【桜を胸に】<上>国籍超える 代表戦士

ラグビーは、国籍を持たずに国・地域の代表選手になることができるスポーツだ。日本代表でも、1987年の第1回ワールドカップ(W杯)から外国出身選手が日本のために体を張ってきた歴史がある。「桜のジャージー」への彼らの思いを探るとともに、代表資格について紹介する。

「日本のため」思い新た 

9月20日に開幕するW杯日本大会へ向け、宮崎市内での日本代表合宿には42選手が招集された。このうち日本国籍を持たない選手は9人いる。合宿で目を引くのは、金髪をなびかせるロックのビンピー・ファンデルバルト(NTTドコモ)と、リーダーの風格も漂うフランカーのピーター・ラブスカフニ(クボタ)。ともに南アフリカ出身の30歳だ。

ファンデルバルトは1メートル88とロックとしては上背はないが、力強い突進力とフランカーなどもこなせる器用さが売りだ。2013年に来日し、トップリーグのNTTドコモに加入。「密集で体格差を克服するため、技術的な部分を突き詰めている」と日本のラグビーに感銘し、異国で長くプレーする決意をした。

運命を変えたのが、15年の前回W杯だ。日本が南アから歴史的な金星を挙げた一戦を、大阪市の自宅でテレビ観戦した。母国が敗れる姿に衝撃を受けると同時に、勇敢に立ち向かう日本代表の姿に「心を打たれた」と、代表への思いを募らせた。17年に南ア出身者として初めて日本代表キャップを獲得。母国に一時帰国しても「すぐにお好み焼きが恋しくなる」と言うほど日本になじんでいる。

身長1メートル89のラブスカフニは南アで有名な選手だった。南半球最高峰リーグのスーパーラグビーで活躍し、13年には南ア代表に選ばれて合宿に参加したが、試合出場の機会はなかった。「できることは全てやり切った。新しい挑戦をしよう」と、16年に来日。代表資格を得るのが本大会直前となるため、まだ日本代表としての出場はないが、突き刺さるようなタックルと密集でのボール奪取能力が高く、今春、日本代表候補で編成した特別チーム「ウルフパック」ではゲーム主将を務めた。

来日当初は「妻が環境になじめず苦労をかけた」。だが、昨年1月、日本で第1子の長男が生まれると、「友達ができて、今では彼女も日本がホームだと感じている」という。

ラブスカフニもファンデルバルトも、かつて母国の代表ジャージーを目指した。ただ、今は日本での生活を気に入り、愛する日本のために力を尽くす覚悟だ。ラブスカフニは「日本のジャージーの重みは理解している。代表でプレーする時は日本の皆さんが誇らしく思えるようなプレーをしたい」と言葉に力を込めた。日本への思いに、国籍は関係ない。

「プレーする地域」背負う

外国籍選手も一定の条件を満たせば日本代表になれるのが、ラグビーの特徴だ。

国際統括団体ワールドラグビーの規定で、代表資格は、〈1〉その国・地域で出生〈2〉両親または祖父母のうち1人がその国・地域生まれ〈3〉直前の3年間継続居住〈4〉通算10年居住――のうち一つを満たせば、取得できる。国籍は関係ないが、他の国・地域での代表戦出場がないことが前提となる。

国籍があることが国代表の条件となる「国籍主義」のサッカーや五輪と異なるのは、ラグビーがイングランドなど各地域の協会ごとにチームを作る「所属協会主義」に基づくためだ。イングランド発祥の競技が英連邦を中心に普及していく中で、選手が移住先の代表としてプレーすることを認めたのが背景とも言われる。ラグビー日本代表は、日本人の代表というより、日本で暮らし、日本でプレーする選手の代表というわけだ。

ニュージーランド(NZ)や南アフリカなどの強豪国出身の選手や、体が強い南太平洋の島国の選手は、世界各地で母国とは別の代表としてプレーしている。W杯2連覇中のNZも含め、多くのチームに外国出身者がいる。

多様な社会を象徴

ラグビーの代表資格について、識者に聞いた。成城大の海老島均教授(スポーツ社会学)は「国籍のある選手が代表になるのが多くの日本人の感覚だろう。ただ、海外では二重国籍も珍しくなく、国籍主義では、希望の代表を選ぶこともできる。その国・地域に住んでいる外国籍選手が代表に入るラグビーは健全とも考えられる」と話す。

ラグビー元日本代表選手で、流通経大の向山昌利准教授(スポーツマネジメント)は外国籍選手について、「競技力が高いだけでなく、日本をリスペクトする選手が代表になる」と語る。「日本で数年間、高いレベルでのプレーを続けないといけない。そのためには日本文化を尊重し、適応することが必要で、代表に入るのは日本人選手よりも大変だと思う」という。

外国人労働者の受け入れを拡大する改正出入国管理・難民認定法が4月1日に施行された。明大の山脇啓造教授(多文化共生論)は「介護、外食、宿泊など様々な業種で急速に外国人が増えると思う。日本社会の制度や意識の改革が必要。企業や大学などでも外国人がいるのは当たり前になってきており、多様なアイデンティティーを持つ人たちをともに生きていく存在と認め、受け入れることが大事だ。ラグビー日本代表はその象徴になっている」と指摘する。

【なるほど!ラグビー】スクラムの「崩れ」 判定難解

故意にスクラムを崩す反則は「コラプシング」という。この判定は難しい。スクラムの最前列でプレーした経験のある主審はほとんどいない。私もトレーニングでスクラムを組んだり、トップリーグのコーチに教えてもらったりしている。

スクラムは安定していないといけない。互いに良い状態でスクラムを組ませることも主審の大事な技術だ。最初にぶつかった時にどちらが押し勝ったかを見る。組み合う時、(最前列の)プロップが相手の背中かわきを正しくつかんでいるかチェックする。また、つっかえ棒のように足が伸びきっていると、足が外れた際に崩れてしまう。そういう足の位置、膝の角度を見る。

スクラムを組む選手たちもどちらのチームが崩したのか分からない時もある。その場合、「足が伸びきっていた」などと崩れた原因を選手に伝える。

スクラムが崩れても、明らかにどちらが悪いとは言い切れない状況もある。とはいえ、何度も組み直し、試合を止め続けることはできない。その場合は「崩したのはこっち」という主観で笛を吹くこともある。(日本ラグビー協会公認A級レフェリー)

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