
内閣府、日本医師会、日本歯科医師会、日本看護協会、日本薬剤師会
協賛:
森永乳業

ゲストスピーチ

より良い生き方 挑もう

大谷 泰夫氏(前内閣官房参与)

大谷 泰夫氏大谷 泰夫(おおたに・やすお)氏
1953年生まれ。76年、東京大学卒。厚生省(当時)に入省し、医政局長、厚生労働審議官、内閣官房参与などを歴任。現在は国立研究開発法人・日本医療研究開発機構理事を務める。

「未病」は、健康と病気の間にある中間領域を言う新しい考え方です。健康ではあるけれど、どこか体に心配がある、少し老化を感じるということや、病気になっても元気に生活しているということも多いでしょう。これからの長寿社会の真理は、この未病にあるともいえます。

 健康診断の結果が悪くならないよう食生活や生活習慣を改善したり、足腰を強く保つために運動をしたり、再び病気にならないように注意したりするという主体的な新しい生き方を提唱しています。専門家のサポートや指導も受けることも必要になるでしょう。

 それには企業が生み出す様々な商品やサービスを上手に活用することも大切です。健康産業を発展させることは、先端医療の研究開発推進と共に、国の重要な成長戦略でもあります。

 未病を考える際、知識を持つことも重要です。私が理事長を務める日本健康生活推進協会では、来年2月26日に第1回日本健康マスター検定を始めます。健康への知識を生かし、より良い生き方に挑戦していただきたいと思っています。

基調講演

病気予防に強い味方

清野 宏氏(東京大学医科学研究所 国際粘膜ワクチン開発研究センター長)

共生の場

清野 宏氏清野 宏(きよの・ひろし)氏
1953年生まれ。77年、日本大学松戸歯学部卒。米アラバマ大学バーミングハム校医学系大学院博士課程を修了。2002年から東京大学医科学研究所教授。同所長を経て、11年から現職。

 この70年ぐらいで日本人の平均寿命は女性で33歳、男性は31歳と大幅に延び、100歳以上の人は6万人を超えたという報道があります。最近、米国の雑誌が「これから生まれる子どもは142歳まで生きるのでは?」という特集を組みました。

 その一方で、健康でいられる健康寿命(*)と平均寿命の間に10~13年のギャップがあります。また、我が国の医療費は年41兆円を超えました。142歳時代を考えた時、医療費はじめ財政状況がどうなるか、心配ですよね。

 そこで健康寿命を延ばす「健康長寿」という考え方が重要になって来ました。私たちが研究する腸管での免疫、そこに一緒に生息するたくさんの微生物の視点からどうアプローチできるかを紹介します。

 腸は栄養を吸収する消化器です。最近では、体を守る免疫という働き、そして、微生物との共生の場という役割を担っていることもわかってきました。

 私たちの体を単純化すると、筒のような形をしています。筒の外側は皮膚に覆われ、内側は口・鼻から肛門までねばねばした粘膜で覆われています。

 その粘膜面は呼吸や栄養の吸収を行う一方で、病原体の侵入路にもなっています。その中で腸は10~15メートルのチューブのような形をしていて、内側はひだひだ状になっています。このひだひだの合間に、ドーム形でぎっしりと免疫担当細胞の詰まったリンパ節のような組織があります。「パイエル板」と言います。

 パイエル板には、司令塔となるT細胞、病原体を殺す弾丸である抗体を作るB細胞、病原体情報を処理・伝達する樹状細胞、ナイフで悪者を刺し殺すような殺傷能力を持つキラー細胞などさまざまな免疫担当細胞が詰まっています。

 ここでは、入って来た病原体などを排除するだけでなく、善玉菌に対しては活動しやすいように免疫を抑え、共生関係を作ります。右手でパンチしながら、左手で頭をなでるような巧みなバランスが取れたシステムです。

健康寿命

一生のうちで日常生活を支障なく送れる期間。2000年に世界保健機関(WHO)が提唱した。厚生労働省が国民生活基礎調査などを基に算出した、日本人の健康寿命(13年時点)は男性が71.19歳、女性は74.21歳。平均寿命(15年時点)は男性80.79歳、女性87.05歳。その差は男性9.60歳、女性で12.84歳になる。

増える悪玉

年代別に見た腸内細菌の変化

 腸内細菌の話をします。私たちの腸管には、100種類以上の細菌がお花畑のような状態で種類ごとに生息しています。これを腸内フローラ(花畑)と呼びます。

 最新の研究では私たちの体の細胞の数は約37兆個と言われ、体の設計図と言われる遺伝子は2万3000個です。一方で腸内細菌の数は100兆個、遺伝子は300万個で圧倒的にこちらの方が多いのです。

 こうした腸内フローラは私たちが生まれてから死ぬまで一緒に生き続ける重要なパートナーで、私たちは「もう一人の自分」という考え方をしています。

 腸内細菌は、有益な善玉菌、体に悪さをする悪玉菌、そして普段は良い子ぶっているが免疫が弱ってくると悪さを始める日和見菌の三つのグループに分けられます。

 善玉菌は私たちの体がつくれない一部のビタミンなどの栄養素、酪酸や乳酸、酢酸など抗菌作用のあるものを作ってくれます。善玉菌の代表格ともいえるビフィズス菌は腸管免疫を向上させる働きがあるようです。これを人に飲ませると、インフルエンザの発症率や発熱率を抑えるというデータも報告されています。

 善玉、悪玉、日和見菌のバランスが良ければ健康です。しかし、加齢でそのバランスは動いてきます。食べる物の変化、過剰なストレス、そして免疫も弱ってきますから当然です。赤ちゃんの時にたくさんいるビフィズス菌はどんどん減り、悪玉菌は増えていきます。光岡知足・東大名誉教授の先駆的な研究があり、腸内フローラは世界で最も注目される研究領域になっています。

 健康長寿社会に向けて、体の健康状態だけでなく腸内フローラの状態を把握してコントロールすることが大切になってきます。

 そのためには「スマートトイレ」の開発も重要です。トイレが、出したふん便を瞬時に解析してくれて、どんな細菌がいるのか、腸内フローラの状態がどうなっているかわかるというものです。これに唾液や血液、食事の好みのデータなどと組み合わせたヘルスビッグデータをスーパーコンピューターや人工知能が解析して、「こんなヨーグルトを食べた方がいいよ」などという情報がスマホで見られるような時代になって来ます。

 皆さんが個人レベルで真に健康を理解し、維持するシステムを作っていくことが大事だと思います。

パネル討論

腸内環境と未病について語り合うパネリストら

赤ちゃん守る

阿部 文明氏森永乳業素材応用研究所長
阿部 文明(あべ・ふみあき)氏
1961年生まれ。87年、茨城大学大学院農学研究科修士課程修了後、森永乳業入社。機能素材事業部長、食品基盤研究所長などを経て2015年から現職。日本ビフィズス菌センター理事なども務める。

荒川 静香氏プロフィギュアスケーター
荒川 静香(あらかわ・しずか)氏
1981年生まれ。98年長野五輪出場。2004年世界選手権優勝。06年トリノ五輪のフィギュアスケート女子シングルでアジア人初の金メダル獲得。14年に第1子を出産。日本スケート連盟副会長を務める。

魚住 りえ氏コーディネーター
魚住 りえ(うおずみ・りえ)氏(フリーアナウンサー)
1972年生まれ。95年、慶応大学文学部卒業後、日本テレビに入社。「所さんの目がテン!」「ジパングあさ6」などを担当。2004年にフリーに転身。スピーチ・ボイストレーナーとしても活躍している。

魚住 腸内環境と未病はどういう関係があるのですか。

大谷 多少の健康上の問題があっても、積極的に生き生き暮らしていくことが未病の考え方です。腸内環境とは食生活そのもので、未病を考える上で切っても切れないように感じています。

魚住 腸内細菌の役割と特徴は。

清野 腸内にいる善玉菌が持つ効果について研究が進んできました。この成果をどういう形で健康長寿社会に結びつけるかが大切で、基礎研究や、産学連携による理論の実用化が大きなポイントです。健康情報のビッグデータという形で、人それぞれの健康状態、遺伝子、腸内フローラの状態などを統合した新しい健康バロメーターを作っていくことも重要だと考えています。

魚住 腸内細菌の研究はどこまで進んでいますか。

阿部 赤ちゃんの腸内フローラの90%以上は善玉菌のビフィズス菌です。大人では10~20%と言われています。このバランスが崩れて落ち込むと便秘や下痢になるとされます。我々は「BB536」という特に健康に良いビフィズス菌を見つけました。便秘や下痢の予防だけでなく、免疫、アレルギー予防、抗炎症などについて世界中の研究者と研究を進めています。

荒川 子どもが生まれた時、様々なものに触れさせた方がいいと聞き、母乳と粉ミルクを併用しながら育てました。今はそのどちらでも健康に育つようになってきていると聞いていました。

魚住 ビフィズス菌が赤ちゃんを守っている。勉強になりました。

阿部 我々が発見したもう一つのビフィズス菌「M―16V」が医療分野で注目されています。日本の100以上のNICU(新生児集中治療室)で赤ちゃんに与えられています。1500グラム未満の赤ちゃんは、腸が未熟でビフィズス菌が圧倒的に少ない状態で生まれて来ます。生まれてすぐにこの菌を食べさせると腸内細菌が改善し、感染症が減って、体重も順調に増えるという報告があります。妊婦と生まれてきた赤ちゃんの両方にM―16VとBB536を与えると、アレルギー発症率が下がるという結果も出ています。

荒川 ビフィズス菌にそんな大きな力があったとは驚きました。娘は1歳10か月を超えたので、もう少し早く知りたかったです。

阿部 赤ちゃんのアトピー症状が改善したという研究成果も欧州にあります。さらに1年後の定期検査で、ぜんそくの発症率が下がっていました。

魚住 私もアレルギーがあるので、小さい頃に親が知っていたら良かった。

阿部 大人でも花粉症の症状やアトピー性皮膚炎が改善するという報告もあります。世界ではビフィズス菌などの善玉菌を加えた粉ミルクが売られています。日本では制度上の問題で入れられない状態です。

発症少なく

魚住 食生活の重要性をもう少し。

阿部 我々はビフィズス菌入りの牛乳を販売しています。一昨年の中高年約2万人への調査で、週4日以上3年以上続けてこの牛乳を飲んでいる人は飲んでいない人に比べ、便秘や大腸ポリープの発症が少なく、物忘れのリスクが下がったと感じる人が多い、という結果になりました。腸内に重要な神経が走っていて、腸内環境が脳に影響することなどが関係していると考えられます。女性の場合は、骨折が少ないことも分かりました。

荒川 私は牛乳よりも、ヨーグルトやチーズをよく食べます。牛乳は加熱しても効果は変わらないのでしょうか。

阿部 ビフィズス菌は高温だと死んでしまいます。40、50度ぐらいまでなら大丈夫です。温めるぐらいで取っていただければ。

荒川 一緒に取って良い、悪いという食品はありますか。

阿部 食物繊維を一緒に食べると、より効果があると考えられます。野菜も一緒に食べてほしい。肉ばかり食べると腸内フローラが崩れ、ビフィズス菌は減ってしまいます。そこでビフィズス菌入りのヨーグルトを食べると、菌の減少が抑えられます。

魚住 肉を食べた後にビフィズス菌を取るのも大切ですね。

阿部 子どもがビフィズス菌を取ると、下痢を繰り返す過敏性腸症候群が抑えられるという報告もあります。

病とつきあう

魚住 腸内環境は生涯にわたって、健康をサポート、維持してくれる素晴らしいものなのですね。

大谷 未病という考えの中でも、腸内環境やビフィズス菌が大事だと感じました。日々の生活習慣に気をつけ、病と共生していくことが、これからの長寿社会のポイントだと思います。感染症やけがは治せますが、老化に伴って増える病気とはつきあっていかねばなりません。その中でも食生活は基本中の基本だと思います。

魚住 荒川さんが健康について特に気をつけていることは。

荒川 競技生活中は専属のトレーナーや栄養士がいたわけではなく、自分の体は自分が一番知っていなければなりませんでした。自己流でどんな食事がいいかを試しながら考えてきました。幸い、病気やけがで悩んだことはありません。自分の体に向き合い、アンテナを張ってきたのが良かったのかもしれません。

魚住 腸内フローラが人によって違うように、健康作りもそれぞれ違うということですか。

清野 オバマ米大統領も「最適化医療」として、個人に合った病気予防、治療法を確立していくことが重要だと強調しています。

魚住 荒川さんが食生活で気を付けていることは。

荒川 母は食べ物の好き嫌いがないように育ててくれました。私も子どもの好き嫌いを作らないよう心がけています。乳製品はヨーグルトが子どもも好きで、毎日食べています。

阿部 ヨーグルトをそのまま食べ続けると飽きる人は、ドレッシングにしてサラダにかけたり、果物と一緒にジュースにしたりするなど工夫してはどうでしょう。熱には弱いので、料理に使う場合にはご注意を。

魚住 最後に一言ずつ。

荒川 腸は人の健康をつかさどる大事な臓器ということがよく分かりました。

阿部 腸内フローラは赤ちゃんから人生の最後の時までつき合っていくものです。良い腸内環境を作るため、ビフィズス菌入りのヨーグルトなどを継続して食べてほしいです。

清野 腸は非常に有能な免疫臓器で、菌との共生の場だということを理解してもらえればうれしいです。

大谷 昨年度の医療費が41兆5000億円に膨らむ中、限られた医療資源の中でできることは、自分たちで守れる健康は守るということです。健康産業が大きくなると経済成長にもつながります。

ページトップ