ラグビーのキック、田村はすごいと世界的な名キッカーも評価する能力

ラグビーワールドカップ(W杯)では現在、日本代表のスタンドオフ、田村優選手がペナルティーゴール(PG)数10で1位となっており、日本の快進撃を支えている。W杯3大会に出場し、国際試合で1試合9PGを決めたことがある元日本代表の名キッカー・広瀬佳司さん(46)は、田村選手のキックについて、ある能力に注目している。(読売新聞オンライン 河合良昭)

■角度がつくと決めにくい

ラグビーの試合中、ボールを置いて行う「プレースキック」は、トライを決めた後に行われるコンバージョン(2点)と重い反則をした場合に行われるペナルティーキック(3点)で行われる。コンバージョンはトライした地点から縦の延長線上で行う。

キックで得点となるエリア

ラグビーのゴールはアルファベットの「H」形をしており、地面と垂直な2本の棒は「ゴールポスト」と呼ばれ、幅は5.6メートル。平行の1本は「クロスバー」(ゴールバー)と呼ばれ、高さ3メートルの位置にある。キックしたボールが「両ポストかその延長線上の間」で、かつバーの上を通過した場合に成功とみなされ、得点が入る。

キックする場所が両サイドのタッチラインに近づくと、ゴールまでの角度がついてポストの間が狭く見えるため、決めにくくなる。

■風を計算する

キック前は風も計算する。「ルーチン」が話題になった元日本代表の五郎丸歩選手=W杯の前回大会から

広瀬さんはプレースキックで最も重要なのは「ボールにしっかりとした縦回転をかけ、真っすぐ飛ばすこと」といい、角度のある場所であっても技術がしっかりしていれば成功率は高くなるという。ただ、ボールが風の影響を受けるときには、曲がることを計算して、狙う場所よりずらして蹴る技術も求められる。

■ボールを蹴る部分は選手によって違う

ボールの頭をゴール側に倒して置く、サモア代表のピシ選手

ボールは足の甲の内側で蹴るのがほとんど。しかし、ボールのどの部分を蹴るのかは選手によって変わり、ボールの置き方も違ってくる。

前回のW杯で活躍した元日本代表の五郎丸歩選手はボールを真っすぐ立てているが(前項の写真参照)、今大会のサモア代表のピシ選手は、ボールの頭をゴールの方向に傾けて置いている。広瀬さんは、「五郎丸選手はボールの側面を蹴るタイプ、ピシ選手はボールの先端の硬い部分を蹴るタイプ。どちらのタイプがより遠く飛ぶとか、曲がらないとかはない。あくまでも選手が蹴りやすいかどうか」と解説する。

トップリーグのクボタでキッカーだった高橋銀太郎さん(35)は「最近はピシ選手のような置き方が増えてきた。ボールをすくい上げないので高さは出ないが、風の影響を受けにくいというメリットがある。ただ、点で当てて蹴るので難しい」と解説する。

■昔は「砂の器」 今は色と形が様々の「キックティー」

低いキックティーを使う、ウェールズ代表のハーフペニー選手

ラグビーボールは楕円(だえん)形。グラウンドにそのまま立てるのは難しいため、ほとんどの選手がゴルフのティーに似た「キックティー」を台にしている。

芝のグラウンドでは当初、穴を掘って立てていたが芝生を傷めてしまうため、砂を盛って台を作り、その上にボールを立てるようになった。日本ラグビー協会によると、1990年代後半に海外でキックティーが使われ始め、日本でも普及したという。使うときにベンチから運ばれ、使い終わると戻される。

キックティーは樹脂で作られているものが多く、価格は約1500円~約3000円前後。規定は特になく、色や形は様々だ。今大会で選手たちが使用したものを見てみると、ピシ選手が使うものは高さがあり、ウェールズ代表のハーフペニー選手のものは低い。先端を蹴る際に使われるものは高く、側面を蹴る際のタイプは低い傾向にある。

■キッカーがこだわる微妙な差

現役時代の広瀬さんのキック。砂を使うことにこだわった

広瀬さんはキックティーが普及してからも引退まで砂を使うことにこだわった。「キックティーは芝の長短で高さが微妙に変わってしまう。どんなグラウンドでも自分の最も蹴りやすい高さにするため、砂を使ってその都度ベストなものを作った」と振り返る。「ボールをどのように置くかは重要。少しでもズレがあれば、プレースキックを決めることはできない」と話している。

■田村選手は「修正力」がすごい

低いキックティーを使う田村選手

広瀬さんは、所属していたトヨタ自動車の監督が田村選手の父であったことから、田村選手を小学校時代から知っている。「グラウンドに遊びに来ていた、小さかった優君が、キック、パス、タックルに優れたマルチな素晴らしい選手になるとは、その時は思わなかった」という。

その田村選手の良さとは――。「キックは足だけで蹴るのではなく、蹴る足とは反対の手を上げて胸を開き、上半身の回転があり、それに続いて下半身が連動して動き、最後に足を振りぬく。全身をバランスよく使うことが求められる。田村選手は体幹がしっかりして、体の軸がしっかりしているので美しいフォームでキックしている」と指摘する。

さらに、田村選手には「修正力の高さ」がある。

「初戦のロシア戦では、最初のキックを外した。緊張すると体がこわばって上半身がうまく使えなくなり、足だけで蹴っているような状態になるが、彼もそのような感じだった。ただそれを試合中に修正してフォームを戻し、その後のキックを決めていた」と能力の高さを評価した。

20日に行われる次の南アフリカ戦について、広瀬さんは「ここまで勝ち進んできたが、油断すればビッグスコアでの敗戦もあり得る相手。前回大会はキックで得点を重ねて食らいつき、最後で逆転した。今回もキックはカギを握る」と分析している。

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