ウェールズ<上>7万人合唱「小国」に力

今年の欧州6か国対抗でアイルランドを破り、5戦全勝で優勝したウェールズ=ロイター

ロンドン中心部から電車に乗って約2時間で、カーディフ中央駅に着く。案内板には英語とともにウェールズ語が並ぶ。英国の中にある「異国」ウェールズ。ラグビーが「国技」とされ、代表チームは人々の誇りである。

代表チームの本拠地、約7万4000人収容のプリンシパリティスタジアムは、中央駅から徒歩5分ほどの好立地にある。完成は1999年。開閉式の屋根があるが、伝統の欧州6か国対抗では雨の日でも開けたまま試合をすることがある。相手の同意がないと屋根を閉められないからだ。

「屋根を閉めると、試合前の『国歌』が反響してウェールズ代表に大きな力を与えることになる。15人対(観客を含めて)7万人になり、相手は強烈な圧迫を受ける」。元代表選手で、ウェールズラグビー協会のリース・ウィリアムズ営業戦略マネジャー(39)はそう話す。

13世紀にイングランドに征服されたウェールズ。英国の連合王国を構成する4地域の一つだが、独自の「国歌」である「ランド・オブ・マイ・ファーザーズ」を持つ。祖先からの土地を思い、愛国心を歌う、ゆったりしたテンポの歌だ。

男声合唱が有名なウェールズは「歌の国」とも呼ばれるほど歌が好きな気質なこともあって、ファンによる力強い歌声は、代表チームを奮い立たせる。民間の交流団体、日本ウェールズ協会のアースラー・バートレット会長は「子供の頃、カーディフの街中にいると、試合の日はスタジアムから歌声が聞こえてきた」と懐かしむ。

頂点へ響き合う情熱

ラグビーが「国技」と言われるのはなぜか。イングランドではパブリックスクール(名門私立校)でプレーされ、上流階級のスポーツとして広まったが、ウェールズでは国を支える産業だった炭鉱で働く人たちの余暇として親しまれたことが背景にある。暗い地底で働き、明るい地上に出た解放感でたまっていたエネルギーを爆発させたのが、ラグビーだったとも言われる。ウィリアムズ氏は「それぞれの村でラグビークラブができ、人々が集まる社交場となった。代表の試合を応援する時には、みんなが情熱的になる」と説明する。

今年の6か国対抗では、真っ赤なジャージーの代表チームの躍進に、ウェールズの人々はわき上がった。優勝候補のイングランドをホームで退けると、3月16日の最終戦でアイルランドを25-7で破り、5戦全勝で6年ぶりの優勝を果たした。その日は激しい雨にもかかわらず、スタジアムの屋根は、やはり開いていた。

過去8回のワールドカップ(W杯)では、準決勝に2度進んだが、いずれも決勝には届かなかった。現在の世界ランキングは2位。人口約300万人の「小国」が世界の頂点に立つことは、決して夢物語ではなくなっている。

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