大久保直弥の目~ラグビーワールドカップ・日本ーサモア展望

ラグビーのワールドカップ(W杯)日本大会で、日本は5日、サモアとのグループリーグ第3戦に臨む。読売新聞オンラインでサモア戦の解説者を務めるサンウルブズ次期ヘッドコーチ(HC)の大久保直弥さん(44)に、試合の見どころを聞いた。(聞き手=読売新聞オンライン・込山駿)

運動量抜群のジャパン 蒸し暑い気候も味方に

アイルランド戦後半、日本の福岡が決勝トライにつながるラストパスを受ける

ホームの大観衆と熱い応援を、プレッシャーと感じたのがロシアとの開幕戦で、追い風にできたのがアイルランド戦だ。いずれも勝利をもぎ取り、日本は悲願の8強入りへ、これ以上ないスタートを切れた。

日本の最大のアドバンテージが「運動量」にあることも、はっきりしてきた。大会前に宮崎合宿での猛練習で培った体力と、それに対する自信に裏打ちされている。蒸し暑い気候にも慣れている。試合時間が残り20分を切ってからも動きの質と量が落ちないチームは、今大会、日本のほかに見当たらない。接戦で終盤を迎えれば、今ならどんな強豪と戦っても勝てそうな気配が漂う。

規律なきサモア 序盤勝負も勢い続くか

スコットランドのレイドロー(右)に抜き去られるサモアの選手たち

そんな日本とは対照的に、サモアのチーム状態は悪い。多くの選手がヨーロッパやオセアニアなどの強豪国のクラブに散ってプレーしており、個々のパワーと体格は優れている。だが、W杯前に十分な全体練習を積めなかった影響なのか、チームとしての一体感と規律に乏しい。勝ったロシア戦、無得点で敗れたスコットランド戦ともに不用意なペナルティーが多く、複数の主力選手が日本戦は出場停止となってしまった。

仮に万全のメンバーがそろったとしても、日本に比べて仲間のプレーをサポートする意識がないし、フォワード陣が走らなすぎる。スタンドオフのピシは、私が監督をした頃にトップリーグのサントリーで活躍したアイデア豊富な司令塔だが、こういうチーム状態では持ち味が生きない。

日本戦は、37歳のピシを控えに回し、先発スタンドオフを25歳のセウテニに託した。立ち上がりに勝負をかけて日本陣内になだれ込んでくるつもりだろう。ただ、その勢いが長続きするとは想像しにくい。

落ち着いた防御を 初先発の坂手に注目

アイルランドの突進を、日本の選手たちが人数をかけたタックルで阻止

今の日本が普通に戦えば、勝てる試合だ。怖いのは、相手の雑なプレーに付きあって、ラグビーのリズムを崩してしまうことだ。序盤に相手の攻勢を慌てて止めて無駄なペナルティーを重ねたり、トライを欲しがってトリックプレーを連発したり、安易なキックでボールを失い続けたりすれば、自滅パターンに陥りかねない。それは避けたい。

まずは、序盤の我慢と落ち着いた防御が大切だ。アイルランド戦では、1人が下半身に、もう1人が上半身に飛びつく「ダブルタックル」で、体の大きな相手の突進を阻む場面が何度もあった。これをきっちり決めれば、相手ボールを奪って逆襲の速攻という得点機を作れるだろう。

スクラムでの力比べや、高さがものをいうラインアウトでも、サモア戦は日本に分があるはずだ。アイルランドの世界最強レベルのフォワードと互角以上に戦えた力をもってすれば、今回の試合は「日本強し」の印象を序盤から相手フォワードに植え付ける展開に持ち込めるはずだ。

「自信を持って戦えたのが勝因だ。喜ぶのは30分間だけ。次に負けたら意味がない」。そんなアイルランド戦後のリーチ主将の言葉を、頼もしく聞いた。連勝で勝ち点9を手にして迎える不振の相手との第3戦という状況にあっては、気の緩みこそ大敵だ。それを重々承知していることが、リーチの言葉と口ぶりからうかがえた。

激闘だったアイルランド戦からサモア戦までは中6日。相手よりも2日長いし、疲れを取って対策を積むには十分な試合間隔だ。3日に発表された日本のメンバーでは、フッカーで26歳の坂手がW杯初先発し、ベテランの堀江が控えに回った。帝京大、パナソニックと堀江の背中を追いかけてきた坂手は、運動量と激しいタックルが持ち味。緊張するだろうが、チームの勢いに乗って彼らしいプレーで貢献してほしい。

指揮官の苦い記憶を吹き飛ばせ

1999年W杯のサモア戦で、ボールを奪おうとする日本のジョセフ(中央)ら

サモアは、現役時代のジェイミー・ジョセフHCと長谷川慎スクラムコーチ、そして私にとって、苦い記憶のある相手だ。1999年10月3日、平尾誠二監督率いる日本代表メンバーだった私たちは、サモアとのW杯初戦に先発出場し、9―43と1トライも取れずに大敗した。

パット・ラム主将を中心とする当時のサモアは、フィジカル(パワーと体の強さ)が紛れもなく世界レベルで、当たり負けして気おされた選手が日本には何人かいた。元ニュージーランド代表でもあるジェイミーさんは、当時の日本で最高のフィジカルと高いレベルのプレー経験の持ち主だっただけに、人一倍の歯がゆさを味わったことと思う。

現在のジャパンは、20年前のチームとは全く違う。W杯やスーパーラグビーで世界最高レベルの攻防を数多く経験し、サモアのフィジカルに驚くような選手はもういない。私たちの古い因縁を吹き飛ばし、日本ラグビーの進化を改めて印象づけるような、会心の勝利が見たい。

《解説者プロフィル》

大久保直弥さん

大久保直弥(おおくぼ・なおや) 南半球の最高峰リーグ戦「スーパーラグビー」に、代表候補選手らを集めて日本から参戦している「サンウルブズ」で2018、19年シーズンにコーチを務めた。参戦最終シーズンとなる20年はヘッドコーチに昇格する。トップリーグ・サントリーの監督も経験、12年度にチームをリーグと日本選手権の2冠に導いた。現役時代のポジションはロックかフランカーで、1999年と2003年のW杯に出場した。1975年9月27日、神奈川県出身。身長1メートル88。

 

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