田中澄憲の目~ラグビーワールドカップ・日本―ロシア展望

ラグビーのワールドカップ(W杯)日本大会で、日本は20日、ロシアとの開幕戦に東京スタジアムで臨む。読売新聞オンラインで開幕戦の解説者を務める明治大学ラグビー部の田中澄憲監督(43)に、日本のチーム力や仕上がり具合、開幕戦の見どころを尋ねた。(聞き手=読売新聞オンライン・込山駿)

ジャパンの底力に疑いなし

南ア戦の前半、田村がタックルをかわされる。プレーをよく研究されていた(9月6日、熊谷ラグビー場で)

ワールドカップ前の最終強化試合となった今月6日の南アフリカ戦前、相手の監督が、日本の選手をあまりよく知らないといったコメントをしていた。あれはたぶん、ウソだ。日本をかなり研究してきたことが、戦いぶりに表れていた。

日本のスタンドオフの田村とフルバックのトゥポウがディフェンスの際にどんな陣形を取るかを、南アはよく調べていた。日本が対応しづらいところへ徹底的にキックを蹴り込み、トライを重ねた。4年前のワールドカップの雪辱を期して目の色を変えた強豪の攻めが、本番までに修正すべき日本の課題を浮き彫りにした。7―41と厳しいスコアにもなった。

ただ、日本がこの4年間で、南アから綿密に研究されるような立場までステップアップしてきたことを実感できた一戦でもある。スクラムできちんと南アに対抗できていたことも収穫だ。

日本の実力は、南ア戦に先立つパシフィック・ネーションズ杯(PNC)を会心の3連勝で制したことを見ても明らかだ。特に初戦のフィジーは、身体能力の高さを生かした自由なラグビーをする相手で、厳しい試合になるかと思っていたが、普通に快勝してみせた。トンガ戦、アメリカ戦も危なげない勝ち方だった。

ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ(HC)は就任以来、キックを駆使してアンストラクチャー(陣形の整わない状況)を作り、そこでのボール争奪戦を制することで、相手の防御網が整わないうちに突破するというスタイルを志向してきた。それが、手ごわい相手との強化試合を重ねてきた中で、根付いてきた感じがする。

地元開催のワールドカップ(W杯)で、8強による決勝トーナメント進出という目標が実現すれば、ラグビー人気は必ずや盛り上がる。それができるだけの底力を十分に備えたチームだ。

フィジー戦で、ボールを蹴ってインゴールに進み、トライを決める松島(7月27日、岩手・釜石鵜住居復興スタジアムで)

ロシア戦、フォワード戦で圧倒して4トライ以上を

グループリーグ4試合で最大の焦点は、ロシアとの開幕戦だと私は思う。世界ランキングは日本が上で、実力的には絶対に勝たなくてはいけない相手だ。昨年11月の強化試合でも顔を合わせたが、あの時は後半までリードされた末に5点差の逆転勝ちだった。ああいう辛勝ではなく、PNCの3試合みたいにいい内容で勝ちたい。

4年前のW杯で決勝トーナメントに進出できなかったのは、同じく3勝を挙げて並んだ他チームよりもトライ数が少なかったのが響いた。ラグビーW杯のグループリーグでは、1試合に4トライ以上を挙げたチームには、勝ち負けを問わず勝ち点「1」が加算される。4年前の日本は、五郎丸歩の正確なゴールキックが主要な得点源になっていたこともあり、4トライ以上を挙げた試合がなかった。今大会でグループリーグを突破するには、よりトライの多いラグビーを目指したいところだし、ロシア戦は4トライ以上を奪って勝ちたい試合でもある。

もちろん、それは簡単なことではない。どんな大会でも「開幕戦」は独特のプレッシャーとの闘いになる。W杯となれば、なおさらだ。地元で満員の応援を背にプレーすることも、歯車が狂えば、のしかかる重荷に変わる。選手一人一人の精神的な強さが問われる試合に違いない。

スタンドオフのクシュナレフ(ロイター)

ロシアは、少し前までは体格と馬力頼みのチームだった。だが、ウェールズから招いたリン・ジョーンズ監督の下、生まれ変わりつつあるといえそうだ。司令塔となるスタンドオフ(背番号10)に、2人の選手を使い分けているのが目を引く。ベテランのクシュナレフは堅実なゲームメイクが身上で、若いガイシンはキックパスなどを駆使したアイデア豊富なプレーが光る。どちらが出ているかによって、攻撃のリズムは大きく変わる。

日本としては、ロシアの司令塔の持ち味を封じ、主導権を握りたい。フォワード陣に期待している。スクラムやラインアウトで圧倒できれば、相手は密集からの球出しのリズムを乱し、攻撃を組み立てられなくなる。低くて強固なスクラムで体格の差を覆し、相手フォワードを押し込む展開に持ち込む力が、今の日本にはあるはずだ。

18日に発表された先発メンバーを見ると、球出しの起点となるスクラムハーフに流を起用した。持ち前の精度の高いキックをどんどん蹴り込み、相手の大型フォワードを後方に走らせ、疲れさせてほしい。控えには、南ア戦で先発した茂野ではなく、ベテランの田中史を入れた。最年長のトンプソンを控えに回したのも合わせ、交代要員には経験豊富な選手のもたらす安心感を求めているということだろう。ナンバー8の先発は、25歳の姫野。外国人に負けない体格とパワーの持ち主で、落ち着きもある。南ア戦で肩を痛めたマフィの穴を埋める力は十分にある。

《解説者プロフィル》

田中澄憲(たなか・きよのり) 明治大学ラグビー部監督。ヘッドコーチから昇格して最初のシーズンだった今年1月、名門を22年ぶり13度目の大学選手権優勝に導いた。現役時代はスクラムハーフで、明治大では大学選手権、サントリーでは日本選手権制覇に貢献した。日本代表キャップ3。7人制日本代表でも活躍した。兵庫県出身。

田中澄憲さん

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