[ジャパンの絆]<下>決戦前夜 エール映像

W杯に向けた合宿で汗を流す日本代表(22日、北海道網走市で)

「ゴー!ジャパン」「頑張れ」「負けたら日本に帰れないぞ」--。

ワールドカップ(W杯)のイングランド大会の初戦を控えた2015年9月18日夜。ホテルの部屋に集まった日本代表31人は、トップリーグ全チームを含む国内のラグビー関係者から寄せられたメッセージ映像に見入っていた。

ある選手は真顔で、別の選手はおどけながら、心からのエールを送っていた。大会直前に代表落ちした選手は筋肉隆々の上半身に、わざと小さすぎるTシャツを着て笑いを誘っていた。

決戦前夜の張りつめた雰囲気が変わり、どの選手の表情も和らいだ。フォワードの大野均選手(41)は、「あんなにリラックスしたチームを見たのは初めて。応援がみんなに力をくれた」と振り返った。

映像の発案者は、日本代表の一人だった広瀬俊朗さん(37)。エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(当時)からは「試合に出られないかもしれない」と言われており、一時は代表辞退も考えたが、「仲間と日本ラグビーの歴史を変えたい」と黒子に徹することを決めた。

チームを強く結束させたい――。日本にいる知人らの助けを借り、いつもはライバル同士の各チームなどからメッセージを集めた。「俺たちには、こんなにたくさんの仲間がいるということを改めて伝えたかった」

初戦の相手は優勝候補の南アフリカ。試合前のウォーミングアップを終えた桜の戦士たちは、身を寄せ合い、互いの肩に手を置きながらグラウンド外に移動した。団結を重んじる主将のリーチマイケル選手(30)が発案した。

国歌斉唱の際には肩を組み、全員が大声で「君が代」を歌った。大会前の合宿で、外国出身選手らに歌詞と意味を教え、率先して歌唱練習をしたのもリーチ選手だった。

約2時間後、日本代表は世界ランキング3位の強豪を破り、「史上最大の番狂わせ」を演じた。W杯の勝利は24年ぶりで、日本国内も一気にわいた。

先発出場した大野選手は、「グラウンドの選手だけではなく、控え選手、スタッフ、代表に落選した選手など日本ラグビー界が一つになって勝利をつかんだ」と力を込めた。

勢いに乗った日本代表はW杯で初めて3勝を挙げた。控え選手としてスタンドから見守った広瀬さんは「相手に攻められている時間帯を耐え忍ぶ日本人選手らしさと、外国出身選手の優れた発想力が混ざり合い、ジャパン独自のラグビーになった」と指摘する。

この流れを引き継ぐ現在の日本代表は約4割が外国出身選手。トンガ、ニュージーランド、韓国など国籍やルーツは様々で、ポジションや特長も違う。

1995年から3大会連続でW杯に出場し、今大会のアンバサダーを務める広瀬佳司さん(46)は、「外国出身選手が増え、選手の個性も様々になっているが、団結力は過去の代表以上だ。日本中からの声援を受けたチームがどんなプレーを見せてくれるか楽しみです」と話している。

日本代表が掲げたスローガンは「ワンチーム」。多様な人材が結束した時、日本ラグビー史上初の決勝トーナメント進出が見えてくるはずだ。

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