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未病シンポジウム 人生100年時代の未病最前線~ヘルスリテラシーを高め、アクティブな未病ライフを!~

2018年12月16日

 未来貢献プロジェクトの未病シンポジウム「人生100年時代の未病最前線」(読売新聞社主催)が11月13日、東京都港区の品川グランドセントラルタワーで開かれ、約400人が参加した。大谷泰夫・神奈川県立保健福祉大学理事長と鄭雄一・東京大学教授が、長い人生の終盤、健康とは言えなくとも病気ではない「未病」で過ごすために必要な知識や行動について講演した。その後、未病に関連した商品やサービスを企業の担当者や医師が紹介した。最後に、女優の杉田かおるさんが、母を介護した体験から、未病の大切さを語った。

主催:
読売新聞社
後援:
日本医師会、日本歯科医師会、日本看護協会、日本薬剤師会、日本健康生活推進協会
協賛:
アンファー、日清オイリオグループ、ファンケル、ロッテ

第一部

人生100年時代に向けた未病とヘルスリテラシー

健康リテラシー高めて

大谷 泰夫氏 大谷 泰夫氏(神奈川県立保健福祉大学理事長)
 1953年生まれ。東京大学法学部卒業後、厚生省(当時)入省。厚生労働審議官などを経て、2014年退官、16年まで内閣官房参与。18年4月から現職。

大谷 泰夫氏(神奈川県立保健福祉大学理事長)

 平成も終わろうとする今、平均寿命も延び、健康か病気かという二分法で考える人生ではなくなりました。病気と健康が共存する状態、やや調子が悪くても現役生活という未病の状態が、実は人生で相当長い時期を占めるようになりました。

 未病でいるには、医療はじめ専門家のサポートを受けながら、どう生きたいかを意識して行動すること、生活習慣を見直すことが求められます。たとえば、お酒を味わい長生きしたいなら、飲み方があるでしょう。毎日浴びるほど飲んでいたら、早い時期に飲めなくなる。このように考えたら生活は変わります。

 未病は、治すという呪縛からの解放でもあります。血圧は下げなければ、病気は治さなければと思い込んでいませんか。高齢化に伴う症状は基本的には、治りません。症状の悪化のスピードをどう抑え、体の劣化とどう共生するかを考えた行動が大切です。その際、身近な商品やサービスを適切に活用したいものです。

 そこで一番必要なのは、健康リテラシー。体に良いことを知り、それを行動に結びつけることが、非常に大事です。

 一昨年春、日本健康生活推進協会を作り、日本健康マスター検定(健検)*を始めました。検定はこれまで3万6000人が受検し、2万人以上が健康マスターという資格を取得しています。未病の取り組みは、企業や教育機関などで着実に進んでいます。

*日本健康マスター検定(健検) 健康な生活や健康に関わる仕事のための知識やスキルを問う。自らの健康作りに役立つ入門編「ベーシック・コース」では、食事や睡眠、運動など心身に良い生活習慣などが問われる。職場や地域での健康作りのリーダーを目指す「エキスパート・コース」では、医療・介護の公的制度など政策も詳しく問われる。次回は来年2月24日、全国43地区で実施される。申し込み締め切りは同1月21日。

病気リスクを見える化

鄭 雄一氏 鄭 雄一氏(東京大学教授)
 1964年生まれ。東京大学医学部卒業後、米・ハーバード大学医学部助教授などを経て、2007年から現職。専門は骨・軟骨の生物学・再生医学、バイオマテリアル工学。

鄭 雄一氏(東京大学教授)

 東京大学で、未病に関するプロジェクト「自分で守る健康社会」を医学や工学、化学の研究者らと進めています。既存の分野や組織の壁を取り払い、あるべき将来をまず思い浮かべ、実用化が目指せるテーマに積極的に取り組んでいます。企業にもパートナーとして参画を促しています。

 これからは、若者と高齢者の区別は徐々になくなるでしょう。高齢者も社会を支える時代になります。そうなると、自分の健康を自分で守ることが大切になってくると考えました。

 医療では、入院と通院を減らし、家庭で健康で過ごせる時間をなるべく延ばそうとするのが、あるべき将来です。そのために一人一人の意識と行動をどう変えていくかを研究しています。

 キーワードの一つが「効果の見える化」です。健診結果などのビッグデータを活用し、将来の病気のなりやすさを数値で示す。人工知能(AI)やVR(仮想現実・バーチャルリアリティー)といった技術を駆使し、例えば「3年後にメタボになるリスクは80%」などと伝えて、対処法も助言する。1回きりではなく、こうした評価を重ねます。

 健康リテラシーを高め、共感して励まし合える仲間作りの支援も進め、一人一人が行動を良い方向に変えるよう促します。

 今、新たな挑戦の準備を始めています。

 神奈川県立保健福祉大学大学院に来年4月、ヘルスイノベーション研究科が設置され、研究科長に就任する予定です。未病の考え方を実践するための人材育成と研究の拠点を目指します。

 人材は、科学的な視点や知識はもちろん、新しい考え方を社会に根付かせるために努力する姿勢が求められます。

 研究では、県立であることを強みに、県行政と密接に連携し、地域社会で実践していく体制を整えます。企業とも連携し、健康関連産業・サービス技術を開発する、新たな産業の創出も進めます。

 未病という新しい健康観を広めるには、確かな理念に加え、指標が不可欠です。先ほどお話ししたような、個々の「今の状態」と「将来の病気のリスク」を数値でわかりやすく示すことが大切です。この2年間、有識者で、こうした「未病指標」のあり方について議論を重ね、いくつかの要件が見えてきました。

 一人一人に対する指標で、一定の科学的根拠を持ち、費用対効果も高い。行動を見直して努力すれば、数値は変わっていく。美しく年を重ねるための意欲を引き出す未来予測です。

 指標は本来、個人に向けた開発ですが、企業なら商品開発に、自治体なら地域の課題分析にも使えそうです。こうした応用も視野に入れて、役立つ指標作りを進めていきます。

第二部

未病ライフをサポートする企業活動の最前線

偏りない食事アプリで

佐藤 晋氏 佐藤 晋氏(日清オイリオグループ理事・ヘルスサイエンス事業推進室長)

佐藤 晋氏(日清オイリオグループ理事・ヘルスサイエンス事業推進室長)

 最近、食用油の使われ方が大きく変わってきています。揚げ物、天ぷらでの使用にとどまらず、油をそのまま摂取する「生食」が注目されています。非加熱調理で使われた油は、2014年~16年で1・5倍に増えました。

 油といってもオリーブオイルやゴマ油、ココナッツオイルなど種類はたくさん。味はもちろん、抗酸化作用やLDL(悪玉)コレステロールを下げる働きがある成分を含むものなど、特長もそれぞれです。例えば「MCTオイル」は、食べたら素早くエネルギーになりやすい「中鎖脂肪酸」を含んでいます。自分に合った食用油を上手に取り入れてください。

 ここで大事なのは、運動と食事のバランス、栄養のバランス。バランスが崩れると肥満の原因にもなります。反対に高齢者では、低栄養が問題になっています。

 東京都健康長寿医療センターと、毎日の食事を記録できるアプリ「バランス日記」を開発し、11月から無料公開しています。「肉類」「魚介類」「緑黄色野菜」など10食品群から、食べた食品群をチェックします。1日7食品群以上になると、ニコちゃんマークが出てきて“合格”です。

 「果物を取っていない」「肉ばかり食べている」など、具体的な改善点に気付けます。満遍なく食べる質のよい食事は肥満やメタボだけでなく、高齢者の低栄養の予防にも効果的です。アプリで毎日の食生活を見直してみませんか。

かむ力は美しさも保つ

芦谷 浩明氏 芦谷 浩明氏(ロッテ ロッテノベーション本部 中央研究所上席執行役員・所長)

芦谷 浩明氏(ロッテ ロッテノベーション本部 中央研究所上席執行役員・所長)

 今年から、茨城県大子町と共同で「健康長寿プロジェクト」を始めました。「かむこと」と「腸内環境の改善」に焦点をあて、健康講座などを通して、町民の健康寿命の延伸を図る取り組みです。

 創業以来、かむことの大切さについて研究を続けてきました。かむことは、脳や心を刺激するだけでなく、美容、ダイエット、口の中や体の健康の維持によいといわれています。町民のみなさんにも、最新の研究成果を提供していきたいと考えています。

 「オーラルフレイル」という言葉が、最近注目されています。少し滑舌が悪くなったり、硬いものが食べづらくなったりと、ちょっと気になる口の中の症状を指します。うまくかめないと、「硬いものを食べるのをやめよう」になってしまう。すると、ますますかむ回数が減り栄養が偏って、健康から遠ざかる悪循環に陥ってしまいます。

 大子町では、「かむかむ健口エクササイズ」も紹介しています。ほっぺたを左右に膨らませるなど口の筋肉を使うトレーニングで、かむ力の維持が目的です。

 腸内環境にも注目しています。2年前に乳酸菌を生きたまま腸に届ける「乳酸菌ショコラ」を発売しました。町民のみなさんにチョコを食べてもらって、新たな乳酸菌の取り方を体験してもらっています。

 お菓子の会社ですから、これからも、おいしくて楽しくて、その上で健康にいいという商品を届けることを目指します。

サプリ 機能的に安全に

寺本 祐之氏 寺本 祐之氏(ファンケル総合研究所 機能性食品研究所所長)

寺本 祐之氏(ファンケル総合研究所 機能性食品研究所所長)

 無添加の化粧品会社としてスタートし、1994年からサプリメント事業を始めました。当時の健康食品は高価で、品質に疑問があるものもありました。そこで食品安全の研究所を設立し、あえて「サプリメント」という新しい言葉を使って、機能性と安全性に配慮した商品を作ってきました。現在約200人の研究員が在籍しています。

 サプリメントは、食品に分類され、長年にわたり具体的な機能の表示が禁止されてきました。2015年に「機能性表示食品制度」がスタートし、企業の自己責任で、機能をうたえるようになりました。

 例えば、目によいとされる成分を入れた「えんきん」という商品は「手元のピント調整力に」「中高年の目の健康に」など、商品の目的を分かりやすく伝えることが可能になりました。消費者が必要なものを選びやすくなったと思います。

 ただ、何でも自由に表示できるわけではなく、過去の論文や臨床試験から導かれた科学的に評価されたものに限られます。健康被害の有無などの安全性の確認や、消費者が誤認しないような適切な情報提供を行うことも求められます。現在、26製品を届け出ています。

 サプリの成分には、医薬品と相互作用を起こすものもあります。国内のほぼ全ての医薬品と当社のサプリとの飲み合わせを瞬時に検索できるデータベースを構築していて、消費者に情報提供する取り組みも進めています。

若者にも「隠れ脳梗塞」

知久 正明氏 知久 正明氏(メディカルチェックスタジオ 東京銀座クリニック院長)

知久 正明氏(メディカルチェックスタジオ 東京銀座クリニック院長)

 今年4月、京都府舞鶴市の大相撲春巡業で、あいさつをしていた市長が意識を失い、居合わせた女性が土俵に上って救命処置をしました。いろいろと報道されましたが、医師でもある現役市長が、前触れなく倒れたことこそが重大なことだと感じました。原因は脳の動脈瘤が破裂したくも膜下出血でした。

 現在の健康診断では、動脈瘤を見つけることは難しいのです。

 脳の病気をピンポイントで調べる検診「脳ドック」では、早期発見・治療が可能です。MRI(磁気共鳴画像装置)などで脳に異常がないかを検査します。しかし、費用や時間の問題で、受診する人はまだ少ないのが現状です。

 そこで今年1月、脳ドックに特化したクリニックを開きました。費用を抑え、検査結果をスマホで確認できるなど利便性の向上に努めたため、10月末までに1万人が受診しました。

 受診者の約8割が脳ドックが初めてで、20~40歳代も多く、若い人でも、破裂していない動脈瘤や自覚症状のない「隠れ脳梗塞」のケースがありました。専門医への紹介や、生活スタイルの見直しなど早期に介入することで、重症化を予防できました。

 脳の病気は、症状が出た時には、手遅れという場合が多い。だからこそ、未病の段階から、予防をすることが大事なのです。心臓や肺などほかの部位でも同じです。国家ベースで、効果的な検診体制を構築する必要があるでしょう。

パネルディスカッション

産業拡大へ官学と連携

企業の取り組みが紹介されたディスカッション

大谷 未病の分野では、産学官の連携が欠かせません。

佐藤 日清オイリオグループでは、三重県鈴鹿市、鈴鹿医療科学大と協働で、10食品群のバランスよい食事の研究をしています。健康意識が高い地域、医療系大学と私たちがうまく出会うことができた事例です。東京都健康長寿医療センターと作った無料アプリ「バランス日記」のように産学官協働の成果を、消費者に届けられたらと考えています。

芦谷 お菓子をもらって、嫌な顔をする人はほとんどいないと思います。「うれしい」とか「よかった」という気持ちになるなど、心の健康につながることも、お菓子のパワーの一つでしょう。そこを産学官が一緒になった研究の場で、エビデンス(科学的根拠)を示しながら進めていきたいと考えています。

大谷 研究者や大学の役割は何でしょうか。

 未病産業の拡大で大事なのは、一定のエビデンスを示していくことです。今、開発を進めている未病の指標は、個人の行動変容を図るだけでなく、企業の商品開発で客観的な効果測定の物差しにもなりうると思います。大学は、企業と行政、市民を結びつける開かれた研究基盤でもあります。現場のニーズを非常によく知っている企業には、大学を上手に活用してほしいです。

大谷 行政に対する要望はありますか。

寺本 サプリメントに関しては、行政はまだまだ取り締まるという立場が強く、一方で消費者には、正しいサプリの選び方や安全情報が伝わっていないと思います。サプリの必要性について、行政側にもしっかりとした認識を持ってほしいと考えています。

知久 個々人が、健診結果などを「マイカルテ」としてスマートフォンに入れておくと、どこに行っても自分の健康を自分で管理できます。自治体は、健診をやったから終わりではなく、その後どうなったかまでを評価する必要がある。そういったシステムを築くには、自治体や医師会など社会全体での理解も不可欠です。

大谷 未病は新しい考え方です。病気になる前の段階から、個々人が主体的に行動することが大切です。そのための商品やサービスは、身近で取っつきやすく、おいしくて続けやすいものがたくさんあります。個人と企業が一緒になって、未病の健康観を実現していきましょう。

第三部

ヘルスリテラシーを高め、未病ライフを謳歌する

母の「希望のリハビリ」

杉田かおるさん 杉田 かおるさん(女優、健康マスター名誉リーダー)
 1972年、7歳で、テレビドラマ「パパと呼ばないで」でデビュー。「3年B組金八先生」「池中玄太80キロ」など多数出演し、バラエティー番組でも活躍。介護や健康に関する講演活動も行う。

杉田 かおるさん(女優、健康マスター名誉リーダー)

 女優だけでなく、健康マスター名誉リーダーという肩書でも紹介してもらいました。日本健康マスター検定(健検)の「ベーシック・コース」は合格しましたが、「エキスパート・コース」はまだです。頂いた肩書は、さらに勉強しなさいという意味だと受け止めています。

 健検受検のきっかけは、今年1月に看取った母の看病をした経験でした。長年、(肺や気道に炎症が起きて呼吸の苦しさや息切れを招く)慢性閉塞性肺疾患(COPD)を患い、5年前からは、酸素ボンベをつけて在宅介護を受けていました。落語家の桂歌丸師匠ら多くの人が亡くなっている病気です。国内でも530万人の患者がいると言われています。

 その母の介護では、初めて知ることばかりでした。公的なサポート制度は複雑で、もっと早く知っておけば良かったと思い、学ぶようになりました。

 振り返れば、私は幼い頃から、多くの健康関連の商品を購入しました。良かったものから、まがいものまで。選ぶための知識が不足していました。

 同じような経験をしている人にも、健検受検をお勧めしたいです。

 もう一つ、病気になっても、未病を目指して生きる大切さを話します。

母の介護体験をスライドで説明する杉田さん

 集中治療室(ICU)から奇跡的に戻ってきた母は最期の3か月、理学療法士による呼吸リハビリを受けました。全身の筋肉を鍛えて、肺の機能が弱っていても動ける呼吸法を訓練するという説明でした。母は、肺はダメだし、心臓は弱っていて車いす生活でしたが、手足は動かせました。

 「このまま寝たきりでいいですか。棺おけまで歩くことを目指しましょう」と言われた母はがぜん、やる気になりました。生きているということを試してみたかったようです。2か月で200メートル歩けるようになり、朝ご飯を自分で食べて、携帯電話で私と話した後、意識がなくなり、私と妹が到着するのを待って、静かに息を引き取りました。83歳でした。

 母に残された能力や気力を最大限に活用して、日常生活に導く、「希望のリハビリ」でした。同じ病気の人にも希望を持ってほしいとの気持ちもあって、意欲的に続けられたようでした。

 COPDを治せなくても、リハビリで未病に戻れる。母が教えてくれたメッセージを伝えつつ、学んでいきます。