[ジャパンの絆]<上>身長1メートル53のヒーロー

 

NTTドコモの秦選手。大柄な選手と並ぶと体格差がよくわかる(8日、大阪市で)=枡田直也撮影

身長1メートル53、体重53キロ、靴のサイズは22.5センチ。

NTTドコモの秦一平選手(29)は、屈強な男が名を連ねるトップリーグで最も小さなラガーマンだ。幼い頃から背の順は一番前。身長は今も、同年代の女性の平均を下回っている。

ポジションは密集から出た球をさばくスクラムハーフ。武器はボールを持った時の素早さで、巨漢の間をかいくぐって前進し、時には、100キロ超の相手を一発で倒す低いタックルで観客を沸かせる。

周囲の背丈がぐんぐん伸びる中学生の時は「もう少し大きくなりたい」と考えた。しかし、明治大学で活躍し、グラウンドでの存在感が増すにつれて気持ちが変わってきた。この頃、小学生からもらった手紙にはこう書かれていた。〈体が大きくないのにすごい。ゆう気がわいてきました〉

今ははっきり言える。「この体だからこそできるプレーがあるし、誰かを励ますこともできる。小さいことは個性です」

ワールドカップ(W杯)に向け、北海道合宿に招集された日本代表41人のうち、スクラムで相手を押すフォワード24人は体重が100キロを超える。最重量は122キロ。身長1メートル90以上も5人いる。

スクラムハーフの田中史朗選手(34)は1メートル66。トライゲッターのウィング・福岡堅樹選手(26)も1メートル75と決して大きくはないが、50メートル走5秒8の快足を誇る。

ぶつかる、走る、投げる、跳ぶ――。15人が出場するラグビーはそれぞれの役割が異なり、動きも様々。他競技から転向してきた選手も多く、司令塔のスタンドオフ・田村優選手(30)はサッカー、フォワードの木津悠輔選手(23)は剣道だ。

体格、経歴 「一芸」集う

 

元ハンマー投げ大学王者の知念選手(9日、東京都府中市で)

「ボールを持ったら、とにかく前に走って」。ハンマー投げで高校、大学の日本一になった知念雄選手(28)が7年前、順天堂大ラグビー部の同級生から教わったのは、ほぼこれだけ。陸上シーズン終了後、ルールを知らないまま、人手不足のチームの「助っ人」になった。

水泳、相撲、野球、バスケットボール。幼い頃から多くのスポーツを習ったが、不規則に転がる楕円(だえん)球を追い、相手と体をぶつけ合う競技は新鮮だった。

陸上部のまま約10試合に出場した後の2014年、社会人の名門「東芝」に誘われ、ラグビーで世界を目指すことを決意。ハンマー投げでの東京五輪出場をあきらめてからわずか2年後、体重120キロで「走れる」フォワードとして、日本代表に選ばれた。

今回の最終合宿には呼ばれていないが、「ハンマー投げなどで培ったパワーや瞬発力をフル活用し、次のW杯を狙う」と力強い。

今月1日、ラグビー合宿の聖地・菅平高原(長野県)で、少し変わった催しが行われた。その名も「TIDビッグマン&ファストマンキャンプ」。日本ラグビー協会が、全国的には無名だが、背が高い、足が速いなど一芸に秀でた高校生37人を集め、将来の“代表候補”として育成している。

「自分にしかできないことが見つかった」。声を弾ませたのは、佐賀工2年の金子琉聖さん(17)。身長は1メートル92、中学時代はバドミントンをしていた。

元日本代表で、キャンプを発案した日本ラグビー協会の野沢武史さん(40)は言う。「平均的な人材より、一つでも秀でたところのある選手を育てたい。個性の違う15人が結束し、勝利を目指すのがラグビーの面白さです」

アジア初開催のラグビーW杯が1か月後に開幕する。体格もスポーツ歴も国籍も違う多様な選手が、心一つに戦う競技の魅力を探った。

関連ニュース

<<
ニュース一覧へ戻る
>>