アイルランド<上>歌で団結、統一チーム

イングランド戦の試合前に国歌を歌うアイルランドの選手たち(2月2日)=ロイター

ラグビーのアイルランド代表はホームで戦う時、二つの「国歌」を歌う。

2月2日、ダブリンのアビバスタジアムにイングランドを迎えた欧州6か国対抗の初戦。因縁の相手とあって、試合前からビール片手に語り合うファンの熱気にあふれていた。開始直前、肩を組んだ選手たちがまず歌ったのは正式な国歌「兵士の歌」。続いて、ラグビー代表チームのために作られた「アイルランズ・コール」が始まった。

「アイルランド、アイルランド! ともに立ち上がり、肩を組み、声援に応えよう」――。誰もが歌いやすいリズムに勇ましい歌詞を乗せ、約5万人の観衆も選手とともに熱唱した。その声は1曲目よりも大きく、スタジアム全体に響いた。

アイルランド共和国と、アイルランド島の北東部に位置する英国の一部の北アイルランドが、ラグビーでは統一チームを組む。北アイルランド単独の代表があるサッカーと異なるのは、島全体を1879年設立のアイルランドラグビー協会が統括しているためだ。

強い代表、島の誇り

ケビン・ポット氏(ダブリンで)=帯津智昭撮影

「アイルランズ・コール」が歌われるようになったのは、1995年ワールドカップ(W杯)から。「二つの国の選手が一緒に代表チームを構成している。ファンもそれぞれの思いを持っているので、全員が応援できる歌を持つことが重要だった。導入は大成功だ」。協会の最高執行責任者を務めるケビン・ポット氏は、この歌の価値を強調する。試合会場に掲げる「国旗」も、北アイルランドも含めた4地域の旗を配置したデザインを採用している。

アイルランドは、隣国の英国に支配されてきた歴史がある。22年に自治領として独立した際、北アイルランドは英国にとどまった。住民の多くはキリスト教徒で、60年代から、英国の一部であることを望むプロテスタント系と、アイルランドへの統合を求めるカトリック系が対立。98年に和平合意が結ばれるまで、北アイルランド紛争の犠牲者は3000人以上に上る。

こうした歴史を持つ国にあって、協会は「inclusivity」(包括性)を重要な価値観に掲げる。多様性を受け入れるという意味だ。「ラグビーでは、出身地域は昔から関係なく、『自分たちはアイルランドの選手』というアイデンティティーがしっかりできている」とポット氏は言う。

代表チームは昨年、北アイルランド出身のローリー・ベスト主将の下、6か国対抗で全勝優勝を果たした。現在は世界ランキング3位で、W杯日本大会では優勝候補の一角に挙げられる。ダブリンの語学学校職員、コナー・オグレディさん(48)は「アイルランドが国際的に強いスポーツはあまりない。ラグビーなら世界一のチャンスがある」と期待する。代表の躍進は、様々な感情を押し流し、人々の心を一つにする。

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